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 祭りの会場は広いけど、注目されるのは旗の奪い合いだ。それは会場の中心に位置しているため、会場の中には参加者だけではなく、見学者たちも入り混じっている。そのため間違って攻撃してしまうことがあった。

 毎年誤射で被弾する一般人が多く、ついにはトマトに当てられると一年中健康で過ごせると言う噂が広まるぐらいだった。

 という訳で、敵味方および参加者の区別つけるために服装を揃えることが多かった。旗を奪い合うだけとなると、味方の区別さえつけば後はどうとでもなるが、トマトのぶつけ合いとなると話は別だった。相手を屈服させるのが目的なので、嫌でも一般人が気になった。


 私は一般人に気をとられすぎて、反応が遅れた。

「お嬢さん、危ない!」

 ヴィクターが棒でトマトを叩き落とした。武器はトマト以外に認められないけど、防御に使う分には棒は認められていた。アルスがお返しにトマトを投げつけると、投げた相手の頭が真っ赤になった。

「ぐえー! まだ、あの子に好きと伝えていないのにー!」

 トマトを当てられたら断末魔を上げるというルールは無いけど、参加者は祭りを楽しみに来ているのでたいてい変な声をあげてアウトになっていく、そのためたまにカッコいい捨て台詞を言う人もいたりした。


「私たちもやられた時のための台詞を考えておきましょう」

「嫌ですよー。すべったときが恥ずかしいです」

 トラ猫が抗議したが、それは個人の責任だから知らない。


 屋根の上では例年以上に激戦が広げられているようで、トマトを当てられた参加者たちが次々と陣地へと戻っている。やはり花火の効果と言うべきか、明かりがあればあるほど戦いは激戦へと変貌していった。


 オーリは良い仕事をしている。

 花火を打ち上げる場所は変わり、一定時間ごとに打ち上げているので、夏祭りの運営から逃げながら頑張っているようだ。

「しかし――花火代馬鹿になりませんよね」

「そんなに個数は無いよ。だから、早めに服飾ギルドをボコボコにして、旗の奪い合いに参加しましょう」


 私たちは、私たちに変身させた香水ギルドの人たちを追いかけていた。すでに服飾ギルドは香水ギルドを追いかけていて、真綿で首を絞められるように死地へと向っていた。その場所はすでに打ち合わせていた場所だ。

 服飾ギルドの連中は半分が旗へ、もう半分は私たちのほうへ来たようだ。半分にしか仕返しができないのは悲しいけど、まあ良いとしましょう。

 半分も夏祭りから退場となれば、今年の旗を手に入れることは不可能だ。


 香水ギルドの人たちは打ち合わせどおり、ある道へと入って行き、服飾ギルドも入っていった。そこは建物に囲まれて広場になっている。

 ヴィクターと雌猫を数匹道に残して、外階段をのぼって、屋根まで上がった。下からトマトを投げてもらい、弾を補充して、私とアルス含めて十数名が広場を見下ろす形になった。

 広場はギルドたちが入ってきた道以外に逃げ道は無かった。広場でギルド同士は交戦しているけど、お互いにトマトが無くなってきたようだ。

「私が合図したら、お願いねー」

「分かっていますよ。お嬢さん」

 ヴィクターが道で手を振っていた。


「お嬢様……はやくやっつけたいです……」

 服飾ギルドに最初に痛い目を見たのはアルスだった。ノリ気に見えなかったけど、下にいる服飾ギルドを憎しみの目を向けていた。

「我慢しなさい」

「お嬢様、我慢できません」

 私はアルスの頭を撫でてあげた。

「大丈夫よ、もうすぐ楽になるから」

「今まで我慢して来たかいがありました」

「そうよ……もうすぐ開放されるわ……すぐにスッキリするわよ」

「あのー、変な会話に聞こえるんで止めて貰っていいですか」

 三毛猫が会話を無理矢理打ち切った。

 そんな……すこし楽しかったのに……。

 まあ、仕方ないわね。

 これから戦いが始まる……。

「それでは、これより服飾ギルドをフルボッコにする復讐をはじめます」

「やったー」と私たちは小さな声で会話した。

 開戦を告げるのは、私の最初の1投だ。

 振りかぶって、ひょいと投げた。トマトは綺麗な弧を描いて、服飾ギルドの1人の頭に当たった。それは石榴のような色をしていた。彼らはこちらを見上げて、私の顔を見て驚愕した表情になった。目の前にいて追い詰めたと思っていたのに、それは別人だった――驚愕以外の何物でも無かった。

