第2話 日常
俺の名前は黒山明久。
皆からはアキヒサと呼ばれている。
妙なあだ名を付けられなかったのはラッキーかもしれないが、友達の間だと有名な事がある。
それは俺がシスコンと呼ばれていることだ。元凶は、今は家にいない妹である。
妹が家から出て行って早くも2ヶ月近くたっていた。
「…もう朝なのかぁ?」
「明久、しっかりしなさい。学校遅れるわよ?」
「うー…今日はサボりでよろしくぅ…。」
「バカ言ってないで、さっさと起きなさい。朝ごはん冷めちゃうよ。」
「…わかったよ。眠いから顔洗ったらいくよ…。」
当時兄妹で使っていた部屋は二階にあり、リビングは一階だ。
何度か階段を踏み外しそうになりながら、リビングに行き、朝飯をすませ、俺は学校へと重い足を動かし歩き始めた。
「おっす! 相変わらず死んだ魚みたいな目してんぞアキヒサ……」
「うるせぇ……」
こいつの名前は、春山 健斗
クラスのムードメーカ的存在だ。正直クラスでも地味な俺になんでつるんでくるのか、よくわからない。
顔は悪くないのに、なぜか彼女はいない。
「おっと。そろそろ授業が始まるぜアキヒサ」
「あぁ・・・ 」
一時間目は・・・英語か・・・・。
まったく、なんで日本人の俺が外国語をこんなに熱心に勉強しなくちゃいけないんだ・・・
と、一人文句をいうが、授業がそれで変わるわけではないので俺は自分の席についた。
「アキヒサ! 食堂いこうぜ!」
妄想の世界にいる間に昼休みになっていたらしい。
「あぁ……」
俺たちは廊下にでて、食堂へと足を進めた。
「ところで、アキヒサ……お前最近オンラインゲームにハマってるんだって?」
「あぁ…… 健斗お前もやろうぜ」
そう、妹に誘われて始めたオンラインゲームに俺はすっかりハマってしまっていた。
「いや、俺は遠慮しとくは、パソコン家にねぇし。
それにしても、お前がゲームにはまるなんてめずらしいなぁ。」
「あぁ・・妹に誘われてな・・・・」
「あぁ・・・さすがブラコン・・・」
「ブラコンいうな!!」
そんなやりとりをしている間に食堂についたようだ。
とりあえず、席を確保すると俺はいつも通り、きつねうどんを頼んだ。
「お前、いつもそれだよな。」
うるせぇ、きつねうどんほどコストパフォーマンスにすぐれた食べ物はないというのに。
俺がうどんをすすっていると、食堂がざわつきはじめた。
「なんだ?」
「おい、明久 あれみろよ」
みんなの視線の先をみると、そこには一人の女性が立っていた
ダイヤモンドを溶かしたような、幽邃な瞳。
流動する黒い宝石のような長髪。
雪のように白い肌。
桜のようにうすいピンクの唇。
清楚で、でも肉感的な肢体。
育ちのよさを感じさせる立ち居振る舞い。
穏やかな人柄。
教員からの信頼も厚く、文武の人でもある、まさに完璧超人だ。
「月島 楓(つきしま かえで)先輩だ、相変わらずすげぇ人気だなぁ・・
まわりの男子どもの目がハートになってやがる。」
たしかに、俺も一瞬目を奪われてしまった。でも、
「俺は、ああいう完璧超人みたいな人は苦手かな・・・」
「あぁ・・・たしかにアキヒサには似合わねえよな! それにかわいい妹さんもいるし…」
「うるせぇよ……」
あっという間に昼休みが終わり、午後の授業も俺は机の上で惰眠をむさぼっていた。
「おい、アキヒサ。 ゲーセンでも寄って帰るか?」
「いや、今日はいい」
「そうか、じゃあな!」
そういって、手をふってくる友人に。俺は手を無造作に振り返し、帰路についた。
「ただいま」
だれもいないとわかっていても、つい口にだしてしまう。
ほんの2ヶ月前までは、ちゃんと、返事が返ってきたからだ。
あぁ、俺ってやっぱブラコンなのかなぁ……
そんな、ことを思いつつ、俺は部屋に入りパソコンの電源を入れる。
「む、妹はログインしてないか。」
しかたない、一人で狩りに向かうか、そう思い街を出ようとすると。
「アキヒサさ――ん、」
