彼女との出会い
慣れないアルコールを嗜んでいると、背後から「相席構いませんか」と声を掛けられた。
振り返ってみると美女がこちらを向いて微笑んでいる。慌てて荷物をどけると、彼女はお礼を言って隣に座った。
ちらちらと隣を覗き見していると、彼女はふふふと笑いながら、「どこかでお会いしましたっけ?」なんて声を掛けてきた。
こ、これはチャンスか!舞い上がる心を抑えるために酒を口にする。長針が一周する頃には、僕の前には大量の空き瓶が転がっていた。
ふと気が付けば、隣には誰もいなかった。どうやら僕は酔い潰れて眠ってしまったようだ。
折角のチャンスになんて馬鹿な事を。舞い上がって酒を煽った自分に説教をしてやりたいが、今となっては後の祭りだった。
会計を済ませようとすると、既に代金は貰っているとのこと。彼女からの言伝を受け取ったけど、お礼と言われても何のことだか皆目検討も付かない。
靴を履くと、中には細長い紙が入っていた。
これは短冊?そういえば、今日は七夕か。
短冊には一件の住所と靴の絵が書いてあった。
再び舞い上がる心。
こ、これはもしや、自宅へのお誘いか。据え膳というやつなのか。
思わず緩む頬を押さえながら良く見てみると、その短冊にはなぜか一年後の今日の日付が書いてあった。
僕は暫く悩んだ後、店長に短冊を預けて、ひとつのお願いをした。
あの笹は来年も飾るんでしょう。なら、この短冊を来年の、一番見えやすい位置に吊して下さい。織姫と彦星に見せつけるようにお願いします。
笑い声を上げながら任せろと言って胸を叩く店長に頭を下げて、僕は店の扉を開いた。
さあ、来年はお前の番だ。頑張れよ。誰にも聞こえないであろう呟きを残し、僕は扉の向こうへと消えていく。
腕時計を見ると、短針と長針が真上を向いて重なり合うところだった。
それはまるで織姫と彦星が心待ちにしていた出会いの瞬間みたいで。
僕は思わず空を見上げる。
そこには美しい星空が、どこまでも、どこまでも広がっていた。
最後までお付き合い頂きましてありがとうございました。
『卵が先か鶏が先か』
一度はこうしたテーマを扱ってみたいと考えておりました。
彼女と彼の時系列の問題については読者の皆様のご想像にお任せいたします。
改めて、最後までお付き合い頂きましてありがとうございました。




