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 食堂を通り抜けて、寄宿舎の管理棟に来た。東西南北と四つの棟が大きい中庭を囲んでいて学生たちの憩いの場になっている。管理棟が西側、北側が3年生、南側が2年生、中庭を挟んで東側に1年生の寄宿舎がある。授業は終わっているので、いたるところで生徒たちが雑談をして、話に花を咲かせていた。

 2・3年生の寄宿舎を抜けることも出来るけど、紫陽花が綺麗な中庭を通り自然を愛でながら、1年生の寄宿舎へと向った。

 1312号室なので、3組の12号室だ。

 壁についている番号を探した。


 見つけた。


 扉をノックすると、「開いてまーす」と声がした。扉の向こうからの声だったのでくぐもっている。部屋は二人部屋で、部屋の両脇にベッドがある。私に背を向けて、サヤが教科書を片付けていた。

 部屋の中にはサヤ以外は誰もいなかった。同居人のシンもいない。

 部屋は当然壁に囲われていて、天井も床もある。窓にはカーテンがかかっていて、外からの視界は防がれている。壁は防音使用だろうか、外にいたとき扉越しの声は聞こえづらかったので遮音はソコソコのようだ。細心の注意を払い、音をたてないように行動しなければいけない、私とサヤは同じ部屋に二人っきりだ。この中なら何が起きても二人だけの秘密だ。

 いやいや、何を考えているの? ……ヤ、ヤバイ……サヤの魅力が部屋の空気にのって、私のところまで届いてくる。くっ、くそっ……理性が吹き飛びそうだ。

 私がずっと黙っていたからだろう。サヤがこちらを振り向いて、少年のように整えた髪をなびかせた。館では見せない、もう一つの表情があった。少年に憧れている美少女の眼差しだ。それは性別を越境した魅力を醸していた。


 な、何かがおかしい……。

 部屋に入ってから、思考がおかしいことになっている。いや、元からおかしいけどさ。それにしても、変な気分になりすぎている。


「何か御用ですか?」

 サヤが近づいてきて、やっと原因が分かった。

 匂いだ。

 サヤが部屋の中を浄化させるために香料を燻蒸させていたようだ。中世では黒死病ペストの予防などに香料が使われていたため、サヤのしていることは変ではないけど、匂いから判断すると霊猫香シベットも燻蒸させていたようだ。一般的に動物性香料アニマルノートは催淫効果がある。


 つまり――この部屋は危険だ!

「あの……何か」

 サヤが何気なく伸ばした指が手の甲を触れた。その瞬間、正気に戻るほどの鳥肌がたった。

 何だと……。

 驚きすぎて、言葉にしたくなかった。これが乙女ゲーの主人公のスペックの高さなのだろうか、攻略対象者がサヤに狂ったようになるのが分かった気がした。そして、分かってしまったのが少し恐ろしい……。


 私は呼吸を整えて、男のフリをしてサヤに話しかけた。

「君に会いに来たんだよ」

「あのー、私はそっちの世界に興味は無いので」

 にこっと、天使の笑いをした。笑顔が恐怖心を浄化して、再び危険な領域に引きずり込まれた。

「君に用が無くても、俺にはある」

「あの……困ります」

 サヤは後ずさりをしたが、私はそんなことはしたくはない。

 私も困る。

 何とかして、漂う匂いから逃れないといけない、そうだ……窓を割るんだ。窓を割れば、外の新鮮な空気が匂いを消してくれる!

 うおー!

 こんっ……。

 左ポケットに入っていたアレが窓にあたり、床に転がった。

 サヤがソレを見て、私をじっと見つめた。

「あれ……ミレディ様ですか」

 バレてしまったようだ。


 サヤと一緒に部屋を出て、寄宿舎のホールで深呼吸をして、やっと正気を取り戻すことができた。

「錬金術師の件は、ロイ様が良いと提案したのは私ですので……」

 アルスもロイについて調べたようだけど、同じ学校のサヤの意見も聞いていたようだ。ただ攻略対象者とは関わりたくなかった。私が欲しい人材はこの国のギルドに関わっていない人なので、ロイはクリアしているけど残念ながら却下だ。

「他に錬金術師で、ギルドと関わっていない人がいないかな」

 サヤはしばらく考えていた。


 そのとき、美少年がホールにやってきた。


「……オーリも錬金術師だよ。先輩」

 黒髪で黄色の肌のシンだった。サヤと学年は同じだけど年齢はサヤの方が上だ。さっきは部屋の中にいなかったけど、テニスの練習をしていたのかも知れない、肉体は年齢相応だけどテニスの腕は天才的だ。サヤと同室で、サヤを先輩と呼び慕っている――4人目の攻略対象者だった。

「シン、テニスは?」

 サヤが私以外に笑顔を向けている。

 ……ムカつく……。

「うん、なんか変質者が出たらしくて中止になった」

「変質者って……男子高校なのに」

「ロイさんが襲われたらしくて、入れちゃうお兄さんが襲ってくるー! って叫びながら、寝込んでいるみたいですよ。先生たちが、不審者を探すから、みんな部屋にもどれって言われた」


 ロイという言葉を聞いて、サヤの目線が飛んできた気がしたけど、そっぽを向いて無視した。私に向けるのは好意の表情だけで良いのに……。

 つーか、入れちゃうお兄さんって語弊があり過ぎるんですけど! 私は鼻血を止めてあげようとしただけなのに……。というか、オーリか……モブキャラかな。そんな男いたかなー。

「外人さんだよね。褐色肌の」

「そうそう」

 いたー! エンディングの集合写真の画像で、何故か一人だけ褐色肌がいた。その子か……これは外人だからギルドと関係無さそうだし、話をしてみたいわね。

「オーリの部屋って分かる?」

「はい、案内します」

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