遠くのほうから声が聞こえる。
「もう、ひどいじゃないですかぁ………
、狩りするときは一緒にしようって約束したじゃないですかぁ!」
こいつはカエデっていう名前だ。
ほんの2週間ぐらい前の話だ、レベルが10ぐらいのくせに、俺がいる中級者プレイヤーが集まる狩り場にいて、俺が保護したのだ。
それから、いろいろとこいつの世話をしているうちに仲良くなったというわけだ。
仲良くなっていくにつれて最初はおしとやかだったのに、最近では下ネタとかも平気でしゃべり始めて、なんというか、まぁ……化けの皮がはがれたな。という感じだ。
けどおかげで、こいつと話していて退屈することはない。
「で? 今日はどこにいきます? アキヒトさん とりあえず、ホテルで聖夜を共にしますか?」
………とりあえず、無視しよう。
「まぁ! 無視するなんて、なんて鬼畜なの・・でもそこがイイ 感じちゃう・・ビクンビクン!」
はぁ、と俺は大きなため息をつく。
まったく、アホ女の世話は一人で十分だっての、
とりあえず、妹が来るまでこいつのレベル上げを手伝ってやるか・・・
にしても、こいつの名前・・・カエデか・・・本名か?
もしそうなら、同じ名前でもこうも違うとはねぇ・・・
俺の目の前ででスライム的な物体に突撃して、瀕死状態になりながら俺の名前を叫んでいる、カエデをみながら、
今日学校で見た完璧超人………月島楓のことを俺はふと思い出していた。
「お兄ちゃん!」
を、ログインしてきたか。
「今どこにいるの?」
「今は・・・はじまりの森だ」
「はぁ!? どうしてお兄ちゃんがそんなところに!?」
それは、カエデのレベル上げを手伝っているからだ、と言おうとして手を止めた。
実は言うと、妹とカエデはあまり仲が良くないのだ。
俺としては同じ仲間として仲良くしてほしいんだがなぁ……………
「ちょっと、気分転換にだよ。」
「アキヒサーー、いい加減助けてくれぇーーー」
やばい、忘れてた。
俺は、スライム的物体を一撃で倒すと、カエデにおもいっきり抱きつかれた。
「おい、離れろって!」
「お兄ちゃん? だれと会話してるの?」
しまった。
俺はカエデと妹二人を仲間に入れているから、打ち込んだ会話は二人に記されるのだ。
「もしかして、まだあの初心者野郎にかまってるの!?」
「しょうがないだろう……」
俺はため息をつく。
カエデは隣で首をかしげている。
「とにかく、今日は私と狩るって約束したでしょ!?」
「わかったよ…………」
俺は捨てられた子犬のような目で見てくるカエデをなんとかなだめて、妹の待つ街
アークタウンへと向かった。
「おそい! 罰金!」
んな無茶な………これでも相当急いできたのに。
「それより…………少し交渉したいんだが」
「交渉?」
「あぁ」
俺はアイテムボックスを開いた。
「!?・・・・それ!!」
これは俺がソロ狩りをしているときにたまたま拾ったレアアイテムで、
ピンクのリボンがついたその愛らしい防具は女性ユーザーに今人気のアイテムだ。
「で・・・条件は?」
「カエデと仲間になってくれ。」
「はぁ!? どうしてわたしがあんな初心者なんかと…」
お前も最初は初心者だっただろうが…
「お前とあいつの二人を相手にするのは疲れる、少しでも俺の負担を減らすためにもあいつと仲良くなってくれ。」
「…………わかったわ、交渉成立ね、申請は後でわたしからしておくわ。」
よかった、これで少しは気楽にログインできる。
俺の悩みの種がひとつ減ったわけだからな。
「ねぇねぇ、アキヒサ?」
なんだ・・カエデか・・・・
「どうした?」
「なんか、知らない人から・・よろしく、泥棒猫さんってきたんだけど?」
こいつは………
俺は隣で、俺の渡したアイテムを身につけてうれしそうにしている妹をみて、ため息をつく。
「やれやれ・・・・」
今日一番のため息をつきながらも、この平凡な日常に俺は幸せを感じていた。
だからこそ守りたかったんだ……この日常を。