科学、宇宙、地球、生命の誕生と進化
どことも知れぬ場で自己紹介を求められ、科学から宇宙とこの宇宙の物理法則、地球の成り立ち、地形と気象、生命の発生と進化を語り続ける。
*プロローグ
自己紹介?
見回すが、暗いわけでもないのに何も見えない。肉体に不快感は感じられない。
とにかく自己紹介をしなければならない? 誰に……何に? 自己紹介を求めているのは誰だ? 何だ?
炭素ベースでない異星人だったら? 24次元のゲログベチャな怪物だったら? 剣と魔法世界の魔術師だったら? 時空やエネルギーなどの概念を絶した形容できない存在だったら? 神や天使や悪魔だったら?
相手は日本語と数学と論理はわかる、と。それを信じるしかないか。そっち側には理科年表はじめ大量の本がある、と。こっちにも欲しいけどないならしょうがない。
***
さて、では……あなたがたが何次元の存在かもわからない以上私が生まれた宇宙から、いやそれも科学的宇宙像でしかない、その科学から説明しなければならない。キリスト教徒やなんとか族なら話は短くてよかったんだろうが。
くそ、いまの最初の言葉の「次元」「宇宙」「科学」「説明」でさえ、どれだけ私自身理解してる? ほとんどのことは、「人間なら生まれつきわかる」こと、別の存在に説明することなどできないことじゃないか? 同じ言語を話す同胞にだって、ちゃんと説明できるか? 説明したところで、受け入れる同胞がいるだろうか……人は言葉の正しさより、先に私の服装や態度や肩書で判断するものなのに?
たとえ百科事典から引用するとしても、それが相手と同じ認識になるのか、学派などで解釈が違わないか? 同じ言語で育った幼児に正しく説明できるか? 違う言語で育った同胞に説明できるか? まして、いかなる共通前提も持たない相手に説明が通じるのか? 理解するということはどういうことだ、別の存在が「理解」するということは?
少なくとも言葉と数学と論理は理解してくれる、という直感を信じるほかないが、私自身の使っている用語に対する無理解は……全部徹底的に学び直す余裕はない、あとで自分の無理解が分かったときに再検討していくしかない。最終的にはすべての単語を百科事典で再検討したほうがいいぐらいなんだな……
あと、自分が人間であること、そして私個体が得てきた情報や情報の欠如が、これから言うことに多くの偏りを与えていることは理解して欲しい。
*科学
さて、「科学」とは私が属する文明が元としている考え方……の一つだ。同胞で「科学」を考えの基盤としている人は少数だし、またあらゆる同胞にとって科学的な考えや言葉はごく一部でしかない。
科学というのはぶっちゃけていえば、後述する「試行錯誤」を数学を利用して厳密にしたものだ。細かく言葉にすれば
「現実と矛盾していない反証可能な仮説を〈科学的に正しい理論〉とする」
「観測できるもの以外は存在しない(形而上の否定)」
「物事には原因があり、あらゆる物事は原因の結果である(因果律)」
「あらゆる物は世界全体という巨大機械の部品であり、何かの機能を果たしている」
「同じ条件で実験すれば同じ結果が再現できる、少なくとも統計的には」
「世界は数学・論理できた仮説で予測・説明できる」
「目で見たもの、実験結果は世界のありのままの正しい姿で、それは誰が見ても、誰が実験しても変わらない。それが仮説と一致していれば、仮説は正しい理論である」
「一番簡潔な、数学的に美しい説明が一番いい説明だ」
「複雑なものは共通の要素を探して分類でき、何らかの法則性が必ずある」
「心と物体の世界は別で、心で何を思っても外の世界は変化しない」
などかな。ほかに思い出せればいいんだが。
まず私にもある目や耳などで世界を見る。そして見えたものを記録する。目で見えないほど小さいものや遠いものも道具を工夫して見る。
また実験をする。世界に起きる物事が複雑な場合はその中のある面だけを切り取る……たとえば落下で、重さが違っても落ちる速さは同じことを確かめるため、重さ以外の大きさや形や表面の色や形は同じ球を作って落とし比べるなどする。真空のような、普通の世界にまずないことを試してみるためにも実験する。
