表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/43

33

 冬、凍てつく冷気は館の廊下を這うようになっていた。

「館の改装完了です」

 三毛とトラがテープを渡したので、ハサミでテープカットした。

 わあ、パチパチと拍手が鳴るが、完成が遅すぎたので見学に来る人もまばらだった。

 部屋の装飾は草紋様を多用しており、有機的かつ女性的で柔らかな生の力が満ちている。鏡も過剰なくらいに設置していて、幻想的が雰囲気になっていた。机や椅子の脚は、鹿脚ピエ・ド・ピッシュを意識しており優雅で華奢、これも女性的な美しさがあった。

 仕事場も同じように改良しているので、

「落ち着きませんねー」

 などと言われているけど、知ったことではなかった。

 ちなみに、漂白剤を作っているオーリは離れた場所で仕事をしており、館内を公開したとしても技術が盗まれないようにしている。


「しかし、寒いですなー」

 とっとと式典を終わらせて、私たちは暖炉の元へ集まった。古代ローマは床下暖房をしていたところもあるらしいけど、中世の技術ではそんなことは無理だ。

「もう少し、つめてよ」

 暖炉の前で雌猫たちがギュウギュウ詰めになっていた。やはり猫は温かいところを好む、いつのまにかサヤの飼い猫であるトトも来ていた。

「私はこの館の主人だぞ」

 返事がない、誰も動かないようだ。

「寒いだろ、詰めろ」

 ムギュッと詰めていると、将棋倒しになり、トトが逃げ出した。

「何をしているんですか。お嬢さん方は」

 ヴィクターが見学人の案内を終えて休憩にきた。手には焼き芋をお手玉していた。

「ずるいっ」

 猫たちは猫舌だから良いけど、私も焼き芋食いたい。

「肥りますよ」

「あら、女は少し肥えていたほうがいいのよ」

「「いいのよ」」

「まあ、欲しいと思って、もう1個焼いていましたけどね」

 あら、気が利くわね。

 私は熱々のまま食べた。口から湯気がでて、甘さが口中に広がった。ほくほくして美味しかった。

 雌猫たちがヴィクターに抗議していた。冷めたら私たちでも食えるだろ――と。ヴィクターは仕方がなさそうに庭に出て人数分の焼き芋を作り始めた。


「そういえば、演劇の件はどうなりましたか?」

 私は転生者を探そうと思っていた。

 私がここにいるならば、他にもここに来ている人たちがいても何もおかしくなかった。

 そのために、私が主催者として演劇を行おうとしていた。当然、衣装は私たちが作るけど、それだけでは足りない。

 私は物語も書いた。

 それは――『ロミオとジュリエット』

 観たことは無くても、タイトルぐらいなら誰だって聞いたことがある有名作品だ。転生者なら必ず反応してくるはずだ。

「気になるんですが、どういう内容なんですか?」

「言ったら、広めるでしょ。駄目」

 雌猫たちは口が軽いので、軽口厳禁だった。

「それに衣装はアルスが作っているから大丈夫よ」

 バザールの方にいるアルスが着々と作っているはずだ。

 話もタイトルも知っているのはアルスだけだった。

「さわりだけでも教えてくださいよ」

「だーめ」

 ヴィクターが戻ってきて、焼き芋をどさどさと置いた。

「冷まして食え、猫ども」

「ありがとう、ヴィクター」

 雌猫たちが投げキッスをしていたが、手で叩き落していた。


 冬は日が落ちるのが早いためか、月日も早く流れるようだった。

 そんなある日、アルスの解放奴隷の期日が決まった知らせが来て、それは年明けの話になりそうだった。

 そこで、問題が発生した。

「ちょうど鏡があって分かりやすいから、この部屋で練習しましょうか」

 仕事を終えたアルスと対面した。お互いに正装をしているので、館の中だけど妙な緊張感があった。

「ほとんど、同じだから最初は見て覚えてね」

 私は鼻歌と共にステップを踏んだ。

 新年の社交界に、アルスが招待された。バレエなどでは平民も参加していい時もあるけど、社交界に招待されるのは稀だ。ということで、おそらくダンスをさせられるだろう。

「はい、こんな感じだけど……分からないわよね」

「一発で覚えろと言うのは」

 仕方ないな。


 私はアルスへ手を伸ばした。

「ほら、教えてあげるから」

 もう、いちいち赤くなるな。

 こっちも恥ずかしくなる。

 そうして、手を取りあって、1つ1つ教えてあげた。

 ウェアキャットの身体能力の高さもあるけど、徐々に形になっていった。

「手を取り合わないで踊ることも多いから、相手の動きを見てあわせることが重要よ。踊っている時に回りに当たらないように注意してね。一番大事なのは度胸よ。堂々と踊ることを心がけて」

「はい」


 扉が開いて、オーリが椅子に腰掛けて見学を始めた。

 ちょうど良かった。

 私はそこらへんにあった木箱を渡した。

「はい?」

「リズムを刻みなさい」

 間抜けな音が一定の間隔で木が鳴った。

 私とアルスは鏡合わせのように動いて、踊りをあわせていった。冬ながら汗をぐっしょりかく頃には、ほとんど完璧になっていた。

「手が痛い」

 オーリが掌をはらしながら、ブツブツと呟いていた。

「できました」

「色々とパターンがあるから、これを知らない人とあわせることができたら一人前よ」

 良い子、良い子、と頭を撫でた。


「お嬢様、バレエはどのような感じなのですか?」

 まあ、一応踊れるけど……。

 バレエを見たこと無いのかな?

 私は靴を脱いで、つま先に布を当てて縛り、靴を履き直した。そして、爪先立ちになり、片足を上げて両腕で丸を描いた。

「こんな感じ」

 パチパチと、オーリが拍手した。

「これがピルエット」

 両足を交差させて勢いをつけて回った。そして、爪先立ちになり、両腕を広げて、駒のように回転した。8回転で勢いは止まった。

「グラン・ジュデ」

 勢いをつけて飛び、両足を広げて、着地した。

「こんなものかな」

「いやー凄いですね。ただ普通に見えていますけど」

「あっ……見えているなら、先に言え!」

 オーリに怒鳴ると、脱兎のように逃げ出した。

「今日もお疲れ様でしたー」

「オーリ……」

 普段は大人しいから忘れていたけど、アイツも青少年だった。

「すみません。私も見てしまいました」

 アルスは眼を覆っていた。

「もういいわよ。減るもんじゃないし」

 その後も、踊りの練習を重ねていき、アルスはスポンジのように踊りの技術を吸収していった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