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オーバーパート(タイマー)

作者: はるきりばい

狂気を内包したまま、欺瞞に満ちた世界を歩く。いつか解放されるのだろうか、それとも。(注:微推理要素あり)

ぼくのなまえは三井アウト、どこにでもいる元気いっぱいの中年アルバイト(45)だ。

なんでも最近の日本ってやつは僕の同類を大量に生産しているらしい(仲間が増えるよ、やったねアウちゃん!)。


たかし(生産したはいいが、需要がなくなったのでスクラップにするべきところを放置しているといったほうが正しいのかも…。)


そんな昨今の経済情勢を反映した当然の帰結なのか、僕の職場に53歳のニューフェースが綺羅星のごとく登場したのも珍しいケースではないのだろう。

彼の名前は最後野スクイズ。大手自動車メーカーで研究職をしていたという、ぼくとは比べ物にならないエリートだった。

なんでも社内の研究施設閉鎖に伴って、余剰人員の整理対象とあいなってしまったらしい。へー。

前職ではエンジンの熱応力によるひずみによる機関の致命的な破壊を防ぐため、日夜しこしこと設計案を考案していたという。なんのことやらさっぱりだ。


とはいえ、この職場ではぼくのほうが偉いんだぞ。

ちゅうわけで、ぼくもバイトリーダーの自覚をもって新人中年アルバイトをびっしばっしシゴいていく所存である。


■職場にて(登場人物:アウちゃん、スクイズくん)


こうこうこうして、あれしてね。

ふむふむふぅーむ。なるほどですね。

うんうん、さすが優秀だ。見込みある。


彼は持ち前の頭脳を生かしてすぐに業務内容を頭にたたっ込んでしまった。焦る。

そこでアウちゃん考えた。あれ、これってもしかしてアウちゃんやばいんでねーの?

このまま数日過ぎればスクイズくんはアウちゃん余裕でぶっちぎるね。うん、だめねそれ。


アウちゃんは粗でも野でもないが、卑ではあると自負する通り、とってもせこい人間なのだ。

これではバイトリーダーとしての威厳が保てんではないか。

そこで一計を案じる。みててくれ、これが謀略のアウちゃんだ。


しめしめ、とアウちゃん職場を後にする。その日はとっても疲れたので発泡酒飲んですぐに寝た。


■百均ショップにて(登場人物:アウちゃん)


これだ。これで我が謀略の最後のピースがそろう。

ワンピースとは人を陥れるための百円グッズだった。


■とあるキャフェー(登場人物:スクイズくん、転職エージェントスミス)


まさか自分が50を超えて、急なリストラに遭うとは思ってもみなかった。職場では言語に絶する嫌がらせを受けて退職に追い込まれた。

これまで会社に尽くしてきた私に対して、このような仕打ちをした会社にたいして私は憤りを感じていた。(世界はどこまで私を試す?)


妻と子供には会社を首になったといまだ伝えていない。伝えられるわけがない。私にもメンツがある。

毎日、これまで通りにビジネスカジュアルスタイルで研究所に向かう体で毎日を過ごしていた。

とはいえ、この歳で再就職というのもすんなりとはいかなかった。


転職エージェントは私の職務経歴書を眺めながら気だるげにつぶやく。

「最近はメーカーも人を雇うことに消極的なんですよ。優秀な方であればすぐに雇いたいとおっしゃっているんですがね。」


優秀。久しぶりに意識する言葉。

学生時代の私は誰よりも優秀だった。それが、就職をして手を抜くことを覚え、気づけば無能な企業内研究者となっていた。

営業に回されそうになったこともあるが「やだもん!」と頑として拒否した。


そんな私に今更市場価値があるはずもなかった。わかっていた。すべて、最初から。


帰り道に電柱に貼ってあった求人へヤケクソで応募したら即採用された。

なにもしないよりマシだろうか。とりあえず働いてみることにした。


■職場にて(登場人物:アウちゃん、スクイズくん、店長)

ついにアウちゃんの謀略を実行するときが来た。

その日はてんちょが珍しく店にいても意識のある日だった(普段は意識がない)。

とにかくそういうものだと思ってほしい。てんちょは本日意識があった。


「三井くん、最後野くんはどんな感じかな?」

てんちょがぼくに尋ねる。

「スクイズくんですか?すごくデキますぜ。」

当たり障りのないほめ方をしておく。優しい先輩だからね。


「三井さんが丁寧に教えてくださるので何とか業務をこなすことができていると思います。」

なんだなんだ。これが社会人というものを何十年と続けてきた御仁の社交術か?!

