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 ……これはゲーム初期のイベントだ。

 主人公の飼い猫がこの館に入ってしまって、そこでミレディと主人公が初対面するという話だ。ゲームの中では、まだ恋敵になっていないから友人になりそうなくらいに和むんだけど、その後は血で血を洗う醜い闘いに発展していくことになる。

 私は庭に出て、「トトー。こっちにおいで」と名前を呼んだ。すると、この世界では初めて会ったトトが大人しく出てきて、私の腕の中に飛び込んできた。ベルベットのように心地よい毛並みだ。ウェアキャットも柔らかくて温かいけど、普通の猫も良いもんだ

 玄関から扉が叩かれる音、そして声がしてきた。

 来ました……私の宿敵……問題の主人公様ですよ……。

 扉を開かない選択もあったけど、トトが出たそうにしていたので、トトに免じて開けることにしよう。

「はい、どなたですかー」

 誰か知っているけどね。

「す、すみません! 貴族の方のお屋敷に……」

「もしかして猫をお探しですの?」

 私はにこやかに主人公へ挨拶をして、トトを手渡した。

「凄い! 私とお父さん以外に懐いたことが無いのに」

「まあ、猫には不自由していないので」

 私はアルスの事を思い浮かべた。

 さて、主人公は平凡な街娘と言った印象だ。ゲームの初期でキルヒアイスに一目惚れをされてしまい、そこから人生が変わる。とある学校へ入学する資金も身元を隠したキルヒアイスによって払われ、主人公は足長おじさんへ感謝の思いを込めて、文武両道優れた人間になるように成長して同時に恋愛もすることになる。ちなみに、この時代は女が学校へ行く時代ではないので、男装の格好をして秘密で学園生活をおくる。


「はっ……!」

 しまった。声に出してしまった。

「あ、ありがとうございます! トトは私の親友なんです」


 ……キルヒアイスから、私は金を奪い取ってるやん……。

 ま、まさか……。

「お嬢さん、お名前はなんて言うのかしら? 私の名前はミレディよ」

「す、すみません。貴族様に名乗るのが遅れまして、私の名はサヤです」

「よろしくね。サヤ……ところで妙なことを聞きますが、学校へ行っていますか?」

「学校ですか? お金はありませんし、女は行けませんが」


 う、嘘でしょ!

 オープニングイベントを消化してないの、この娘は!

 となると、ただの街娘なの?

 なにしてんのよ、キルヒアイスは!

 私に素寒貧にされて、指をくわえて愛する女が貧乏するのを見ているのか!

 駄目だー! 人のせいにできなーい!

 学校に通うことになるのに……私のせいか……私のせいだ……うわーっ! 私のせいだー!

 いやー! 私、超悪い女じゃん!

 いやー!

 いや、待て……よく考えたら、サヤは私の宿敵なわけだから、このまま平凡な街娘として終われば万々歳では……いや、待てよ……。

 ゲームオーバーになったらどうなるんだ……。

 ……まずい……この乙女ゲーは高校生活の三年間の話で、毎年規定値を超えているか確認するイベントが起きる。あまりアホをしすぎるとゲームオーバーになってしまう。ゲーム終了以降も気になるけど、一年目でゲームオーバーになったらどうなるんだろうか。

 ……死?

「あの、どうかしましたか……ミレディ様」

 私は気付いたら、手を壁に当てて自分を支えていた。両足だけでは、立つ事ができないくらいだった。まずい、一から十までまずい。

「い、いえ……とりあえずお茶でも飲みませんか」

「そ、そんな貴族様の館で……」

「大丈夫よ。さあ、あがって」

 私は無理矢理、サヤをリビングへとあげた。


 私はアルスに命じて紅茶を作るように言った。

「随分と……綺麗な家で」

「お世辞を言わなくていいの。泥棒に盗まれたんだから」

 元使用人という名の泥棒ですけどね。

「えっ……それは大変なことで」

「起きてしまったことは仕方ないのよ……」

 見つけたらボコボコにしてやるけどね。

「お嬢様、笑みが悪魔のようですが」

「自覚はあるから大丈夫よ」


 その後も色々雑談交えて、私が導き出した答えがこれだ。

『私が、主人公の学費を払う』

 これに落ち着いた。

 何故かと言うと、このゲームの主人公は成長をして、奨学金を得ることで、次の年へといけるわけだ。文武どちらでもいいけど、何かしら一芸に秀でる必要がある。


 私は主人公に――サヤに芸術の分野に行かせることにした。

 サヤは主人公なので集中的に育てればすぐに偉人クラスの能力を得る。

 これを利用しない手は無い、むしろこれしかない。

 良心の呵責を軽減させ、ゲームオーバーを回避しつつ、芸術を把握させることで、デザインに反映させて、私は多大な利益を得る! 

 完璧だ……。

 私はサヤを気に入ったといい、学校の話に巧みに話を誘導した。

「私、家が貧乏で、学校には」

「あら、それなら私がお金を払いましょうか?」

 サヤは眼が点になった。

「そんな、貴族様にそんなことを……」


 謙遜するな、私のためだ。

 いろんな意味で、私のためだ。

「サヤ……この壁を見て、ここには有名な画家の絵が飾られていたのよ」

「……そうですか」

 壁には持ち逃げされた絵が残した日焼けの跡が残っていた。

 ……駄目だ。

 これで説得は出来ない。

 芸術の素晴らしさを教えることができない。

 えーい、どうしたら良いんだ。

 ……こうなったら、正攻法だ。

 心を込めればどうにかなる。

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