そういう事実、観察と実験の結果の集まりだけでもいいはずだが、普通はそれを説明する仮説を作る。その時注意するのは擬人化を避けること。科学以外では人間は何でもかんでも擬人化するが、その擬人化の替わりに科学では数学モデルを作る。擬人化についてもまた後で。
要するに正しい予知ができれば……できている限りは正しい理論、という考え方にもなるか。
普通はややこしい数学モデルがあり、それをうまく日常言語も使って理解できるようにする。ただし非常に小さい世界の物理、量子力学は日常言語ではどうしようもなくて数学でしか理解できないけど。
一般には観察するまたは実験結果を手に入れる、仮説を作る、それを精緻な数学モデルにする、その数学モデルが今まである観察や実験結果と食い違わないか調べて、食い違いがなければとりあえず正しいとする……まあ大抵はそれだけでなく、数学モデルから今まで見たことがないようなことを予測し、そんな状態を実験で作ってみたり、ありそうなところを観測したり、その実験結果と数学モデルが食い違わなければ誰もが納得する。
我々の世界には、根本的には一つの実数値として測れるものごとがけっこうたくさんあって、どの性質の数値を測っているかを次元と呼んでいる。
それが科学の正しさの根拠と言える。「科学的な真実」はなんだろうと、誰でも実験して確認できる。実は私は科学の多くをちゃんと理解していないし自分で実験して確認したわけではないが、まあ恥ずかしながら「科学的に正しいと言われている」ことは正しいと鵜呑みにする習慣がついている……全部自分で実験できるが、ものすごいカネと時間がかかって正直やってられないんだ。
あと、なぜ科学を基準にするのかと聞かれたらだけど、とにかく科学は他の方法に比べて予測が当たるし、新しく便利なものを作ることもできる。あと美的にもいい。それぞれの言葉は後で説明するよ。
でもこれから述べることは、できるだけやろうと思えば実験で確認できることだけにしたい。これから述べることの一つ一つについて、発見した人が歴史の制約の中でアイデアを思いつき、実験し、それを認めさせる苦労が一つの人間ドラマとしてある。それを略すのは残念だが、それを全部入れたバージョンを考えるととんでもない量になる。それに人類の歴史と平行して科学の歴史を積み上げることになる。
*感覚による宇宙、時間
さて、一応それが科学で、次は宇宙か。
まず私が普通に暮らしている世界を少し描写しよう。
その前の感覚かな? 前後、左右、上下、そして過去未来と四つの向き、何より基礎的な次元がある。その前ってのも、後で説明する人間の形とかからなんだよな、考えてみれば。ヒトデの延長の生物にとっては五つの方向があるだけだろう。距離・面積・体積・角度については……それも解説しなければならないのか? 勘弁してくれ。多くは人間にとって、説明不要な生来の概念とされているから説明しようとするとものすごく難しくなる。逆にもしそれがわからない子供がいるとしたら、学習が困難なのも当然か。さらに物理学や数学基礎論から徹底的に突き詰めるとこれまたとんでもなく難しい話になり、人類の現在の知を超える。
その三次元の空間に、「もの」があり、三次元で許される限りの形と大きさがある。形って言葉自体意味をなさない異星人がいるかもしれないが、どう説明すればいいやら……本質的に、人間は二つかそれ以上の「もの」を同時に認識することができる。そしてそのいろいろな要因を比較……どれぐらい違うかを情報としてとらえることができるんだ。一次元世界の記憶を持たない存在にとっても、その宇宙すべての要素を常にわかってる超存在も、複数の「もの」を比較することは考えもしないだろう。人間が認識する最も重要な要素が「形」で、それは三次元空間の……数学的に厳密にしようとしたら暴発するな。やっぱり伝達は不能だ、もしこれを、目が見えない人が点字や朗読で読んでるとしたら、「形」って言葉が同じ意味といえるのかどうか断言できない。
形を変えずに大きさを変えると、面積……ある方向からの断面積も表面の面積全部も……はサイズの二乗、体積はサイズの三乗で変わる。だから大きくなれば面積の割に体積が増え、小さくなれば逆になる。同様に、二次元に見える物事は周囲の長さがサイズの一乗つまり比例、面積がサイズの二乗で変わる。
