アルティミット
初とーこー
よろしくね
今、俺さんの目の前で起こっている事に、誰か説明出来るヤツはいるだろうか。
いるのであれば、ぜひとも連れて来て欲しい。
なぜって?
脳の理解力が軽く限界をぶっちぎりそうだからだよ。
誰がこんな事が起きると思う。
誰がこんな生物を想像出来ると思う。
星よりもデカく、銀河よりも長く、太陽まで喰らう化け物なんてモノをよぉ……。
その日、世界は震撼した。
ある者は言う、世界の終わりだと
またある者は言う、神の降臨であると
いや、実際には本当になんなのか…それが分かる奴は居ない事だろう。
最初は些細な、だが専門家に言わせれば大きな事件だったらしい。
俺さん達の住まう、この宇宙の形は日夜、天文学者達が調べ上げ、ある程度その形を明白なものに仕上げている。
結果的に、アメリカの有名な科学雑誌が宇宙の形は泡であると発表した。
これに対し同じくアメリカの新聞社などは「宇宙はバスタブか?」などとジョークを交えた記事を載せたものだ。
俺さん達の宇宙はあまりに広大で、未知で、雄大で、恐ろしい…、それがある程度とはいえ形が知れたというのは未知を既知にする、まさしく人間の本能か、あるいは習性と言っていいのかもしれない。
閑話休題
話が逸れたが、事の起こりは言ってみれば泡の中、即ち人間から未元物質と呼ばれる事になったダークマター……その中に影が観測された事にあった。
ダークマターは光を湾曲させる性質を持っているらしい、何百光年と離れた星の光を歪ませて観測されていた事が確認されている。
つまりはダークマターは無色透明かもしれず光を透過させ、しかし歪ませる性質を持つ、こいつぁなんの冗談だろうな。まんま俺さん達の知る泡と同じじゃねーか。
まっ俺さんの感想はともかくとしてだ。そんな性質の泡の中に突如、影を発見したというから大騒ぎだ。
未元物質というだけあって、まだ全く研究もされていないダークマターの中に、更に訳の判らないモノが現れたというのだから。
そして、その日から天文学者達は興奮を隠しきれないように、皆忙しなく動いていた。
俺さんか?、俺さんはなー、実は宇宙飛行士でな。次回の打ち上げの為にと訓練の真っ最中だったのさ。
それからもニュースなんかで度々この影について取り沙汰された事はあるが、それでも当時の世間の関心は大統領選挙であり、影の話題は直に消えていった。
だが、今から約三年ほど前に突如として、政府による放送がなされたのだ。
ダークマター内に確認された影は惑星規模の生命体である可能性が高い……と。
当然、力のある国はコレに対して対抗策を考慮するべきではないかと、国連議会に持ち掛けたが今現在は差し迫った脅威ではないとし、この案は見送られた。
今考えりゃー、あの時逃げ出す方法でも構築できてりゃ、まだマシな結果になったかもしれないのに……、いや今更か。
外宇宙からの生命体の来訪、それも惑星サイズ。コレに対してなにやら思う所でもあったのか、新興宗教関連が忙しなく騒いでいた。
やれ神の御使いだの、神そのものだの、あるいは世界の終焉だのと、とにかく騒がしかった記憶がある。
これが更に切実になり始めたのは、…今から約二年前だ。
このままの進路を生命体が進めば、地球を有するこの銀河系に向かう確立が九十パーセントを超えたのである。
さらに悪いことに、今まで惑星規模と曖昧にしか言われてこなかった大きさも、今回正確に銀河系に比するとされたのである。
これによって、ようやくさすがにマズイと感じたのか各国首脳人も本腰を入れ始めた。
まずはセオリーといえばセオリーだが「友好のサインを送ってはどうか」なんていう、今考えればそんな発言をした馬鹿を殴り殺したくなるような案に対し議論がなされたらしい。
結果としては棄却。当たり前だが惑星規模の生命体に対して一体どうやってコミュニケーションを取るのか全く判らないし、なにより銀河系規模という事は、それだけで引力が発生している可能性がある。
まして、今からコミュニケーション用の機材を製作していては到底時間的にも間に合わない。
その生命体が、地球を含め銀河系列の惑星にどれだけ影響を及ぼすかも未知数だ。
悠長に待っていたら、生命体の引力の影響を受け地球が太陽の周回軌道から外れましたなんて笑えないにもほどがある。
だが、そんな結果如何に関わらず、その会議は…結局、あまりにも貴重な時間を浪費しただけで終わってしまった。
次点に考えられたのは、まぁこれもセオリー通りといやぁその通りだ。
核。
だが、結果だけ言ってしまえば。全く持って意味が無かった。
どうやら生命体は一種のエネルギーフィールドを形成しているらしく、かすり傷にもならなかったとか。
でだ、結局世界中から打ち上げられた核兵器総数三千七百本。なぜそんな数になったかというと、ブースターの燃料が当然の如く足りなかったからだ。
だから核の爆発力によって核を飛ばす事にした。爆発は時限式。当然全てうまくいくハズもないが、ほかに方法も無かったのだ。
最初は面制圧のように、あるいはショットガンの散弾のように当て、エネルギーフィールドがあると分かってからは一点集中とばかりに顔周辺を狙い、だが何も効かなかった。
今度は、宇宙飛行士の精鋭を集めエネルギーフィールドを突破出来る様に改造されたシャトルに乗り込み、直接生命体の急所で爆破する。
そんな作戦が取られたのだが、そもそもフィールドを乗り越える事すら出来ず、触れた時点で呆気なくスペースデブリの仲間入りになった。
正直言えばやるせなかった。彼らは俺さんにとって仲間であり友だったのだから。
挙句、対象との距離を考えれば片道の燃料だけしかなく核も積まねばならない。
第二次世界大戦における、日本のバンザイアタックみたいだ…ふとそんな事を思ってしまうほどに、そのときの俺は呆然としていた。
時間も、もはや切れた。あと数ヶ月後にはお空のお月様のようにハッキリクッキリあの化け物が見える事だろう。
ここに至って、人類はようやく気付いたのだ。
絶滅の危機に。
正直、それからの事はあまり思い出したくない。
思い起こすのもバカバカしいほどの殺し合いと、奪い合いを行う人々。
泣き合い、抱き締め合い、嗚咽し涙を流しながら助けを請う人々で溢れた広場。罵声や怒声が飛び交う政府官邸。
一体どこに逃げようと言うのか道路には車が溢れ、車列が渋滞を起こしていた。自棄を起こした者が火達磨になり。男が女を襲い、だが誰もそれを止めない。
誰かが言う地獄だと。だが俺さんは違うと思った。
なぜなら、木も水も大気も大地すらも、全てを奪い尽さんとあの化け物はやってきた。
俺さんは、この目に焼き付けよう。
地表は捲れ上がり、海水は渦を巻き吸い上げられ、マントルが剥き出しとなり、いままで星だったモノが打ち崩されていく、その姿を。
今、俺さんがシャトルから見ているこの光景こそが地獄なんだろうと思えたからだ。
カキネのテートくんのせいでダークマター関連がメチャクチャだよ