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「あらキルヒアイス様。このたびは、どういったご用件で」

 私はキルヒアイスが尋ねてきた理由を知っていた。彼は黄金が眩むような輝く髪を持ち、黄薔薇の紋章の首飾りをきらめかせていた。薔薇御三家の正統後継者の一人で、私は赤薔薇の紋章を受け継いでいる。

 黄色は裏切りの色と言われている……それは彼にふさわしいかも知れない。

 彼は口ごもり、しばし静寂が訪れた。

 私は無音のなか梅香に心を奪われた。

 彼が運命的な出会いをしたのを既に知っていた。というより、分かっていた。なので、この日のために私は周到に根回しをしていた。

 ご法度である賭け事を彼としていた。ちなみに悪徳大臣の証文付きでの賭け事なので、どちらも逃げることはできない。

 その内容は、今月のうちに私こと――ミレディとキルヒアイスは婚約を破棄することになる、という物だった。

 彼は絶対にそんなことは無いと、冗談めいて賭け事にのった。

 だが決意の言葉は無情だった。

 彼はある娘に心を奪われてしまった。これこそ、恋する男の顔だ。誰かを好きになった人の表情は美しかった。いままでは、その顔であらゆる女をたぶらかして、心を奪っていたが、最後にはある娘に陥落されてしまった。先に愛してしまえば負けた、美しくも惨めな片想いの男が目の前にいた。

「ミ、ミレディ……君は預言者か」

「あら、どうなさったんですか、キルヒアイス様」


 ここは薔薇革命という乙女ゲーの世界、気付いたら私はゲームの中に転生していた。しかも、なぜか主人公の恋敵だった赤薔薇の紋章を受け継ぐミレディだ。彼女はゲーム開始時には幸せなお嬢様のように見えるが、ゲーム開始時には両親を流行り病でなくしている。そのため伯父が後見人となっているが、実際は操り人形ではなく頭脳明晰で敵に回すとやっかいな才女だった。

 ゆえにキルヒアイスは最難関であり、プレイヤーから嫌われていた。ただ、キルヒアイスを攻略するしないに関わらず、婚約破棄のうえ、愛する弟からも見離され、零落令嬢として終わってしまうという可哀想なキャラだ。


 つまり――私は幸せになれないのが決定付けられていた。

 それは嫌だ。

 絶対に嫌だ。

 ……良い人生をすごすために戦うしかない。

 私は負けない。

 まずは貴様からだ――キルヒアイスよ。

 裏切り者には対価を払わせる。

 そして、この世界で立派に生きる資金にしよう。

 私は赤薔薇の紋章を守り、独力で生きてやる。主人公に蹂躙される男たちは無視だ。残念ながら愚弟も攻略対象なのであてにはできない。だが薔薇革命にはモブキャラが可愛いと言う特徴がある。そこをついて、私は必ず幸せになる。必ずイケメンモブキャラを夫にしてやる……そのために……私の幸せのために、堕ちるがいい――キルヒアイスよ……。


「どうか、なさいましたか。お腹の調子でも悪いので?」

「いや……」

 キルヒアイスは賭け事の清算をしに来たのに、額の大きさに敵前逃亡をしようとしていた。これは首根っこを掴む必要がありますね。

「本当の愛を知ったのですね。良いのですよ……キルヒアイス様」

 私の台詞――カッコイイ。相手を持ち上げて、逃走経路完全に塞いだ。男は矜持プライドが高い生き物、持ち上げられて逃げれるものなら逃げてみろ。

「……はい、すみません」

「私の勝ちですね。愛の価値はおいくらでしたか?」

「あなたの嫁入り時の持参金分です」

 よっしゃあ! 生きているだけで丸儲けっ!

 まさかこんな事になるとは思わなかったのだろう。私が負けたとしても結婚後の笑い話にするつもりで、ましてや自分が負けることなんてさらさら考えていなかったのだろう。

「どうぞ、お幸せにキルヒアイス様」


 金目の物を館に入れ終えると、家の中は静かになった。主人公に恋することになる私の愚弟には生活に必要な分だけあげて追い出した。どうせ主人公に惚れて出て行くのだから、悪い仕打ちではない。あとは家計が傾く前に、金を使って金を増やす計略を考えた。

 それはゲーム中盤から流行するファッション店を買収して、ファッション業界を牛耳るというものだった。だが、それまでに資金を更に増やす必要があった。

 運が良い事に、私には前世の記憶があった。本も読むのが好きだったので色々な知識が頭に入っている。前世の私なら不可能だったけど、ミレディは呆れるほどに頭が良かったので、本の内容を隅から隅まで思い出すことが出来た。ただ、人生の記憶はほとんど吹き飛んでいた。映画や音楽や小説の内容は覚えているけど、それ以外は霧の中に隠されたように思い出せなかった。ただ、思い出せないことに悩んでも仕方が無いので、自然と思い出すまで待つことにした。

 しかし……愉快だった。薔薇革命は何度かしていたけど、キルヒアイスのミレディに対する扱いが酷いが気に入らなかった。いくら好きな人ができたとはいえ、それまで好きだった人に対する態度では無かったからだ。ロミオとジュリエットのロミオみたいな男は、私は好きでなかった。

 なのでわりと、スッキリした。

「くくくっ……はっはっはっ!」

 思わず高笑いが出てしまった。

 あー、わたし性格わりー!

 こうして私は乙女ゲーの中で生活することになった。

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