また、「もの」の運動の自由度は前後・左右・上下への平行移動、そして直交する三軸で回転運動と、六だ。逆に「ものが動く」いや「変化する」ということが起き、我々がそれを認識しているのが、少なくとも我々のサイズでの我々の知覚だ。
運動というのもわかりにくいが、要するに認識できる範囲なら複数のものを、その相互の位置関係、また自分とのある程度の位置関係ごと認識でき、そしてその位置関係が時間にそって変化することがあり、人間はその変化そのものを主に後述する視覚で認識できる。それ自体考えてみれば二次元以上の存在でなければ不可能だし、記憶が皆無なら実質意味がない。
次元が本当に正確に三次元という定整数なのかは知らない。本当は二十六次元とかかもしれない。非常に複雑な形について数学上出てくる端数の次元があるかもしれないが知らない。また三次元では無限に関するある前提を正しいとした数学だと、ばらして組めば同じ物を二つでも倍の大きさでも何にでもできるが、人間はそのあたりは無視してる。その他面積や体積についての高度な数学がどう働いているかも知らない。
さらに言えば、人間は時空を連続的なものと把握するが、ある程度より小さいサイズでは全てが意味を失うから誤りだ。後述するが小さいスペースではとんでもない数学ルールに従うものが集まる結果、統計として実数座標時空上でものが動いているように人間が認識しているだけ。
順序がある数、連続する実数を好むのも人間のその性質からか。
そして人間は、ものが運動しているかどうかだけでなく、ものの質を見分けることもある程度できる。運動しないまま質だけが変化することもある。
「もの」は、ある時間・位置に存在する。そして複数の「もの」が接することもあり、そのときも様々なことが起きる。互いに運動していれば熱と呼ばれる状態の変化になる摩擦もあるし、形を変えることもあるし、さらに双方の質が変化することさえある。
そうそう、こう言っている「人間」、認識をしているのも、その「もの」のひとつだ。
さて、普通私たちは、非常に広い地面……でこぼこがある平面の上に暮らしているように感じている。
ただしでこぼこがない広い所で見回すと、見える限界の地平線があって、それがぐるりと取りまいているように見える。「見る」と「光」も説明は難しいな。
今私の……私たち人間の体の描写は後で詳しくやる、とにかく前という方向が個体にとってははっきりある。左右は比較的弱いが人間は区別する。ただしその「前」は「いま自分が向いている方向」でしかない。九十度右に回れば、前だった方向は左になり、左だった方向は後ろに、後ろだった方向は右に、右だった方向は前になるし、逆立ちすれば右は左に、上は下になる。ただし三次元に拘束されており、面や線や点を基準に反転する変換は気軽にはできない。
また上に移動しようと飛び上がってもすぐ落ちる……地面に引き戻され、地面にまたぶつかる。下に移動しようとしたら、今踏んでいる地面をなしているなにかを別に移動させなければならない。といっても人間だけの話だな、空を飛ぶ・樹上生活・水中・地中など色々なところで暮らす生物もいる。ああ、生物という意味もわからないか……あとで言うよ。で、普段の人間は、世界はある意味二次元とも認識している。まあ落ちるものと落ちないものがあるように見えるけど、自分自身を含めて大抵の物は何でも地面に引っ張られ、支えがなければ落ちて地面に押しつけられるから感覚的に上下は非対称に感じている。といってもそれは人間のサイズでだ。ものすごく小さいほこりなどは空気に下からぶつかられて長時間浮いている。
人間は力を使う。自分自身や、自分の外にある物を動かしたり形を変えたりできる。重い物を動かすにはより大きな力が必要になる。素材が同じなら体積と動かしにくさ、すなわち質量は比例する。同じ大きさでも、素材によって質量が違うことがありそれ、密度は素材そのものを区別する本質的な性質の一つだ。他にもいろいろな素材、色々な性質がある。
