九十九の扉
「ここの店も今月で閉店になるんですってね。」
「駅前の大型スーパーにみんな流れていっちゃうものねぇ。」
「つい、便利でねぇ。そういえば、今日もチラシ入ってたわー、お醤油が安かった・・・・・」
そう言って、自転車でと売りすぎて行った主婦の話が聞こえた。
CD店、本屋、雑貨屋、雑貨屋、洋服店、喫茶店、他にもたくさんの店があった。そのころは毎日人通りが多くて、たくさんの人たちが、いろんな話をしていて、それを聞くのが僕はとても楽しかった。
だけど、それはもう30年以上も前の話で、少しずつ店が減っていき、駅前に大型スーパーができたことで、人通りは目に見えて少なくなった。一店、また一店と店が無くなっていって、今はもうほとんどの店のシャッターが閉まったままだ。
僕ができた時は、携帯なんかもなくて、自転車に乗ってる人は珍しくて、今みたいに便利じゃなかったけど、たくさんの人が笑って、僕を喜んでくれた。
「これで隣町まで買い物に歩いていかなくて済むね。」
「便利になるね。」
「お店がたくさんあるよー!お母さん!」
そう言ってくれた人達の姿は、もう、ない。
―――― それはさびしいね ――――
そう聞こえたと同時に現れたのは木製の古びた扉。扉が開くと同時に僕はその中に吸い込まれた。
「ここ・・・は?」
僕の目の前に立っていたのは40代くらいのひげ面の男と5歳くらいの女の子。何かのお店だろうか、壁一面に飾られた電飾。もう2月だというのに、クリスマスをほうふつとさせるようなカラフルで明るく輝くいくつもの電飾。
「ふむ。これが君の中にある扉か、クスノキ商店街君。」
「キラキラできれいですぅ、ハナダー。」
ハナダと呼ばれた男は、女の子を肩に乗せくるくる回って見せた。
「そうでちゅねー!きれいでちゅねー!。」
大柄でひげ面の体型から放たれる赤ちゃん言葉に自然と眉間にしわが寄る。
「あなたたちは誰ですか?ここはどこですか?なんでぼくの名前を知ってるんですか?」
何の説明もないまま吸い込まれ、勝手に遊んでる目の前の二人に少し苛立ちを覚えながら聞いた。
ひげ面のハナダという男は女の子を肩からおろし、僕の方を向いた。
「俺の名前はハナダ、この子はルリちゃん、ここは俺の店で、君の中だ。この店は移動し、相手によって店の中が変わる。まぁ、不思議な店だと思ってくれ。」
「僕の中?で・・・?おじさんの店・・・・?」
僕の頭の中は?で埋まったが、なんとなく理解できた。その理解は理屈ではなく、感覚で理解できる気がした。店に飾られた電飾は輝いているものの、どれも新品という感じはなく、何か懐かしい気がした。
「あ・・・!」
思い出した。この電飾はクリスマスっぽいんじゃなくて、僕ができて、クリスマスの時期にいつも僕を飾っていくれている電飾だ。去年のクリスマスまでずっと使われていたものだ。
「おにいちゃんさびしい?キラキラいっぱいなのにさびしい?」
ルリという女の子が小走りで僕の元へやってきて見上げるように僕を見る。
「この扉は忘れられそうなもの、さびしいもの、古いもの、そんなモノの前に現れ、中へ迎え入れる。ここに来るやつはみんなさびしいと思ってるやつばっかりだ。しかし、こんな電飾で飾られたのは俺も初めてだが。」
男は店内を見渡すと珍しいものを見るようなめをこちらに向けた。
「で、クスノキ。お前はどうしたい。お前はもう十分働いた。たくさんの人を楽しませ、たくさんの店を見送った。だから、お前の前に扉が現れた。九十九の神が俺たちをお前に引き合わせたんだ。」
「おにいちゃんがんばったんだよ?だから、ルリがきたんだよ?そしたらお兄ちゃんの中、ぴかぴかできれいなのー!ルリねー、こんなピカピカでキレイなの初めて!」
女の子がそういうと男は愛おしそうに
「ルリちゃんは賢いでちゅねー、賢いルリちゃんにはほっぺすりすりしてあげまちゅねー!」
と男が女の子の頬をすると
「ハナダ、それはやめろと言っただろう。ひげが痛い。」
女の子はそう言い放つと同時に真剣な表情で男に平手を見舞った。まだ幼く見える女の子の平手にも関わらず、男は2メートルほど吹っ飛んで、ズイマゼン・・・と謝った。
その光景に自分の末路に不安と恐怖が襲ってきた。
「あの!僕はどうなるんですか?!」
女の子はこっちを向いて笑顔で大丈夫だよー、といった。
吹っ飛ばされた男がいつの間にか僕のそばまでやってきて、言った。
「君に残された選択肢は3つ。ひとつは、九十九神のもとに行って穏やかに暮らす。ふたつ目は転生する。もちろん、今までの記憶は消えるけどね。みっつ目は元の世界に戻る。ただし、次、いつ君にこの扉が開かれるかはわからない。この扉が開かない限り、九十九神のところにも、転生もできない。さぁ、どうする?」
「つくもんのところは他にもたくさんお友達がいて、いつもたのしいんだよー。ルリも時々遊びに行くんだー!」
「そうでちゅねー、また連れて行ってあげまちゅねー。」
楽しそうに話す二人をよそに、僕は急に差し出された自分のこれからのことを考えるので精一杯だった。
5分くらいは経っただろうか、女の子が僕に笑顔で近づき僕を見上げた。
「決めた?」
「はい。」
少し背筋を伸ばして、僕は出した答えを告げる
―――― 10ヶ月後 ――――
「やっぱり電飾で飾ると、シャッター商店街もクリスマスって感じがするわね。間に合ってよかったわー。きれいでしょー?」
母親に抱かれた生まれたての男の子は、電飾をとても澄んだ瞳で見つめ、言葉にならならい声を発し、手を伸ばした。
初めまして、葉月です。読んでくださってありがとうございます。
さて、初めて書いた物ですが、いかがでしたでしょうか?
できればシリーズ化を考えております。
良ければ次回作も頑張りますのでよろしくお願いします。
あと、二次創作で文月さんが書いてくださいました。
そちらもどうぞ。↓
http://ncode.syosetu.com/n7470cm/
よろしくお願いします。