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第八話

「何かあったのかな?」


「さあなぁ?旅人でも訪れたんじゃないか。ほれ、シャシャイのとこに行くのだろう」


「は〜い」



僕とゼロムが気にせず、裏の牧草地に行こうと歩いていたら、村人―――ゼクセンさんに呼ばれた。

なんだかうきうきしてる。珍しいなぁ。



「おお!ゼロムいいところに、しかもチビまで一緒か!」


「チビって言うなぁ!」


「怒るな、怒るな」


ゼクセンさんはいい人だけど、いい人なんだけど、デリカシーがない!

皆して、皆して!もう、コレって絶対にリセとゼロムの所為だよね!?

皆が僕のことちびっと言ううから、ゼクセンさんとか他の村の人まで、僕のことちびって言ううんだよ。

もう。まともに僕のこと名前で呼んでくれるのって、同い年のティコ達くらいじゃないか!


ぷりぷり怒っている僕をよそに、ゼロムとゼクセンさんは話を進める。



「珍しい事に魔術師が来たんだよ。しかもツラッティがいるって言い当ててな」


「魔術師…なんぞ胡散臭いな。しかもツラッティがいる今の時期にブッキングなど」


「ん、そうか?まぁちょっと聞け。その魔術師がツラッティを退治してくれるらしいんだよ」


「リセが出向いとるから今日中に殲滅して戻ってくるだろう」


「それがそうでもないらしい。なんでも今回のツラッティは普通とは違うんだと。

 ウラド市でもめっぽう暴れたらしいんだ。しかも皮膚が硬化してて普通の武器じゃ歯が立たないとよ」



ゼクセンさんが身振り手振りで話をする。でもゼロムは呆れたように、聞き手に回ってる。

まぁゼロムはリセがすごいって知ってるからね。

ツラッティが普通じゃなくても、リセなら平気って知ってるんだもんね。

でも僕が気になったのはツラッティよりも、ウラドって単語。初めて聞いた。


「ウラド…?」


「おう、チビは知らないか。ポリメシアから馬車で一月行ったところに有るでっかい街だ」



そっか、馬車で一月もかかる所に大きな町があるんだ。

貴族っているのかな?町の人はどういう生活をしてるんだろう。

町には魔術師ばっかりなのかな?



「では、そこで発生したツラッティがポリメシアまで逃走してきたと言う事か?」


「ああ、魔術なら直ぐに方がつくから安心しろっていってたな」


「じゃぁリセに任せれば平気だね。リセは魔術使えるし。ね、ゼロム」



「「「「え?!!」」」」



僕の言葉に、ゼロム以外の人達が驚いてた。

何時の間にこんな人が集まってたんだろう?



「そ、それは本当ですか?この村に魔術師が…」



誰だろ、この人知らない人だ。

魔術師…?

というか…



「え、皆知らなかったの?四年前洪水が起きた時、川の水塞き止めてくれたじゃん」


「か、川の水を塞き止めた?!」


「おお、そういえばそうだった」

「橋の修理とかもしてくれたよな〜」

「やだ。それはリセじゃなくてオーマよ、あなたったら」

「ふむ。言われて見れば、川に落ちた子供達を助けてくれたな」



魔王(リセ)が人助けか…ちび、実はお前も川に落ちたくちか?」


「え、ゼロムなんで知ってるの?あの時いなかったよね」



す、すごいよゼロム!

いつもは全然冴えてないのに、どうして判ったんだろう?

あの時はゼロムと出会う前だったのに…拾う前だったのに!




「なんとなく。(やっぱしな。ちびが落ちたから助けただけか)

 まぁ遠路はるばるこんな辺境に出向いといてご苦労だったな魔術師殿。

 だが此処には非常に規格外な人外がいるから、心配せずともツラッティなんぞ殲滅する、いても無駄だぞ」


「え、しかし、でも…そ、その者は正規の魔術師なのか?!」


「正規?魔術師って魔術を使える人の事を言うんじゃないの?」


「知らん。正規でなくとも魔術使えるんだから問題なかろう」



ゼロムは何だかさっさとこの場を離れたがってるみたい。

でも正規の魔術師って何の事だろう?

