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「これを見て」

 私はレースの下着をサヤに見せた。

 途端に真っ赤になり、慌てて目を塞いだ。

 まあ、スケスケだしね。

 ……だが、どうなのでしょうか。数々のイケメンを美貌と天然と超絶テクニックで篭絡していく恐るべき乙女ゲーの主人公です。腹の中では「重要アイテム、キタコレ。これで男をたぶらかしてやるぜー。スケスケッ!」とか思っているじゃないでしょうかね……いや、無いな。そういう風にサヤが思うと思っているのは、私の心が汚れているせいだ。

「こ、これは」

「下着よ。でも肝心なのは、この模様なの……美しいでしょ」

「……はい」

「私はね。女性が作る女性のためのデザインを目指しているの。だから偶然であったけど、女性であるあなたにお願いをしているの。もしよろしければ、学校へ通って芸術について学んでくれないかなって……そうすれば、私は更なる美しいデザインを創造することができるわ。あなたが学校へ通う費用は惜しまないわ。ただ学業の合間でいいから、私のもとでデザインをしてもらいたいの。売り上げもよければ、いくらかはあなたに渡しますし、この条件はとても良いと思いますよ?」

 サヤは呆然としていた。

 だが、私は必死だ。

 サヤは主人公補正がついている。

 サヤの実力には私が逆立ちしても勝てない。だが、私はサヤが知らないことを山ほど知っていた。その分では有利だけど、たちうちしたら大変だ。なら、味方に加えてしまえば良い。

 サヤ自身、自分の無限の可能性を知らない、この条件に呆然とするのも当然だろう。

「あ、あの……とても良い話で……なんて言っていいか」

 断るのか?

 断ったら、どうなると思うんだ?

 戦う前に負けてどうする……まずは舞台にのぼりなさい……。

「お父さんに聞いてからじゃないと」

 お前の人生……親父に任せんのかー! と怒れないので、サヤの肩を掴んだ。

「行きましょうか」

「えっ?」

「あなたの家に」


 一時間後、私はこんな形で主人公の家に来るとは思わなかったが、病弱な親父に会った。母親はミレディの両親と同じで流行り病で死んでいるはずだ。中世をモデルにしているので、おそらく黒死病ペストだろう。ゲーム上では表現されていないけど、その病状は眼にしたくない光景だ。

「ごほごほ……勿体無いお言葉で……」

 なに、この親父、断るつもりか?

 親子揃って、警戒心が強いねー、悪いようにはしないわよ。

「うちの娘なんて何の役にも」


「いえ、私はサヤが必要なのです」


 ん? 何か言い方間違えたか?

「そうですか。貴族様はそちらが趣味のお方でしたか。ふつつかものですが、娘をよろしくお願いします。残念ながら男の方を好きになるようにと教育してきましたので、最初は戸惑うかも知れませんが、どうぞお優しくお願いします」

 はい? そちらが趣味って……?

 サヤが顔を真っ赤にしていた。


 ちげーよ!

 なに勘違いしてんの!

 私は異性愛者だ!

 初恋も男だ!

 言い訳しようと思ったが、話が落ち着いてきたので、とりあえず聞かなかったことにした。



 何だかんだで、サヤは学校へ入学してすぐに芸術的才能が芽生えた。さすが主人公と言ったところだろう。そのため新風のデザインが次々に出来上がり始めて、客足も戻りつつあった。


 あー、よかった。


 ある日、サヤがデザイン画を書いている時に、サヤの左斜め後ろに何かが浮いてあるのを発見して押してみた。


(あっ……ステータス画面だ。主人公だから、こういうボタンがあるのかな? おっ、色々見れるぞ……BGM調整とかもある……)

 ……愛情度チェック画面を探して見てみた。

 愛情度は100がMAXである。

 キルヒアイス:10。

 父親:50。

 ミレディ:80。


 なーにー! やっちまってるっ!

 完全に私ルートに入っているじゃない!

 つーか、私の愚弟の名前も無いし、それにキルヒアイスもっと頑張れー!

「どうしましたか? ミレディ様」

「……いや、なんでもないよ」

 私は散々やりつくした乙女ゲーに、新たな展開を作ってしまったことを知ってしまった。


「どうしたんですか、お嬢様」

 アルスがレモンティーをお盆に載せて、サヤの前において、庭でたたずむ私に持ってきた。気が利くけど、基本的にアルスは猫舌なので、熱い飲み物が来ないのがたまに傷だった。

 愛情度に衝撃を受けた私には、レモンは優しかった。

「アルスー、モフモフさせろよー」

 尻尾をモフモフして痩せた尻を撫でて、髪の毛と耳に顔をうずめた。爽やかなプールオム香水をつけさせているので、少年らしい甘い香りが鼻腔をくすぐった。

「止めてください! お嬢様、服に皺が……」

「服に皺ができなければ良いんだなー。ぬげーぬげー」

「そういうことではありません。お嬢様!」

「可愛いのぉ、ういのぉ」

 ちらっと、サヤを見ると聖母のような笑みを浮かべてこちらを見ている。あの笑顔に攻略対象者たちは次々と陥落することになる。

 私はモフモフしながら、サヤの後ろへ回って愛情度を再チェックした。

 ミレディ:80。

 変わらないか……男とじゃれても変化しないのかー。

 ガッカリ……。


 私はアルスの耳を唇でハムハムした。

「ちょっと、お嬢様……耳は……」

「ふー」

「あっ! 遊ばないでください」

 私はアルスでしばらく遊んで、愛情度の衝撃を癒していた。

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