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 俺は今まで恋人が出来たことが無い、一方的に好きになったことは何度でもあった。

 今回も一方通行かも知れないけど、多分これが本当に好きになることなのだろうと、心臓が肉体に焼け付くようにドキドキした。

 かわいいなぁ……。

 俺は妄想に取り付かれながら、家へと急いでいた。

 背筋が寒くなったのは唸り声が聞こえたからだ。

 手を叩きつけて、後ろから来た男を道の塀まで押し返した。

 帽子で顔が分からないようにした大きな男だ。

 たぶん大学生ぐらいだろう。


 頬を殴られ、少しだけ腫れた。

 学校へ行くのが嫌になったけど、放課後には図書室へ行った。

 俺を昨日襲ったのは美雪のストーカーだろう。

 だったら、俺がいないと美雪は乱暴されるかも知れなかった。

 それだけは避けたかった。

 美雪は俺が来るのを見ると、笑顔をくれたけど、頬の腫れに気付いた。

「どうしたの。その顔」

「昨日、男にやられた」

 俺が男の特徴を言うと、美雪は苦しそうな顔をした。

「アイツだ……私をストーカーしている……」

 俺は警察に被害届を出すときに、美雪のストーカーの犯行だと伝えた。

 警察はやっと重い腰を上げてくれた。


 次の日から俺は美雪と一緒に帰るのが日課になった。

 たぶん、美雪のほうも俺に悪い印象は持っていなかった。

 その日々は楽しいものだった。

 携帯の番号も交換していたので、夜に鳴ったときは驚いた。

 美雪の妹のサヤからだった。

 泣いていてよく分からなかったけど、とりあえず美雪の家に走っていた。

 美雪は近場に買い物へ行ったときに、ストーカーに襲われて、逃げようとして小川に飛び下りて怪我をしたそうだ。

 幸いにも、飛び下りた以外に怪我はしていなかった。

「お姉ちゃんは何もしていないのに」

 美雪はその日以後、入院することになった。

 警察も警戒はしていたようだけど、隙をつかれてしまったようだ。


「授業は良いの?」

「良いの」

 俺とサヤは2人で病院の外にいた。

 美雪は元気そうだったけど、気丈に振舞っているのは分かった。

 男に襲われたため、男の先生を見るたびに怯えているそうで、女の先生が担当をしているそうだ。

「そっちこそ良いの?」

「良いの」

 2人して何を考えているか分かった。


 ストーカーに仕返しをしてやろう。


 俺は殴られたときに顔を見ているので覚えている。

 そのまま警察に突き出す前に、ちょっとだけ仕返しをしてやろうと思っていた。

「仕返しするんでしょ」

「おう」

「私もやる」


 俺たちは場所を変えながら、色んな場所を歩いた。

 病院の前、美雪の家の前、カフェで歩いている人たちを眺めた時もあった。

 長くても一週間も無かったけど、その間に色んな話をした。

 美雪とサヤの両親は亡くなっていて、叔父さんに育てられているらしい、病院にいた小さな男の人は叔父さんだったのだろう。

 酷く狼狽していた。

 サヤとのあてどない張り込みは、数日後に成功した。

 ストーカーを見つけたのは、病院の前だった。

 身を隠して窺うと、病院を見てそのまま歩き出した。

 俺たちは後ろをつけて、ストーカーの家を見つけた。

 それは病院からそれほど離れておらず、どうやら1人暮らししているようだった。

「警察を……」

「その前に……」

 俺はその場で屈伸をして、体を温めた。

「でも……」

 サヤが怖気づいたのも無理はなかった。

 ストーカーの大きさは俺の1回り以上あった。

「携帯は預けておくから」

「大丈夫?」

「やばそうなら警察呼んで」


 俺はチャイムを鳴らして、扉をノックして、廊下の壁側に隠れた。

「はい、なんですか……」

「郵便です」

 開くのを待った。

 配達されるのは――パンチだけどな。

 扉が開いた。

 途端に殴りかかり、ストーカーを扉にぶつけた後に、蹴りをいれた。

 が、足を掴まれて、倒れてしまった。

「何を……」

「これは、この前の仕返しだ。変態」

 頭を蹴って、後ずさりして立ち上がった。

 ストーカーは俺の顔を見て合点がいったようだ。

「ここからは美雪の分だな」

 その名前を聞いた途端、ストーカーが体当たりしてきた。

 俺は倒れなかったけど、その場で踏ん張れなかった。

 廊下を千鳥足をするように退いてしまい、とうとう外の塀に背中を押し付けられた。

 そして、ぐいぐいと顎を押された。

 塀の外は道路で、2階建ほどの高さがあった。

 どんどん押されたので、諦めて、男の服を掴んで、一緒に落ちてやろうと思った。

「馬鹿、離せ」

「やーだよ」

「うっ、うわっ!」

 案の定、一緒に落ちたときは、痛すぎてビックリした。

「いてーっ! 本当に落とすやつがいるか」

「あがぁ」

 たぶん、小さい骨が折れているぞ、と思いながら立ち上がると、ストーカーも悲鳴をあげながら立ち上がった。

