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かんちがい  作者: ミミタブ
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一編『友達』

 学校が終わり、身支度をしているといつも声をかけてくれる友達がいる。

 「太一、一緒に帰ろうぜ」

 「ちょっと待って!職員室に日誌、置きに行かないといけないから」

 「お前、日直か。じゃあ、先に玄関行って待ってるわ」

 「わかった」と彼の背中越しに声をかけて、僕も教室を出た。


 彼の名は成瀬涼という。とても明るく、誰とでもすぐ仲良くなれる資質を持っており、外見だって良い方だと思う。クラスでは、人気者だし、みんなが憧れるような存在だ。欠点を強いていうならば、バカなところである。


 クラスの人の中には、なんで僕と絡んでいるのか?不思議に思う人がいたって、おかしくはない。僕とは、性格がまるっきり正反対なのだから。


 最初は涼のことは嫌いだった。なぜ、彼と接点を持つようになったのかというと、半年前に遡る。


 半年前、一年生の夏頃、僕はいじめられていた。いじめの内容は、私物を隠されたり、机に落書きがしてあったり、変な噂を広められたりなど、証拠が残らないようなものばかりだった。いじめをしていた奴は、きっと性格の悪い奴だと思った。直接的な被害はなかったから、ほっとくことにしていた。ほっとけば、自然に静まるものばかりだと思っていた。


 しかし、一向に収まる気配はなく、日常茶飯事になっていた。「はぁー」とため息が出る。僕が何を悪いことをしたっていうのか、意味がわからなかった。少し萎えていた。


 クラスの奴らは、全員、見て見ぬ振りをしているのだから、同罪だと決めつけていた。心の中で「死ね、死ね、死ね、全員死ねばいい」と思っていた。

そうやって、自分自身を保っていた。


 ある日、机の落書きを消していたら、一人の男の子が声をかけてきた。それが成瀬涼である。

 「大丈夫か、悪い、いじめられてるの全然気づかなかった。消すの手伝うよ」と言ってきた。

 でも、僕は、今頃気づいた!だと…。一ヶ月近くも経つのに「ふざけんなよ」と思った。こういういじめられている奴を助けて、自分は悪くないみたいな、偽善者ぶってる奴を見ると胸糞悪い。彼の善意を素直に受け入れることはできなかった。


 だから、僕は悪態をついて「別に無理しなくていい」と応えた。

 でも、彼は僕の言ったことを無視して、勝手に机を黙々と拭いてくれた。

 周りから、「何アイツ」、「調子乗ってんじゃねぇーよ」「涼くんかわいそう」「謝れ」「性格悪」など罵声が飛び交っていた。

 僕にとっては、「お前らの方が性格悪いだろう」と思っていた。

 机を拭き終わると、「また、何かあったら手伝うから、呼んでくれ」と言われた。僕は無視した。


 今思うと、彼の言っていたことは本当で、鈍感を通り越して馬鹿だったと言える。


 その日以降、事あるごとに、何も言ってないのに、彼は手伝いにきた。

 僕は彼のことを犯人ではないのかと疑っていた。良い人ぶってる奴ほど怪しく感じる。それに、何も言ってないのに、異変に気付いて、すぐ手伝ってくれる。なぜ、異変が起きたと気付けるのか奇妙に感じた。これは大きな間違いだった。この時、僕はもう正常な判断ができていなかった。


 いじめの被害を受けてから、三ヶ月が経とうとしていた。いつも通り、彼は手伝いに来た。僕はもう精神的に限界がきてて、彼に言ってしまった。


 「もう、偽善者ぶんなよ、ほっといてくれ!」

 場は、一気に騒ついた。でも、彼は黙ったまま、話を聞いていた。


 その後も、僕は彼に怒りをぶつけた。

 「お前、惨めな僕の姿を見て、楽しいんだろ。本当は心の底で笑っているんだろ」など嫌味を言った。

 それでも、なお彼は、黙っていた。

 最後に極め付けに「お前が犯人なんだろう」と口走ってしまった。

 すると、彼は悲しそうな表情で「ごめん」とだけ、ぽつり呟いて、その場から去ってしまった。彼の去っていく姿が寂しげに感じた。でも、今は自分のことだけで精一杯で気にかける暇などなかった。