スクイズくんの模範解答にぼくはしばし感じ入った。


「謙虚!実るほど頭が下がる稲穂かな。」

「なんですそれ?オナホ?店長お昼からなにいってんです?」

てんちょは時々よくわからないことをいう。


仕事を黙々とこなす。そろそろ頃合いだな。


ぼくは懐に隠しておいたアレをつかって、スクイズくんの頭をマッサージするように手元のアレをピストン運動させた。


「あひゅん!」

「えっ、なにいまの」

てんちょがいぶかし気にスクイズくんに尋ねる。


そう、アレで頭をマッサージされるとすごくゾワゾワするのだ。

アレの説明:なんか形状は、お茶を点てるときに使うやつに似てる。なんか曲がった金属製の棒がいくつもついているやつ。


「いま三井バイトリーダーが私の頭になんかキモイのでぐりぐりしてきたんです。」

「きもいのって?なにかな?」

「あ、あれあれ?ない。いま変なので私の頭をぐりぐりしましたよね?!」


「いやあ」当然しらを切りとおす。


そう、僕の頭は某カバの妖精のお話に出てくる、ヒス持ち女のようなちょんまげスタイルなのだ。

そこに例のアレを隠せば、凶器はおのずから消滅する。完全犯罪はここに完成するって寸法だ。

(しかも、気持ち悪いすだれ状に前髪を垂らしているので金属の棒状のきもいやつも隠ぺいされる。)


~~昼飯時

ぼくはスクイズくんが卵焼きをほおばった瞬間を見計らってまたアレで彼の頭をピストンした(ほれほれ~)

「ンホォ!」


スクイズこと中年男性の剃り残しの残る口元から半端に咀嚼された卵焼きが「ピュピュン!」と飛び出した。

その卵焼きがてんちょの口に入り、てんちょの口に入っていたお米と合わさって卵ごはんになった。

「うわっきたな!ぺっぺぺえ」

てんちょが焦る。


ふぅ、と一息ついたてんちょがおもむろにに言葉を発する。

「最後野くん、奇声を発したり汚い食べ方する人はうちには要らないから。もうこなくていいよ(どうぞ)。」


「いや、違うんです。バイトリーダーが…」

「三井君のせいにするの?もうかえって(どうぞ)」


「そうですか、もういいです。」

スクイズくんの雰囲気が諦めの色に変わった。諦め色の覇気だ。


立ち去り際、スクイズくんはぼくに向かって

「くそが、しばくぞ。夜道に気を付けとけよ。マジでな。」と毒づいた。


こうしてスクイズ君は「やめたらぁ!」とばかりに辞職した。


意外と口の悪かったスクイズくんを見送ったあと、ぼくはホクホクと仕事をこなすのだった。

アウちゃん大勝利。


その日の帰り道、ぼくはルンルンと家路についていた。


突然どこからともなく声がした。

「お前が下らねーことしなけりゃ、このまま人生を誤魔化し続けて終えることができたのに」

スクイズくんの声だ。


そのとき、後頭部にゾワっとした感触を覚える。

「んあ”!!」


「1,2,3,4 ガンガン ズンズン グイグイ 上昇

5,6,7,8 毎回 ビッグ キック Check yeah」


スクイズくんは手元のアレを使ってさらに激しいピストン運動をリズミカルに繰り出す。

「うおおおおおおおおおおおおお夢に向かってフルパゥワーーーー!!!!」


「あっあっあっんん””んぎいいいいいいい」

スクイズくんのメロウ(メロではない、念のため)なラップを耳にとらえながら次第に遠のいていく意識の中、ぼくは不思議と仕方ないかな、という心もちでいた。


たかし(人があつまりゃ政治が始まる。浮世の階級闘争からは誰も逃れられんのだよ。)

いかがでしたでしょうか。

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