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ダンジョンの管理人さん  作者: 鱶山ぱかお
初心者用ダンジョン編
5/7

【5】スライムの踏み心地

ひとまず管理人室に集合する従業員。鍵の壊れた宝箱に鎮座し、足を組む女子高生。


本来、畏れの象徴としてその姿形を成す魔物モンスターとは相反し、その姿は美を模している。


息を飲む従業員モンスター達。又、まるで写鏡の様に、女子高生も目を丸め息を飲んでいた。


筋骨隆々な外郭を持つゴブリン族。緑色の肌に血管が盛り上がり、その爪も、その牙も、確かな殺傷能力を備えている。


そしてスライム族。彼女はそれに目を惹かれていた。呼吸器官や循環器官の一切を掴めぬ、青磁色の半円体。


その愛らしい外郭に、女子高生は興奮気味に訊ねる。


其方そち、名を何と申す」


「プギュッ」


「プ、プギュッと申すか。そうかそうか。愛ほしのう、粋じゃのう」


「あ、いや、すみません。ピノ・ローブレイブ、です」


スライムは金輪際「プギュッ」以外の言葉を禁じられた。申立により棄却されたが。


「近う寄れ」と傍に置かれるスライム。膝下まである紺のソックスを脱ぐと、陶器と揶揄されても可笑しくない、長く、美しい脚が伸びる。


薄紅色の爪が五枚弧を描く爪先が、そのまま、スライムを踏んだ。足裏の重量により凹型に形を変えるスライム。


その際に一瞬覗いた、唇と同色の下着に、スライムは思わず血を一筋垂らす。


「ピ、ピノ君、君、血、出るの…?それは鼻からなの…?鼻血なの…?」


と、ゴブリンB。


「い、いつも有無を言わさず木っ端微塵だから、驚愕の事実だ」


と、ゴブリンA。


その傍らで甘美の表情で震える女子高生。息遣いも荒く、規制が必要な程に悶えている。


「はあ…あ…っ、気持ち、良い…っ」


要規制である。


無論、スライムの踏み心地に悶えているのだが、指が反り、小刻みに跳ねる姿は、あまりに官能的である。


「妾の名は、暗黒界の王、ライヴ・アルドメドゥーラ・キラⅨ世である」


踏み心地にも慣れた頃、ようやく本題へと移る。


「種族が女子高生の、たかもと しきさんです」


即座に訂正するエルを一睨み。


「此の方は”黒色の履歴書”から採用したんだが、黒色の履歴書について、情報がある者、挙手」


その一睨みを余所に、話は進む。


だが”黒色の履歴書”は前列に無い物。当然、挙がる手などある筈もない。


「黒色の履歴書とは何じゃ」


「当の本人がこの有様なんだ。推測するに、彼女にはこの世界の情報、つまり記憶が何一つない」


「侮るでない。ここは剣と魔法が織り成す夢物語ファンタジー。妾はその王、暗黒の王、魔王である」


高らかに笑う女子高生を尻目に、エルは消える様な声で「それはない」と漏らす。


「君の言う様に、この世界は剣と魔法が織り成している…───」


──…嘗て、勇者率いる王国軍と、魔王率いる帝国軍が敵対し、血が血で染まる悍ましい時代があった。


それも一通の報せにより一変する。それは内乱による、帝国軍の頭目、魔王の死。


統率力を奪われた帝国軍側。王国軍は好機と言わんばかりに攻め入り、ついに、勝旗を振った。


そして、勇者の判断により、人間は魔物モンスターを滅ぼす道では無く、管理する道を選んだ。


それが、迷宮ダンジョン制度である。管理資格を持つ者が魔物モンスターを雇い、従業員として、人間社会の共存を謀り、管理する。


履歴書もその為の物で、白、銅、銀、金、虹の資格ライセンスにより色が変わる。白は安く、金は高い。白は弱く、金は強い。至極単純である。


「妾の”黒”は何処におる」


「どうかな。白より弱いか、虹より高いか。調べる必要がありそうだ」


「ふむ、ならば仕方ない…───」


そう言って目を瞑り、果肉程に潤う唇を引き伸ばすと、指を一本立てた。


「妾を雇え、うつけ」


「ああ、そのつもりだ」


「ほう、話が早いな」


「当然。俺が君を雇ったんだから」


何が気に障ったのだろうか。”君”だろうか、”雇った”事だろうか。知る由もないが、知る必要もなさそうだ。


兎にも角にも、女子高生は瞳孔を開いてこう言った。


「妾の従僕にしてやろう、うつけ」


「ま、まじか…っ」

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