9 ルベトの森 (初心者達の苦い思い出)
ドアを力任せに開けた音がルベト冒険者ギルドの扉から出た。
ギルドに入ってきた男二人組みは異様であった。
普段のギルド受付待合室では見たことが無い装いである。
そう、二人組みの装いは、普段の冒険者ギルドでは見ることの無い、今さきほど起きてきました状態の寝間着だったのだ。
さらに、異様なほど目をぎらつかせ、ギルド受付窓口へまっすぐに早足で進み、
「冒険者赤殿が出した運び屋の依頼を受けたい。俺と弟二人。」
窓口受付にいる赤髪の中年女性は、ニコリと笑顔を二人組みに返し。
「はい、受け付けるからほらほらギルドカード出してね。」
その言葉を聞き二人組みは笑顔を零すのであった。
「おい、依頼ボードの前で時間潰しておけ。依頼について俺が聞いとく。」
「ああ。わかった兄貴、あそこで時間潰しておく。」
そう言うと、弟らしき男が、依頼ボードの前に行き、ボードに貼ってある現在ギルドで募集されている依頼の内容の紙を順番に見ていく、そしてある依頼内容の書いてある紙のところで目を止めた、そっとその依頼用紙の場所を肩で隠すようにボードに寄りかかった。
肩をつけた依頼用紙の隣に貼ってある別件の依頼内容の紙を手で摘まみながらあくびをした。
その様子を兄らしき男は横目で見ながら受付の赤髪の女性と会話し始めた。
依頼受付手続きと内容確認もそろそろ終わりごろ、ギルドの扉が開いた。
今年の春から冒険者PTを組み始めた、初心者仲間の4人組だった。
日が昇ったこの早朝にギルドにいるはずのない道具屋の兄弟がいたので4人はびっくりした。
自分たちは深夜から早朝まで、ルベトの町の深夜見回りの依頼を請けており今ギルドに来たのは依頼完了で報酬をもらいに来たのだ。
ルベトの町は学園都市の学生が始めての冒険でくる町であり、学生はそれこそ上級貴族から平民までおり、町の防犯をきちんとしておく為にも初心者冒険者が深夜見回りの依頼をよく請けているのだ。
冒険者ギルドに登録したばかりでランクは「見習い冒険者」
その初心者4人組が目を大きく見開きギルド窓口にいた道具屋長男を見る。
寝間着姿だ。
なぜ寝間着姿なんだろう。
あれ?、とリーダーは依頼ボードの前に立っている男を見た、そこには道具屋次男が寝間着姿であくびをしながら、ぼんやりと立っている。
4人組の目線を受けながら、
「兄貴ぃー・・・・俺眠いよ。早く依頼をだせよーギルドにー・・・ねみぃーーー・・・。ふぁーー・・」
道具屋次男があくびをしながら、長男に向かって言う。
ああ、道具屋が何かギルドに依頼を出しに来たのか。
何か急な依頼なのかな?俺達でも請けれそうなお使い依頼だといいな。
4人組のリーダーが、横にある椅子にかけながら、依頼は何かな?と仲間に話しかけ始めた。
そこにものすごい音とともに冒険者ギルドの扉が開いた。
肉屋の息子が従兄3人(もちろん寝間着姿を)連れて、ものすごい勢いでギルドに入ってきた。
行き成りでびっくりする初心者4人組。
肉屋の息子はギルドの中に、春から冒険者を始めた4人組がいるのを見て、目を強張らせた。
すると、道具屋次男が無言で無精ひげの生えた顎で窓口のほうを示す。
無言で肉屋の息子達は、ギルド窓口にいる道具屋長男の横に立つと、受付が完了していた道具屋長男が横にずれた。
ギルドカードを4人が出して代表して肉屋息子が言った。
「運び屋の依頼を請ける。4人だ。」
赤髪の女性がふふふと笑いながら
「はいはい、ギルドカード受付するわね。」
そう言いカードを受け取った。
受付するのを見ると、道具屋次男は依頼ボードから離れ、窓口の近くへ行き、自分のカードを兄から受け取った。
そこで、初心者PTのリーダーは、気がついた。
なぜ、道具屋の次男が今ギルドカードを受け取った?
道具屋は依頼を出しに来たのではないのか?
そして、寝間着姿3人引き連れてきた肉屋の息子が今、なんの依頼を受けている?
リーダーが考えていたとき、仲間の一人が依頼ボードのほうへ行った。
そして、さっきまで道具屋次男がいたあたりの依頼ボードの紙を見た。
「あ・・・」
初心者冒険者4人組は今後このルベトの町で走ってる道具屋と肉屋を見かけたら迷うことなくギルドまで走ろうと心に深く深く刻んだ。
今回の旨い話は寝間着姿の道具屋息子二人と、すごい勢いで入ってきた肉屋の息子と、寝間着姿のその従兄三人が請けたのだ。
ギルド職員が依頼ボードから今回の「赤」の依頼をはずす後ろ姿を見ながら4人は悔しそうに見つめるのだった。