モンスターだらけの街 一話
このページを開いて頂いてありがとうございます! この小説は別の小説執筆の息抜きにゆるーく書いているものなので、同じ様にゆるーく見ていただけると嬉しいです!
────私は、初めて知りました。
幼い頃からの幼馴染である女の子が、実は悪魔の一族だったなんて。
門星町。
そんな名前の田舎町に私、角吹藍と幼馴染の女の子である望月凛花は住んでいます。人口2万人くらいの小さな街で、けれどそれなりに遊ぶ場所──例えばゲームセンターやカラオケ、食べ物屋さんなんてのもある街です。若者には大変都合が良いというかなんというか。
だけれど私は、別にこの街に元々住んでたわけではありませんでした。ここの隣町に住んでいたのです。そこは本当にど田舎だと言われても何も言い返せないほどのそれであり、そこで生まれたお爺ちゃんお婆ちゃん以外は好んで住み着くなんて事は有り得ないわけです。そんな町、というか村に私は生まれました。
凛花も元はその隣町に住んでいました。家も近く、幼稚園や小学校も同じでした。けれどあの子は姉が門星町のアパートの管理人である事を利用して、そのまま一人暮らしを開始。私はあろう事か、置いていかれたわけです。友達を作る術なんて、私は持ち合わせていないというのに。
まあ、そんな私も中学校を卒業し、晴れてこの春から高校生。私の生まれ育った町には高校は無く、自ずと隣町の門星高校へと入学する事になったのです。
それでお引越しをしました。友人のツテというのは有難いもので、私は凛花ちゃんのお姉さんのアパートに住まわせてもらえる事になったのです。
で、私は今日アパートに到着し、玄関で待っていてくれた凛花と三年ぶりの再会をしました。
そう、したんですが……。
「なに驚いてんのよ、藍」
「驚くに決まってるでしょ! なんで尻尾生えてんの⁉︎ 仮装してんの⁉︎」
あろう事か、彼女はそのお尻に黒くて細い尻尾を生やしていたのです。しかもご丁寧に、先の形は分かりやすいスペード型。悪魔ですよと言っているようなもんです。
しかも彼女は特に何か言及するわけでもありません。それがまるで生まれた時から生えているかのように、器用な事にクルクルとそれを回してみせます。恐い、色々と。
「じゃあ案内するから。付いてきて」
「いやちょぉぉおおい! 質問に対する解答は⁉︎ 三年ぶりの再会以上の衝撃なんですけど!」
人の話も聞かず、マイペースに階段上がっていってしまった凛花。相変わらず尻尾は楽しげにフリフリしております。嬉しいのかなあ……ってそんな猫、犬畜生じゃあるまいし。
とりあえず不満ながらも付いていく私は、そのアパートの内装に目を向けます。
割と良い感じでした。白を基調とした廊下は綺麗に掃除されていて、ピカピカという他ありません。奥に長く、一階層に八部屋で三階建てなので、最大24世帯が住む事が出来るようです。
因みに名前は『メゾン望月』。普通なんだか普通じゃないんだかよく分からない感じがミステリアス。
「ここがあたしの部屋で201号室。んで、その奥があんたの部屋で202号室」
「はあ」
「これ鍵。姉さんから預かってたから渡すわね」
「どうも」
生返事しか返せません。そりゃあそうです、彼女は当たり前のようにポケットから鍵を取り出し、私に渡したのですから。尻尾で。
適当に尻尾の感触を述べておくと、すべすべしてるというか、人肌のような感じです。妙に体温もあって、あんまり良い気分ではありませんでした。三年ぶりなのに酷い私ですが不可抗力ですから仕方ありません。
「部屋入ってて。あたしはなんかお茶菓子でも持ってくるから。荷物の段ボールは全部運び入れてあるし、とりあえずゆっくりしてなさい」
「いえす」
久しぶりとも思わせないような緩い返事でドアに向かい合う私。決めました、もう彼女の尻尾にはツッコまない事にします。持つかどうかは不明ですが。
特に飾りも無い、すぐに無くしてしまいそうな鍵を使って中に入ります。開いたカーテンから溢れる日光に、思わず目を瞑ってしまいました。夕方の陽って、なんかいつもより眩しい気がするのは気のせいでしょうか。
部屋について言及すると、至って普通でした。メゾン望月の部屋は普通と判明。
六畳の居間に、二つ目の部屋、トイレとキッチンもあります。キッチンからは居間の様子が見える感じで、友達が来たりしたら料理しながら会話とか出来そう。会話が出来ても友達が出来るかは分かりませんが。
まあ当たり前といえば当たり前で、部屋の入り口には段ボールが積んでありました。これを整理するのは疲れそう。とはいえ念願の田舎町(ど田舎から来た私にすれば田舎から都会レベルの進歩)に来たわけで、しかも一人暮らしですから、ここから私の世界が広がると思えば何とやら。藍ちゃん帝国の誕生というわけです。何言ってんだろ。