**時間、周期
そして何より時間という軸がある……それは感覚的な、はっきりと非対称なものだ。向きとか左右とか距離とか同様、時間を説明するのは非常に困難だ……もし「この説明を聞いている何か」に時間の概念がないとしたら、それを説明するのはほとんど不可能だが……私たちが感じるものさしの一つだ。
時間は「記憶」「運動(変化)」「周期」という概念とも不可分だ。また、ある程度の範囲を「全体として一気に捉える」という人間の能力がない限り、運動や変化は感知しようがないからそれらの概念は無意味になる。完全瞬間移動が一般的な現象でない世界で暮らしていることも重要なんだろう……いや、極微だと存在は確率的で瞬間移動も当たり前だから、人間がこのあたりのサイズだからできた認識だ。
確率というのも人間の考えで、「あることをたくさん繰り返すと、様々な結果が起きる。どれが起きるかはわからないが、繰り返した回数とある結果が起きた回数の比率の比率はわかる」ときのことだ。我々の世界には、そのようなことがとてもたくさんある。
で、変化は時間を用いて表現できる。ある「時点」での状態が、別の「時点」の状態と異なることを変化という、と。人間は前の時点における状態を記憶し、それと今の時点の状態を照らし合わせて違いを判断できる。
まず周期、順序と等速直線運動を理解して欲しい。たとえばこの脈拍はほぼ周期的に拍動している。等速直線運動は……時間と距離の概念がしっかりしないとどうしようもないか。くそ、また同語反復だ。
脈拍のように周期的に起きていることは、また起きると予測できるしこれまでも起きてきたと思える、というのが帰納といわれる人間の考え方で、それはあたりまえとみなされる。まあその「また起きる」のが未来、「これまで起きてきた」のが過去となる。今こうして脈が触れたが、次の脈が今こうして触れたときには「今の脈」は「過去の脈」になっており、さっきの脈が触れたときは「未来の脈」だったのが「今の脈」になった。それを線の上に規則的に印を付けてグラフ化できるし、番号をつけることができる。……線の上に、順番に印が並ぶことになる。その線の上に指を滑らせ、その指の速さを調整すれば、しるしのうえに指が来るのと同時に脈が触れるようにできる。だからそれとこれとは対応関係にあると、人間は感じる。少なくとも私は。対応関係という言葉自体、人間だけかもしれない、他者には説明できないが。
その時間を直線的として記述しているのは、等速直線運動を時間・運動距離の二成分に分解してだ。それ自体実は「科学的な」感覚で、本当は違うし昔の人の感じ方は違ったと思う。人間の主観では時間の感覚は色々違うし。でも私たちの……科学の入った日常では脈拍のような、また振り子や水晶の振動など規則的なものを基準にして、皆が共通のまっすぐ進む時間で生きているように暮らしている。
それだけで言えば、時間はどちらの方向にも区別がないように思えるが、時間には前後の区別がある。
時間の非対称性として、熱力学第二法則も重要なのだがそれは後で説明する。
**因果律
また重要な、人間にとっての大きな前提が因果律だ。
「もの」が「変化」するとき、一つの変化が別の変化を引き起こすことがよくある。
だからあらゆる物事は前にある原因の結果であり逆にはならない。また今何かしたことが過去の物事に影響を与えることはない、という観察結果が圧倒的に多いし、そんな前提で人は物を考えている。順番とも密接に関わるか。
そして時間を戻すこと、過去に行ってすでに起こってしまった事態に手を加えることは、少なくとも今の人間にはできないし、未来に対しても簡単に飛び出すことはできない。
人間の記憶、記録なども時間が一方的に順を追って連続的に進んでいるという形になっている。
*空、天体
地面から空……上を見上げると、ある一定の……約24時間と決められた時間を周期に……というか大体同じ時間なので、それを人間が24に分けただけでその数自体は10でも23でも本来何でもいいんだが……交互に明るくなったり暗くなったりする。明るいというのは色々なものがよく見える、暗いというのはあまりよく見えない状態だ。明るさは光と関係があり、明るい中でも光を通さない中空のなにかにはいると暗くなるし、そんな状態でも光源があれば明るくなる。光そのものが目に入ると、それは強すぎる明るさで目が痛むこともある。暗いところに光が当たり、明るい部分だけが形をなすこともある。
