モンスターだらけの街 三話
入学式も終わり、それぞれが各々のクラスへと戻ります。いやあ、中々にカオスな入学式でした。
生徒はみんな人間の格好をしていました。その事を凛花に聞くと、どうやらみんな、何かしら人間に化ける術を持っているとの事。なんでも、人間界に紛れ込む為にどの種族も覚える事を余儀無くされたらしいです。なんと便利な。
でも、壇上に上がった校長先生は全く隠す様子はありませんでした。どんな仕組みか極小な雷雲の上に乗り、分かりやすく太鼓のようなものが複数付いた輪を後ろに付けています。白いお髭を蓄えている、いわゆる雷神的なモンスターらしいです。
しかし人間だろうとモンスターだろうと、校長ポジションにいる人は話が長いというのが常なようです。私も一瞬寝かけました。嘘です、爆睡してました。
まあそんな困難も潜り抜けて、私はこの一年二組への所属が決まった訳です。因みに凛花とはお隣さんです。角吹の『つ』と、望月の『も』では割と離れてて、丁度隣となったわけです。良かった、ぼっち回避出来て。
「じゃあ一年間よろしく。先生の名前は真堂信助です。種族はウィザードだから、よろしくね。じゃあ男子の一番から自己紹介していって」
……え、ちょっと待って何それ。もしかしてもしかしなくてもこれ、自分から種族とか暴露していく感じですか。
なんて説明すればいいのこれ。人間ですって言えばいいの。周囲がモンスターだらけの状況で己の無力さを晒さなきゃならないのか。
(ぬおおおおおおおあのクソ教師面倒くさい事しないでよおおおおおお‼︎)
人知れず頭を抱える私。もちろん、現時点で出席番号八番まで来ても、自分が人間という人は一人としていません。どうすればいいんだこれ。
「……お、俺、小岩剛。よ、よろ、よろしく。あ、ご、ゴーレム、だから」
(なんか朝見かけた巨人いるゥゥーッ⁉︎ しかもなんか人見知りっぽい‼︎)
朝の全力疾走を見てしまった私からすると、なんだか妙に不安になってしまいます。彼、見た目と裏腹にパシリとかにされるタイプじゃなかろうか。一人だけ人間になれてないし。大きさは調節出来てるけど、肝心のその脚ちっちゃくて上半身がデカいアンバランスさを隠し切れていません。化けるにも上手い下手とかあるのか。
「……空知千鶴。種族はハーピィ。……よろしく」
今度は無口系男子の空知君。割とイケメンで、片目が隠れる程の前髪が特徴的です。というかハーピィって言ったら魅惑のお姉さんに翼的なのしか想像出来ないんですが、男って珍しいんじゃないでしょうか。というか、種族的にアリなのでしょうか。
────なーんて考えてるうちに、いつの間にか私の目の前まで来てしまいました。前の子はどうやら化け猫の一族かなんかのようで、猫耳生やして尻尾をフリフリしています。彼女が立っている今、その長い尻尾が非常に邪魔。
「はい。えー次は……角吹さん」
「はっ、はい!」
ちょい待て、考える時間を下さい。……とも言えず、わたわたと考える事が決まらぬまま、ぶっつけ本番で私は自己紹介します。
「え、えっと、角吹藍です! その、えっと……よ、よろしくお願いします!」
「えー因みに、種族は何処?」
(余計な事聞いてくんじゃねえよこの野郎おおおおおおおおお‼︎‼︎)
あ、忘れてたーあはは、みたいなテンションでやり過ごす作戦、失敗。ウィザードって事は魔法使い、魔法使いは人の心まで読む事が出来るのでしょうか。というか魔法使いはモンスターの分類に入るのだろうか。
「えっと〜……それは……」
「ほら、早く」
仕方ない、白状するしかない。どのみちここで一年間過ごす事になるんだ、いずれはバレるのです。
「────に、人間、です。その……至って、普通、の?」
瞬間、クラスが静まり返り、皆ボケっとした顔でこちらを見てきます。やばい、やはり消されるのか。
「……はは、またまたあ、冗談だろ、角吹さん」
「はは、ははははは……」
「ははははは……」
「ははは、あはは……冗談じゃないです」
「嘘ォ⁉︎」
『え〜⁉︎』と、クラス全員が驚いた表情を向けます。凛花は別に真顔。こんな時でも彼女は我を通しているところが実に男前。女だけど。
「人間⁉︎」
「人間だってよ!」
「珍しいな!」
「中々可愛いじゃん!」
「先生、どういう事⁉︎」
「俺に聞かないで」
お前以外に誰に聞くんだ。
そう心の中で呟きました。というか、別に彼らは人間にバレてはいけない存在ではないようです。そもそも人間率の低さよ。40人いるクラスに一人というのは、余りにもおかしいのではないでしょうか。
……てか誰だ今可愛いって言ったヤツ。照れるぞ、本気で。後で褒め殺してやるぞ。ありがとうな!
「人間ねえ。この町周辺には人間なんて全く住んでないんだけど……もしかして、何処かから越してきたのかい?」
「はあ、えっと、その、隣町から」
「ほお〜。あそこにもまだ人間って住んでいたのかい。家庭訪問が楽しみだね、こりゃあ」
なんだか興味を持たれてるようです。人間が珍しがられる町とはこれ如何に、って感じですけれど。
クラスの子達も私の事ばかり話しています。嫌だなあ、私目立つのあんまり好きじゃないんだけど。
「んー……まあ、いいか。とりあえず次ぃー」
真堂先生の一言により、とりあえず私への言及は終わりとなったようです。どうやら私の高校生活、初っ端からハードなスタートを切ってしまったようです。人間だからって警戒されないかなあ。
「望月凛花。種族は悪魔。よろしく」
相変わらずサバサバしてるなあ、と私は凛花を見て思うわけです。いつも堂々としてるし、カッコいいし。憧れというわけでもないのですが、彼女のようなスタンスもアリなんだろうな、と思って見ています。
と、そう考えていた時。
「望月さん、かあ。って事は何、魔王様のお孫さんかい」
「……ええ。まあ、一応」
「そりゃあ凄い、名家みたいなモンだね」
「別に、お爺ちゃんとあたしは関係無いんで」
……へ? いやいや、初耳なんですが。
えっ、望月家ってしがない隣町の一般家庭じゃないの? 名家って何、モンスターの中でもトップクラスとかそういうのあるの。しかも今魔王とか言いませんでした?
(魔王って……魔物の王? 悪魔の王?)
前者ならここの町長くらいなってそうではあります。後者でも悪魔がモンスター界において権力を握っているのなら、他からしたらかなりの脅威ではあるでしょう。
(……私、今まで凛花の事を一番知ってたと思ってたけど、なんか違うのかな)
そりゃあ幼馴染だと言っても、隠し事の一つくらいあるかもしれないよね。……でも、この町に来てから私、凛花の知らない一面ばかりを知っていってるような気がします。
なんだろう、この気持ち。なんだか裏切られたような、でも明確にそう言われたわけでもないのに……なんか、そう、私から一番の友達だと思ってても本当は違った、なんて言えばいいのでしょうか。
(……ばーか)
悔しくて、少し口を聞きたくない気分でした。なんだか私の方で勝手に距離を作ったまま、私の高校生活一日目は終わってしまいました。