 どうやら、ストーカーの方が打ち所が悪いようだ。

 苦しそうに息をしている。

 車が急停止してクラクションを鳴らしたが、血だらけの2人を見て、バックして角を曲がって去ってしまった。


「えいっ!」

 誰の声かと思ったら、サヤだった。

 鞄でストーカーに殴りかかった。

 ストーカーは手を振って、サヤを道路際の壁にぶつけた。

 サヤのおかげというか、脇見をしてくれたおかげで、顔をぶん殴れた。

 クリーンヒット。

「女に何度も手を上げやがって。酷い野郎だな」

「ひっ」

 ストーカーが半べそかきはじめた。

 もう、勝負はあったかな。

 だが、気を取り直したサヤはストーカーを鞄で殴り続けた。

「馬鹿! アホ! ど変態!」

 すると、ストーカーは四足で這うように逃げ始めた。

 これ以上してもどうかと思うが、蹴ろうとすると――。

「止めなさい!」

 美雪とサヤの叔父が走ってきた。

 おそらくサヤが電話で呼んだのだろう。

 運が良い事に、病院とこの家は近かった。

 美雪の叔父さんは俺たちのもとへ駆けつけてくると、そのままの勢いでストーカーを思いっきり蹴飛ばした。

「このド畜生が! 娘がどんな思いを!」

「ひぃっ」

「てめえ、沙耶にも……地獄へ行きたいのか!」

 ストーカーはボコボコと蹴られた。

 あらら、それはオーバーキルですぜ、ダンナ。

「すみませんでしたっ! 二度と、このようなことはしませんので許してください」

「俺たちが許しても、警察はゆるさねぇんだよ! バーカ!」

「私は許すつもり無いけどね」

 ここまでフルボッコにしたら、俺たちもただではすまない気がしたが、気分が高揚しているので気にしないことにした。

 ストーカーは土下座をして謝ってきた。

「命だけは勘弁してください!」

「ちっ、ここが司法国家なのを感謝するんだな」

 俺たち3人は手を繋いで万歳をした。

「俺たちの勝ちだー!」

 やったぜ、この野郎!

 ざまあ、みやがれ!

 あとで、凄い怒られそー!


 俺たちはボロ雑巾みたいなストーカーを引き摺りながら病院へと行った。

「いやぁ、君はいまどきない、見所がある男だ」

「そんなことありませんよ」

 そんなに褒めないでください。

 だんだん、後が怖くなってきました。

 俺は美雪の叔父さんに褒められながら、病院についた。

「おーい、美雪!」

「おねえちゃーん」

 病院の外から、大声を上げて、美雪を呼び続けた。

 見るかなー、と思って期待していると、美雪は病院の窓を開けた。

 血だらけの姿を見て真っ青になった。

「どうしたの……」

かたきはとったぞー」

 美雪はストーカーがいるのに気づいたようだ。

「馬鹿……そんな危ないことして」

「美雪! 馬鹿はこいつだ!」

義父おとうさんも馬鹿よ!」

「何をー!」

 叔父さんがヒートアップしていると、美雪の部屋にちょうど来ていた警察が走ってきた。

 喧嘩を注意しようとしたのだが、サヤの叔父が怒鳴り返して、大喧嘩に発展した。

「お前らが情けないから、俺たちがやったんだ!」

「この少年を見ろ! お前らよりマシだ! 公僕が!」

 ストーカーは逮捕された。

 俺たちは警察に連行されて、こってりシボられて、勢いが良かった叔父さんも出てくるときには良識ある社会人に戻っていた。

 俺は色々小言をされているうちに全身が痛くなり、俺はサヤと同じ病院に入院することになった。


 大きな病院だけど、一つ屋根の下で暮らすと言うのは良いものだ。

 毎日、美雪の病室へ行って、飽きるまで会話を続けた。

 ふとした日、美雪がノートパソコンを拡げているのを見た。

 美青年がいっぱい出ているゲームだった。

「それ、サヤがしていたゲームだね」

「薔薇革命ってゲームよ。やってみる?」

「乙女ゲーか……やらんよ」

「けっこう面白いよ。こっちになるかもね」

「嫌だな、それは」


 結局、俺はノートパソコンを渡されて、薔薇革命を少しやった。

 まず名前がおかしかった。

 キルヒアイスは姓、アラミスとミレディは三銃士に出てくるキャラだけど偽名だし、何より名と姓が無いのが気になった。

 といっても、昔のゲームだったらよくある話ではあった。

「名前? あー、それね。私も言ったんだよ。別に良いじゃんって言われたよ。それに大分前に作ったものだからね」

 私も言った?

「製作者、知り合いなの?」

「知り合いも何も、作ったのはサヤだよ。小学校の時に作ったのかな」

「自作のゲームなんだ」

「今も色々なゲームを作っているけどね。後になるほど設定は細かくなっていくけど、1番面白いのが処女作というのは皮肉ね」

 美雪は処女――と言葉を出したのを恥ずかしがり、少しはにかんだ。

 その後、俺たちは恋人になるが、この時はまだ知る由もなかった。

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