村の人達も首をかしげているし、でもこの魔術師?の人はすごく焦ってるみたい。

ツラッティってそんなに強暴だったっけ?


「しかし―――」

「くどい!」



「うわっ」


ゼロムが僕を担ぎ上げた。

ど、どうしたんだろう、いきなり怒鳴るなんて…

周りの人も驚いてみてるし。っていうか、僕も担がれてびっくりだよ。



「そこまで言うなら勝手に退治するがいい。そこの道は山へ続いている。

 ま、お前が行った処で既に事は終えているだろうがな、さて、ちびよ行くぞ」


「う、うわー。ゼロムおろしてよ」


「こっちのが早かろう」


「う〜」



僕は揺られながら運ばれた。

そしてゼロムに運ばれながら思った。



「ねぇ、ゼロムって魔術師がキライなの?」


「いや…あまり良い思い出が無かった、だけだろうな」


「?」



まるで他人事だ。

ゼロム自身が魔術師を嫌ってるんじゃなくて?



「ケルト=エンゼリカと言う魔術師を知っておるか?」


「しらない。僕が知ってる、魔術とか使ってる人はオーマやリセだけだよ」


「そうか…ケルトはな、魔術師だったらしい。しかしその境遇に耐えられなかった。

 儂はケルトが人間とは思えなかった。変っていると、面白半分で色々と付き合ってたんだ。

 それから儂はケルトと友人になった。友人になって暫くしてから、ケルトは死病に掛かった。

 そして初めてアイツから打ち明けられた時は、酷く混乱したものだ。人間の魔術師だなど…思わなかった」


「魔術師って人間がなるものじゃないの?」


「なぁちび。儂の故郷は何処だと思う?」


「?ゼロムの故郷…貴族が、近くにいたから王都の方?」


「いや、七つの都市(ジーベンビュルゲン)がある、黄昏の都(トランシルヴァニア)だ。

 お前達の言葉では森の彼方の国(エルデーエルヴェ)と呼ばれていたか…」



うそ…だって森の彼方の国(エルデーエルヴェ)は絶対可侵の国だっておばあちゃんが言ってた。

誰もその境界を越えてはいけないって、超える事ができても、とても大きな代償を払うって。

ポリメシアに住んでる人は誰もその境界まで行かない。

僕は、時々見に行くだけ。それでも皆にはいい顔されないのに…


ゼロムは、森の彼方の国(エルデーエルヴェ)からやって来た?

でも、



「それって…どうやってポリメシアにこれたの?!」


「ケルトの魔術(ちから)があったからだ。 儂の能力(ちから)は酷く使い勝手が悪い」


「ちから?ゼロムも魔術が使えるってこと?」


「いや、儂では無くケルトの才能だ。儂はケルト(あいつ)の力を喰ら(うば)った」


「う、うばった?え、それって、魔術って、才能とかって奪えるの?!」


「ああ、儂の場合はな。寧ろそれしかできん。全て奪った。全てを喰ら(うば)い尽くした

 記憶(ちから)を、思い出(ちから)を、未来(ちから)願い(ちから)を全てだ―――ケルトの死と引き換えに、儂はアイツの(ちから)を手に入れた」



ゼロム…何だか苦しそうだ。

悲しいのかな、寂しいのかな―――それとも、悔しいの?



「友達が、死んじゃって辛いんだ。その友達と同じ魔術師を見ると思い出しちゃうの?」


「―――…そうかも、しれんし。そうじゃないかもしれん。

 いや。コレはきっと、ケルトの記憶(むかしのこと)だ。昔の事…幼い頃の記憶」


「…あの魔術師の人、早くいなくなればいいね」


「珍しいな。ちびが人を邪険に扱うなど」


「ゼロムが寂しそうな顔してるからだよ。ゼロムが傷つかないならその方がいい」


「そうか…すまんな。さて、ではシャシャイの毛をさくっと刈り取るとするか」


「うん!」


ゼロムは僕を抱えなおした。

さっきは肩に担がれたけど、今度は片腕で抱っこされた。

そして僕達はうらの牧草地へ行く。シャシャイの毛を刈り取りに。

刈り取った毛をおばあちゃんに届けて、午後は糸紡ぎのお手伝いだ。





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