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日差しが新雪を撫でて、天と地が輝いている。
街中の汚れが雪がれたように白く化粧されていた。
絶好の――雪ダルマにうってつけの日だ。
私とアルスは庭に出た。
雪玉をコロコロと転がして、徐々に大きくした。
「よし、もうすぐだ」
館の庭で雪玉を転がして、2つ重ねた。
雪だるまのルーズベルト2号ができた。
「2つだと、頭と脚だけですから、胴体作りましょうよ」
たしかに――2頭身では寂しい。
3頭身の方が、雪ダルマも嬉しいだろうね。
私とアルスはもう1つ作って、互いに担ぎ、1番上に乗せようとした。
腕と足がぷるぷると震えた。
「おっ、頑張っていますね」
「手伝いますか」
ヴィクターとオーリが見ていた。
「良いの。2人で作ったんだから、最後まで2人で――」
話しかけられて集中力が切れてしまった。
手から雪玉がツルンと転がり、真っ二つに割れた。
「ひやー」
「いやー」
もうやだ。
「……やっぱり手伝いますか」
私たちは4人で力を合わせて3個目の雪玉を乗せた。
脚部と胴体をヴィクターとオーリに任せて、私とアルスは脚立を使って頭部の描写を細かくしていった。耳をつけ、鼻をつけ、枝でヒゲを作った。他にも細かい造形を枝で彫った。
完成して脚立からおりて、遠目から見た。
脚部は8本脚、胴体は筋肉バキバキ、頭部は可愛らしいテディベアになった。脚部はオーリで、胴体はヴィクターが担当だった。
……このやろー。
「あれ? なんかおかしくね」
ヴィクターが首を傾げていたが、おかしいのはお前ら2人だ。
とりあえず――、
「なんでタコ足なの」
「よく見てください、10本足ですよ」
そーですか。
イカちゃんですか。
「なんでマッチョなの」
「熊なんだから毛を剃ったら、こんな感じじゃないですか」
いやいや、わざわざ毛を剃ってどうするのよ。
どういう思考回路をしているの?
こうなると、逆に頭部が浮いてくる。
「うわっ、キモッ! 見ているとイライラしてきますね」
三毛猫が雪玉を握り、ルーズベルト2号にぶつけたが、ムキムキマッチョの胸板に砕かれた。
「アイスバーンなみの胸板にしたから、そんなものは効かない」
わおっ、無駄に高性能だ。
「おいおーい、三毛猫さん」オーリが低い声を出した。「いの1番にー、雪玉をあてるたー、社会人のやることかーい」
「私、奴隷だもーん」
奴隷は社会人では無かったようだ。
「生物としてどうなの?」
ハードルがさがった。
「雪ダルマは作って、誰かが壊すまでが楽しみだと思っていたよ」
「アホか」
オーリが緩やかに雪玉を放り投げて、三毛猫の頭で散らせた。
「なにすんのよー!」
オーリ対三毛の雪合戦が始まったので、私たちは館の中へ非難した。
館の中に戻ると、サヤは黙々と仕事していた。更紗職人も加入したので、デザインの仕事も増えた。仕事は山積みだけど、休憩時間は休憩してもらったほうが良いんだけどね。
「休んだら?」
「昼休みにまとめて休憩しますから」
演劇の意匠と服の製作をアルスに任せたのは理由があった。色々と考えた結果、私以外に転生していると考えられる最有力候補がサヤだったからだ。今までの会話や行動からはその傾向は見られなかったけど、脇役が転生しているなら、主人公も転生してそうだ――という推測だ。
だけど、普段の生活からはソレが分からない。もしかしたら、隠している可能性がある。そうなると、最有力だとしても下手に話すことはできなかった。
隠しているなら理由があるからだ。
「アルスさんが前にお姫様の所で作ったドレスがあるじゃないですか。意匠担当としては負けられませんよね」
ああ、そうか。
対抗意識か。
今までサヤの優秀さに眼を引かれていたけど、最近ではアルスの優秀さのほうが眼を引いた。乙女ゲーの主人公に勝てるほど――。
……まさか、アルスも転生者?
いや、それは無いか――それだったら、もっと早くに何かをしているはずだ。推測だけど間違っていないはずだ。
「やるからには、蘊奥を極めたいですよね」
眦があがった表情は固い決意があった。
「オーリをやっつけろ!」
「うわー」
三毛が仲間を呼び、庭で一方的な雪合戦が開始されていた。1対20くらいのイジメと化していた。
最初は1人だったのに、随分と仲間が増えた。
紋切り型のような、シミジミとした感慨があった。
集く虫たちの鳴き音のような、乱雑な作業音がステージから響いてくる。ステージのカラクリの点検なども行っていた。
私は観客席に座り、設営を眺めていた。
最後の確認だ。
シェイクスピアの4大悲劇には『ロミオとジュリエット』は入ってはいない、だけど有名だ。それは愛を扱っているからか、それともテーマが秀逸だからか……。
テーマは『敵対する両家の若い男女の悲恋』
障害があるから恋愛は盛り上がる。だけど成就したら障害は無くなり冷める。だから成就せずに死んだのかな……。
怖い話だ。
私は持ってきた日記にさらさらと文字を書いて、もしもの時があったときに大丈夫なようにしていた。色々書きたいことが多かったので、劇の設営が終わっても書き続けていた。
ふと、急に劇を止めたくなった。
最後の引き鉄を、引こうとしている気分だ。
放たれた銃弾は何に当たるかわからない。
日記の最後に別れの言葉を書いて、パタンと閉じた。




