第一章 六人の廃人
「よー。来てやったぜぇ~」
隆一は急にやってきた。
大きなヘッドホンを外して、冬馬のほうを見るとニカッと笑うと頭を撫でる。
「調子はどうだ、ガキンチョ?」
冬馬は懐かしい人の手の感触を感じながら答える。
「あ、はい。大丈夫です。」
冬馬は、うつろな目で隆一を見つめていう。
「そっか、ならいいんだがなぁ。」
笑ながら隆一はそう言うと、もう一つのベッドを見た。
「なぁ、郁人。」
すると、郁人はキッとした目で冬馬を見る。
「そんなうつろな目して大丈夫な訳ねぇけどな。」
郁人はそう言うと、目をつぶった。
「お前さぁ、ほんと昔っから目つき悪いよなぁ。」
「うるせぇ。」
「よく、怖くねぇな。ガキンチョ。」
「別に、怖くないです。」
「こいつ、小さい頃写真見てても一枚も笑ってる写真がねぇんだぜ。」
隆一はそう言うと笑った。
「おもしれぇことがねえから笑わねぇだけだ。」
「だけどよぉ、写真撮るときぐらいは笑おうぜ。なぁ、ガキンチョ?」
「あ・・・はい。」
と、その時、病室の扉がいきなり開く。
「・・・・・・・何をされているのですか?」
そこには、一人のナースがいた。
古村亜里沙。ここの、一人目の担当看護師だ。
「あ、亜里沙ちゃんだぁ。」
隆一は、ヒラッと片手をあげて言う。
「また、あなたですか。片山さん。いい加減、この病室には入らないという約束を守っていただけませんか?」
古村はそう言いながらも、てきぱきと注射器をセットする。
「またまたぁ~。亜里沙ちゃんってホント冷たいよなぁ~。」
隆一はそう言いながら、古村に近づく。
「はい、貝島さん。注射させてください。」
古村が注射を郁人に打とうとした時だった。
「おっと・・・・」
『ドンッ』
「あっ・・・・・」
隆一が古村にぶつかり、注射器がおちて割れ、中に入っていた透明の薬品が流れ出る。
「ごめんごめん。亜里沙ちゃん。」
「・・・・・・・・。」
「ほんっと、ごめんって。わざとじゃないんだからさ。ね?」
「・・・・・・わざとらしかったですけどね。」
古村はそう言うと、注射器の破片を取る。
「ここら辺に、近づかないでくださいね。危ないですから。すぐに、綺麗にしますから。」
そう言うと、さっさと出て行った。
「・・・・演技が下手だな。相変わらず。」
郁人がそういうと、ヒヒヒッと隆一は笑う。
「あんなの、毎日打たれてたら、三日で昇天だぜ。」
「ふんっ。しょうがねぇだろうよ。患者なんだから。」
「ったくよぉ、ガキンチョ。お前も、気を付けろよ。」
「・・・・・・・・あ、はい。」
すると、また病室の扉が開く。
「はーい。おはようございまーす・・・・って、また片山さんですか?」
「お、奏ちゃん。おはよー。」
そこにいたのは、ここの二人目の担当看護師だった。
「おはようございます。もう、古村先輩に怒られますよぉ~?」
「だいじょーぶ。さっき、会ったから。」
「はぁ、もう、片山さんはぁ~。」
「そんなに嫌?」
「特には。でも・・・・・・・・」
奏は、先ほどの注射器の残骸を見つめながらニヤリと笑った。
「注射の邪魔は迷惑ですよ?」
すると、隆一は一瞬真顔になりながらもすぐに元に戻って
「アッハハハハハッ!やっぱ、ばれちまったかぁ~。クソォ~。」
二人が、なぜか盛り上がっている中、郁人はため息をついた。
「はぁ。つまんねえ・・・・・」
冬馬は焦点の合わない目で天井のほうを向く。
「・・・・・・・・・・・。」
異様な空気。
二人の笑いあう男と看護師、ため息をつく一人の患者、上をただ見上げる患者、そして病室の外で黙ってその光景を見つめる看護師と医者。この六人が、225号室の病室に入ることが出来、225号室にかかわる人・・・・・・・・つまりはゴミと同等の廃人なのである。