9 ルベトの森 (休憩場所)
前方に黒い毛の獣がいる。
真っ赤な眼をこちらに向けて、涎を口から出し威嚇している。
太陽からさしてきた光が雲の切れ間から伸びて、その獣の姿をはっきりと見ることができた。
光を浴びて獣が眼をまぶしいのか細める。
その瞬間赤は、威嚇を無視してまっすぐに獣に進み、体に纏っている赤い炎の色のマントを左手で広げ一瞬でマントを実際の炎に魔法転換させた。
炎は赤の身体を包み込み、炎兜は両端から後方へ羽のように炎を出し、胴体は炎鎧となり、背のマントは炎のごとく熱く燃え防御魔法が動き始め、赤の左手には炎により炎大盾が握られ、右手には炎の剣が握られた。
炎の盾で獣の攻撃を受けると、盾の捕術により獣の動きを止め、炎盾からロープのような炎を地面に這わせ獣の脚に絡みつかせ固定させる。
獣の動きが悪くなったところで、青が上から二刀の魔剣で獣を狙う。
白がルーニー達へ防御魔法の壁をつくる。
三人組のコンビネーションプレイが発揮されていた。
盾、アタッカー、後方支援、冒険PTとしての各々の役目を果たしていた。
これが、初心者PTだと、役割以外のことを行おうとしたり、盾は嫌だとか、目立ちたいと思う心などで立ち回りがおかしくなりPT壊滅になるミスを起こすのが初心者で良くある。
自分の役回りを他の役回りを見ながら行うことがPT壊滅にならない一番条件なのだ。
そのことを知るためにルベトの森が学園都市と連携して森での初心者学生冒険者PTを支援している。
獣は魔獣よりも弱く、魔法を使ってこない。だが、初めて戦う学生には強敵であるし、魔獣と戦う前の訓練としては最適である。
ほぅ、とため息を出しながら、
「すごいな、さすがだねえ。」
と、無精髭の生えた顎を右手で触りながらルーニーは笑顔なのか惚けたのか分からない顔で戦闘を見た。
「ああ、大したもんだ、学生と比べるのも悪いが、ここらの森あたりの獣クラスは余裕だな。いや、森奥までの余裕だろうな。本当に今回の運び役依頼はおいしすぎるな?ネルソン。」
太陽のまぶしい光を手をかざしてベルガド達が戦闘を終えてこちらに歩いてくる三人を見た。
「ああ。本当にそうだよ、ベルガド。しかし、あの炎魔法鎧。防具屋が見たら泣くだろうなあ。あんなの普通の町防具屋にはないぞ。あの盾、炎でできているのかすごいな。
ブックルを親父連中首を長くして待ってるだろうからな最短コースいくんだろ?この道選んだってことは、ルーニーさん。」
道具屋の長男ネルソンも、苦笑を顔に出しながら戦闘に見惚れ眼を三人組からそらすことなくルーニーに言う。
「俺も久しぶりにあの道に挑むが、最短だろ?これは、それ以外ねえだろ。」
ルーニーも三人組から視線を逸らさず言った。
3人組の護衛兼依頼人が安定した強さなので、彼らは今回いつもとは違い安全感があるため、無駄口を叩けるほど余裕があるのだ。
彼らも冒険者ギルドに登録しているが、ランクは高くなく、学生達よりも攻撃力も低く防御力も低く先ほどの獣クラスも倒せれるが、時間と労力は今3人組がかかった時間の何倍も掛かるし、ダメージも何倍も多く受ける。
その後同じような軽い戦闘が何度かあり、前方に切り立った丘が見えてきた。
丘を指差しながらルーニーが言った。
「あの丘を越えた場所には小さな泉があって、そこに休憩場所があって、水もそこで補給でききるんですよ。あそこは獣も魔獣も出現できないように魔法が施術されてるので安心して休めれる場所になっていて。たまに別の学生PTもいます。」
休憩場所になっている場所には簡単な骨組みで作成し、雨風を凌げる屋根があるだけで壁はなかったが、休めれる木のベンチと綺麗な水場と簡単な火を焚ける場所があった。
高台にあるため回りを見廻せ、今は風がふいておりとても気持ちいい、すこし癒し風のようだ。
さきほどまでの森とは違いこの休憩場所は同じ森とは思えず、赤が問うたところ。
「このルベトの森は、初心者冒険者PTの為に、このような休憩場所が十数か所設置されていて、もし学生PTなどが逸れたり、迷子PT、戦闘不能PTになった場合にはこの休憩場所で助けを待つための場所でもあるんです。
常に巡回PTが休憩場所を決められた順番で回っているので、最低でも二日こういった休憩場所で待てば巡回PTと出会えますからね。
町に近い休憩場所は、今いる休憩場所よりも簡易的に作成されてます。
今居る森の中心部クラスでこれくらいの整備しかありませんが、周りには一応薬草や食べられる食物が生えているんです。
ルベト森最奥場所にある休憩場所には魔法力回復と体力回復の水晶も設置されてるんですよ。」
ルーニーが地図を広げながら現在地と最奥場所を指し、これから向かうブックル生息地を指差し最短のルートを選んでいく。強い獣と、強い魔獣も出る可能性が高いというか、絶対出るらしいが、他メンバーも反対することなどなく、進む道は決まった。
ただ、帰り道だけは最短ではなく、少し町まで遠回りになるが大きな道を選んだ。
ブックルが大きいことが理由でもあるが、生きたまま運搬する為、やはり道幅がすこしでも大きいほうが多少遠回りしても時間が短縮になるとルーニーが説明していく。
反対の理由などまったくなく満場一致でそのルートに決定する。
地元のギルド員の意見に反対するなど、愚であることを言っているようなものだ。
ルーニーも依頼主の赤が自分の意見に同調してくれることがとても信頼されていると感じており、かならず赤が思っている期待を上回りたいとがんばっている。
学生などのPTは、もっと道なりについてもこちらが選んだ道筋以外を指定してきたり、ペース配分にも指定されることなど日常茶飯事であり、今回のPTのように信頼され、説明をすれば同調して、そして信頼していると会話の節々に入れてくれる依頼主など本当に久しぶりだったのだ。
このルベトの森と、ルベトの町の相互関係の説明など普通ならすることないが、知ってもらいたいのだろうか、ルーニーの説明は終わらない。
ルーニーとの会話で、赤は色々質問してゆく、他のメンバーも説明に補足をつけていく、気がつけば休憩場所で笑っている皆がいた。




