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冬、凍てつく冷気は館の廊下を這うようになっていた。
「館の改装完了です」
三毛とトラがテープを渡したので、ハサミでテープカットした。
わあ、パチパチと拍手が鳴るが、完成が遅すぎたので見学に来る人もまばらだった。
部屋の装飾は草紋様を多用しており、有機的かつ女性的で柔らかな生の力が満ちている。鏡も過剰なくらいに設置していて、幻想的が雰囲気になっていた。机や椅子の脚は、鹿脚を意識しており優雅で華奢、これも女性的な美しさがあった。
仕事場も同じように改良しているので、
「落ち着きませんねー」
などと言われているけど、知ったことではなかった。
ちなみに、漂白剤を作っているオーリは離れた場所で仕事をしており、館内を公開したとしても技術が盗まれないようにしている。
「しかし、寒いですなー」
とっとと式典を終わらせて、私たちは暖炉の元へ集まった。古代ローマは床下暖房をしていたところもあるらしいけど、中世の技術ではそんなことは無理だ。
「もう少し、つめてよ」
暖炉の前で雌猫たちがギュウギュウ詰めになっていた。やはり猫は温かいところを好む、いつのまにかサヤの飼い猫であるトトも来ていた。
「私はこの館の主人だぞ」
返事がない、誰も動かないようだ。
「寒いだろ、詰めろ」
ムギュッと詰めていると、将棋倒しになり、トトが逃げ出した。
「何をしているんですか。お嬢さん方は」
ヴィクターが見学人の案内を終えて休憩にきた。手には焼き芋をお手玉していた。
「ずるいっ」
猫たちは猫舌だから良いけど、私も焼き芋食いたい。
「肥りますよ」
「あら、女は少し肥えていたほうがいいのよ」
「「いいのよ」」
「まあ、欲しいと思って、もう1個焼いていましたけどね」
あら、気が利くわね。
私は熱々のまま食べた。口から湯気がでて、甘さが口中に広がった。ほくほくして美味しかった。
雌猫たちがヴィクターに抗議していた。冷めたら私たちでも食えるだろ――と。ヴィクターは仕方がなさそうに庭に出て人数分の焼き芋を作り始めた。
「そういえば、演劇の件はどうなりましたか?」
私は転生者を探そうと思っていた。
私がここにいるならば、他にもここに来ている人たちがいても何もおかしくなかった。
そのために、私が主催者として演劇を行おうとしていた。当然、衣装は私たちが作るけど、それだけでは足りない。
私は物語も書いた。
それは――『ロミオとジュリエット』
観たことは無くても、タイトルぐらいなら誰だって聞いたことがある有名作品だ。転生者なら必ず反応してくるはずだ。
「気になるんですが、どういう内容なんですか?」
「言ったら、広めるでしょ。駄目」
雌猫たちは口が軽いので、軽口厳禁だった。
「それに衣装はアルスが作っているから大丈夫よ」
バザールの方にいるアルスが着々と作っているはずだ。
話もタイトルも知っているのはアルスだけだった。
「さわりだけでも教えてくださいよ」
「だーめ」
ヴィクターが戻ってきて、焼き芋をどさどさと置いた。
「冷まして食え、猫ども」
「ありがとう、ヴィクター」
雌猫たちが投げキッスをしていたが、手で叩き落していた。
冬は日が落ちるのが早いためか、月日も早く流れるようだった。
そんなある日、アルスの解放奴隷の期日が決まった知らせが来て、それは年明けの話になりそうだった。
そこで、問題が発生した。
「ちょうど鏡があって分かりやすいから、この部屋で練習しましょうか」
仕事を終えたアルスと対面した。お互いに正装をしているので、館の中だけど妙な緊張感があった。
「ほとんど、同じだから最初は見て覚えてね」
私は鼻歌と共にステップを踏んだ。
新年の社交界に、アルスが招待された。バレエなどでは平民も参加していい時もあるけど、社交界に招待されるのは稀だ。ということで、おそらくダンスをさせられるだろう。
「はい、こんな感じだけど……分からないわよね」
「一発で覚えろと言うのは」
仕方ないな。
私はアルスへ手を伸ばした。
「ほら、教えてあげるから」
もう、いちいち赤くなるな。
こっちも恥ずかしくなる。
そうして、手を取りあって、1つ1つ教えてあげた。
ウェアキャットの身体能力の高さもあるけど、徐々に形になっていった。
「手を取り合わないで踊ることも多いから、相手の動きを見てあわせることが重要よ。踊っている時に回りに当たらないように注意してね。一番大事なのは度胸よ。堂々と踊ることを心がけて」
「はい」
扉が開いて、オーリが椅子に腰掛けて見学を始めた。
ちょうど良かった。
私はそこらへんにあった木箱を渡した。
「はい?」
「リズムを刻みなさい」
間抜けな音が一定の間隔で木が鳴った。
私とアルスは鏡合わせのように動いて、踊りをあわせていった。冬ながら汗をぐっしょりかく頃には、ほとんど完璧になっていた。
「手が痛い」
オーリが掌をはらしながら、ブツブツと呟いていた。
「できました」
「色々とパターンがあるから、これを知らない人とあわせることができたら一人前よ」
良い子、良い子、と頭を撫でた。
「お嬢様、バレエはどのような感じなのですか?」
まあ、一応踊れるけど……。
バレエを見たこと無いのかな?
私は靴を脱いで、つま先に布を当てて縛り、靴を履き直した。そして、爪先立ちになり、片足を上げて両腕で丸を描いた。
「こんな感じ」
パチパチと、オーリが拍手した。
「これがピルエット」
両足を交差させて勢いをつけて回った。そして、爪先立ちになり、両腕を広げて、駒のように回転した。8回転で勢いは止まった。
「グラン・ジュデ」
勢いをつけて飛び、両足を広げて、着地した。
「こんなものかな」
「いやー凄いですね。ただ普通に見えていますけど」
「あっ……見えているなら、先に言え!」
オーリに怒鳴ると、脱兎のように逃げ出した。
「今日もお疲れ様でしたー」
「オーリ……」
普段は大人しいから忘れていたけど、アイツも青少年だった。
「すみません。私も見てしまいました」
アルスは眼を覆っていた。
「もういいわよ。減るもんじゃないし」
その後も、踊りの練習を重ねていき、アルスはスポンジのように踊りの技術を吸収していった。