まあそんな風に、大量の食事を目の前にして既に満腹になった気がするのと同じ道理で、全く整理する気が起きない私の元に、何故か出来立てのおうどんを持った凛花がやってきました。相変わらず尻尾は生えたままでした。
「どう、良い部屋でしょ? あたしが昨日掃除しといたんだから」
「そうなんだ。ありがとうね」
「お菓子と思ったけど丁度夕飯時だし、うどん作ってきたわよ」
「なんでうどん?」
「丁度二人分あって使い切りたかったから」
特に隠しもせずに言い切った凛花。こういう遠慮ゼロな所は相変わらずなのです。そんな所に、私は昔から助けられてきました。
……とはいえ、今はそんな慣れ親しんだ彼女を目の前にしても、何処か気が許せないのです。目の前にいる凛花は記憶の中の凛花とは全く違くて、というか人外になってしまっているのですから。
まあそれをズバッといきなり聞く度胸なんて私には無いわけで、とりあえず当たり障りの無い会話から始めます。
「う、うどん美味しい」
「何言ってんの、その辺に売ってる奴よ。しかもお値打ち品だし」
「引越しなんだなら蕎麦やないかーい! な、なんちゃって」
「……ナニイッテンノアンタ」
やばい、目の前のこの子が人外だと思えば思う程元々酷いコミュニケーション能力がダダ下がりしていく。どうすればいいのでしょう。
「まあでも、変わってなくて良かったわよ、そういう抜けてるところとか」
(こちとらそっちの変化の仕方が強烈過ぎてんな事考える余裕無いわ! ギャグか⁉︎ ギャグなのかここは⁉︎ ツッコミどころなのか⁉︎)
とは言えず、『はは……』と生返事を返してしまいます。嗚呼絶賛ヘタレ中の私、早く何とかして原因を聞かなければ。
「そ、そっちは何か変化あった?」
「んー? 別に、普通に中学卒業しただけよ。何も変わってないわ」
(決定的に変わってる所が一つあるだろぉがああああああ‼︎)
ダメだ、心の中でしか叫べない。
自覚が無い可能性が私の頭の中をよぎりましたが、あんな器用に使い回してる時点でそんな訳が無いのは火を見るよりも明らか。何とかして聞き出そうと、私は誘導作戦に出ます。
「で、でも私は変わったように見えるけどなあ〜……ほら、後ろの方とか」
「後ろの方? ……あー、そうそう」
気付いたか? 話す気になったのか?
「このパーカー安かったから買ったんだけど、中々可愛いでしょ。後ろのプリントとか、あたしの好みどストライクよ」
(そこちゃーう‼︎ 良い感じのパーカーだとは思っていましたけど⁉︎)
中々気付いてもらえないどころか、どうでも良い自慢話まで聞くハメになりました。しかも割と可愛いのが腹立つ。
「早く食べなさいようどん。伸びるわよ」
「は、はあい」
貴様のそれが気になって飯なんて食ってられんのじゃいぼけ、とは言えず、仕方無く真っ白なうどんを啜る私。美味しい。
凛花の作り方(こんなのに作り方もクソもあるはずがないが)が上手いのか、どんどんいけてしまいます。凛花は普段料理なんかしないから下手くそのはずなのに。やはり素材の違いか。
荷物は全てこっちに送ってもらったとはいえ、隣町からこっちまで自転車を乗り回してきたからか、空っぽの胃は我慢してくれません。
胃袋の中に温かいスープとモチモチの麺が溜め込まれていくのを、私自身とても至福に感じていました。普段外に出て運動なんてしない私なので、こういうお腹ぺこぺこからの夕飯なんていうのは無いわけです。
いつの間にか全部食べ終わってしまった私を見て、凛花は少し驚いていました。
「インドア人間の食べっぷりとは思えないわね」
「ここ来るのに二時間自転車漕いでたしね。ご馳走様でした」
「お粗末様でした。持ってくわね、これ」
自らも食べ終わった凛花は、私の分のどんぶりもお盆に乗せて、部屋を出て行こうとします。出て行き際、彼女は、
「じゃああたしは部屋にいるけど。何かあったら、いつでも来なさいよ。あと急がなくてもいいけど、挨拶くらいはしておきなさいよ。少なくともこの階の人達には」
「おっけー。色々ありがとうね」
「気にしないで、幼馴染なんだから。じゃあね」
そう言って凛花は出ていきました。根っから親切な彼女にはいつも助けられています。子供の頃も、今も。面倒見も良くて、綺麗な美人で、自慢の幼馴染です。
とりあえず疲れたので、最低限の物を段ボールから出してゴロゴロしようと思います。本格的な藍ちゃん帝国開設は明日からとします。ずぼら。
────あ、尻尾の事聞くの忘れてた。