「よし、復讐の時はきた。何十発でも好きなだけ当てなさい」

「お嬢様、万歳!」


 手元にトマトが1つも無いのもあるけど、相手は抗戦すらできなかった。一発だけならたいして痛くも無いが、それが何発ともなると、さすがに痛そうだった。

 特に私怨が人1倍のアルスは急所を狙って投げていた。

「このやろ! このやろ!」

「私の貞操を返せー!」

「ばーか! あーほ!」

 服飾ギルドは夏祭りに慣れているため、断末魔も色々あった。

「ギェー! 卑怯なー!」

「これが終わったら、俺……結婚するんだ……」

「実は俺、男が好きなんだー!」

 ……なんか変な断末魔が聞こえた気もするけど、気にしないことにしよう。

 全員がうつ伏せで倒れていて、逃げる機会を窺っていた。そう――ここで倒したとしても自陣に戻れば、彼らは復活することになる。そうなれば、必ず復讐に来るだろう。

 だが、そうはならない。

 私たちは屋根の上にあげた分だけのトマトはすべて投げきったので、道にいるヴィクターからトマトを投げてもらった。

 その隙をつかれた。

 服飾ギルドの人たちは走り出して、自陣へと戻ろうとした――だが、逃げ道は1つしかなかった。

 ならば、道を塞げばいい――。

 私はヴィクターの名前を呼んだ。彼は反応して、トマトを満載させた荷台を、雌猫と一緒に押して逃げ道を塞いだ。

「ここまでするか!」

「うん」

 服飾ギルドの連中が怒り始めて、荷台に詰まっていたトマトを握った。

 あと、1押しだ。

「まだまだ、仕返しが足りないわ」

 私たちは、さらにトマトを投げた。

 服飾ギルドの人たちはトマトを投げ返してきた。全員が全員、私怨で我を忘れていた。彼らの投げたトマトは、私に向ってきて、胸にぶつかってはじけて、赤い花が咲いた。


 今だ!

 私はその場で膝をついて、両手で眼を塞いだ。

「ふええええええん! 酷いよー! 痛いよー! うえっ、うえっ……」

 本当は演技する必要は無いけど、同情を買うためよ。服飾ギルドが反撃してきた時に、すでに勝負はあったけどね。

 私の隣に、忍者のように現れたのは、夏祭りの運営――審判だった。


「服飾ギルドの人たち……いったん自陣に戻らないで、なんで祭りに参加したの? 答えてくれないか?」

「あ……あの……」

 私怨を晴らすために投げた。それが答えだろうけど、ここは祭りの場だ。それはルール違反だった。

「困るんだよねー。いつも参加している人たちが、ルール破ってもらったら。それにこの娘、泣いているよ! 可哀想に。まったく、毎年、毎年、女性の参加者が少ないんだから! これ以上、少なくなったら、どうすんの! 華が無いんだよ。おっさんばかりで」

 なんか関係ないことまで怒っているけど、相手が私じゃないから良いや。

「先にやってきたのは……」

「先も後も無い。ルールを破ったら、退場だ! かえれー!」

「ふえっ、ふえっ」

 くくくっ、泣いているフリも疲れるのぉー。

「大丈夫かね、君。もしも怖くなったら、棄権でも良いんだよ」

「ふえっ……大丈夫です。皆がいるから、私、頑張ります」

 猫たちも泣いたフリをしていた。

 頑張りましょう、お嬢様。

 たとえ、弱者でも、私たちは最後まで戦います。

 そうですとも、お嬢様。

 最後まで戦い抜くことに意義があるのです。

「そうかい……いまどき健気な女の子じゃないか。審判だから直接手は貸せないけど、影ながら応援しているからね」

 そう言って、審判は服飾ギルドを連れて行ってしまった。

「くそっ、覚えていろー!」

「あんまりガタガタ言うと、出場資格を剥奪するぞ!」

「そ、それは――く、くそー!」

 服飾ギルドの断末魔が路地にこだました。


「ふえっ、ふえっ……」一応周りを確認した。「さて、行きましょうか」

「はい、お嬢様」

 私たちは旗を目指して、香水ギルドと一緒に走った。

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