 途端に教室の雰囲気が一気に変化した。クラスの全員から責められて、全てを敵に回した。例えるなら、オセロで僕の白の駒、一つ以外が一瞬で黒になったような感じである。でも、僕は普段から一人で行動しているから、左程、気にならなかった。


 だが、しかし1日中、空気が重かったためか、先生たちが授業をやりづらそうにしていたので、この日を境に休むことにした。


 僕も多少は悪かったので、反省の意を込めて一週間休んだ。

 親には罪悪感が少しあったが、仮病を使って、どうにかしのいだ。


 しかし、「長く休みすぎると〜したくない」と思うのは本当だと思った。学校へ登校するのがだるく感じる。


 学校に着き、教室の前でなんとなく深呼吸してから入った。痛い視線がちらほらあったが気にせず、自分の机の前まで一直線に向かった。

 「どうせ、何かしらされてるだろう」と思ったが、いい意味で裏切られた。

何もされてなかったのだ。その日以降も、一切何も起きることがなかった。


 ここ数日が経ち、僕が1週間休んでいた時の詳細を知らされた。

 朝、席に着くと、隣の席の佐藤綾が「これ独り言だから」と言って、勝手に喋り出した。話の内容を聞いて、僕に話しかけているのだと、理解して聞く耳を持った。


 簡単に言うと、こうだった。

 「成瀬がいじめの主犯格を見つけて、二度としないように注意したこと。それと、クラスのみんなに僕が悪気があって、あんなことを言ったんじゃないと説得してくれたことだった」


 彼女曰く、このことは成瀬が「みんなに僕に伝えないように」と強く念押ししていたらしい。

 僕が罪悪感でも、感じるとでも思ったのか、配慮してくれたらしい。

 僕は「どんだけお人好ししなんだよ!」と思った。

 しかし、なぜ彼女が僕に教えてくれたのかは、わからないが、彼女にお辞儀をして、成瀬のもとへ向かった。


 成瀬に「昼休み、ちょっと時間いいか?」と尋ねて、すぐにOK返事をもらい、その場を後にした。


 昼休みになり、成瀬と屋上に向かった。外はとても天気が良かったが、風が少し肌寒く、季節の変わり目を感じた。

 成瀬はというと、「天気良くて、昼寝日和だな」と言って、大の字になって倒れた。子供っぽく感じた。

 彼に時間を取らせるのも悪いので、すぐに話を切り出した。

 「成瀬、こないだのことなんだけど、ごめん」

 「ああー、別に気にしてねぇーよ」とあっさり返ってきた。

 僕が完全に悪いから責められても仕方がないのに、あっさりしずきて、唖然としてしまった。

 僕の姿を見て「早見、どうした?」と言われた。

 「成瀬が気にしてなくても、僕の気が収まらないから、お詫びをさせてほしい」

 「じゃあ、友達になれ!」

 「それだけ?」と聞き返した。

 「うん、拒否権はねぇーからな」

 聞いた瞬間、自然と笑みがこぼれた。

 「馬鹿にしてるだろう!太一」

 「嫌、ほんと、成瀬は損する性格してると思って」

 「それ、馬鹿にしてるよな?まあ、でも器の大きい漢だから許してやるよ」とカッコつけて言っていた。

 「馬鹿を通り越して、大馬鹿だな」


 成瀬は起き上がり「この野郎!てか涼って呼べ」と叫んで追いかけてきた。

 僕は涼について思った。「純粋に良い奴」なんだと。

 数瞬前の肌寒さが忘れられるくらい、この空間が温かく感じた。


 今回の件で、誰しもが悪い部分があるのではなく、成瀬涼のような純粋な善人が稀に存在することを知れた。


 玄関で待ってた彼に「お待たせ」と声をかけた。

 「遅えよ、もしかして可愛い子にでも足止めでもされてた?」と悪ふざけで言ってきた。

 だから、僕も冗談で「そうだよ」と応えて、彼の反応を見て「嘘だよ」と言って笑った。

 「嘘かよー」とか言って渋りつつ、「彼女ほしいなあー」と呟いてた。

 「涼なら、かっこいいからすぐできるでしょ!」

 「キモいわ!お前に言われても嬉しくねぇわ」

 そんなことも言いつつも、少しだけ喜んでいるように見えて笑った。

 その後も家路では、くだらない会話が続き、笑いが堪えなかった。


 僕にとって、きっと「成瀬涼」のような存在が「生涯の友」と呼ぶのにふさわしい。

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