で、上を見ると、明るい時にはほとんど青地に、白や灰色の不規則なような規則的なような、占める面積も形もいろいろ変わる模様が見えるし、暗い時は白いのと同じものが暗く覆っているか、それがないところは無数の光る点が見える。その模様を雲と言い、見た感じが地上での、植物が作るような綿毛に似ている。
明るい時……昼に、白いもの……雲がなければ、どこかにとても強く光る白黄色の円盤が見え、それを太陽と呼ぶ。どうやら雲より遠くにあるらしく、雲に隠れて見えなくなる時がある。それでも空自体がかなり明るく、その光源がないだけではそれほど暗くはならない。でも空全体が雲に覆われるとどこもかなり暗くなる。
その地面から浮かぶ方向・地面の下に消えていく方向もある程度決まっている。地球の半分では一番高くなる方向を南、じっとしていればいつも陰になる方向を北、太陽が浮かぶ方向を東、太陽が沈む方向を西と呼ぶ。地球の別の場所では北側で太陽が一番高くなるがね。
ちなみに夜見える光の点の中に、かなり大きく模様のある円盤に見えかなり明るいものもあり、月と呼ばれている。ただしそれはやや長く複雑な規則に従ってあったりなかったりするし、昼間でも薄くなるけど見えることもあるし、また毎日少しずつ形を変える。
普通の目で人間が、ほぼ共通で上に見えるものは大体こんな感じだ。
ではなぜ、人間の目には見えない宇宙全体を知っているか?
ほとんどの夜見える光る点……星は、まず24時間周期で、移動しないで見ていればだいたい同じ地平線から出てきてぐるっとまわって地平線の別の地点から地面の下に隠れていく。また少しずつ出方を変える……毎晩規則的にずれ、長い時間経つと夜に見られなくなることがあり、また長い時間してから見上げると出てきたりする。ほとんどの星相互の位置関係は非常に長いこと見ていなければ変わらない。
また太陽が見えないときは地面の下を通っていること、星も地面の下を通っていたり太陽の光が強すぎて見えなくなったりするけれどいつも存在していることもわかっている。
まあそうやって天が少しずつずれて、別の周期……約365日、私たちが住む世界の多くではその周期で、太陽が一日で一番高いところに見える時にほかと比べ高くなる時期は暑く、それから低くなるにつれて寒くなり、まあいろいろあってずれはあるが一番低いときに一番寒くなり、それからまた高くなると暖かくなる、そういうのを季節という……によって、一度には見えない天全体が一年かけて見えることになる。それで、たとえば暖かくなりだした頃日暮れに空を見上げると真上に三角形の頂点をなすように星が光ってる、とかになる。
考えてみると暑くなったり寒くなったりする周期と、星が少しずつずれる周期が一致しているというのもとんでもない話だ。
それで、人間が使うことができる地球に固有な、長いのから年・月・日の三つの周期、時間の単位があることがわかると思う。日と年の比はほぼ不変で単純だが、月と年はややこしい関係だ。
時間の単位、周期という考え方自体、そんな周期がある星で進化した脳に作られたのかもしれないな。もし周期なんてものがない星だったり、連星の惑星でしかもたくさん月があるとか複雑すぎたりしたらどうなっていたやら。
たまに太陽が月に隠れて暗くなったときに星が見える……日食……から、昼も星は存在しないのではなく太陽が明るすぎて見えないだけだとわかる。
ただし、いくつかの光点……惑星は、その法則に従わない。大抵の星は、星どうしの位置を数十年かそこらの観察では変えないが、惑星はその中を不規則に動き回るように見える。でもそれは不規則に見えるが、とても長い時間観察記録すると規則性がわかる。
その規則性をかなりうまく説明できた仮説がまずプトレマイオスの天動説。光る色々な物がくっついた天が動いているというモデルで、周天円という複雑な調整によってかなりの精度で惑星の動きを説明した。そしてより高い観測精度が実現されて天動説では合わなくなり、その新しい観測結果を説明できたのが地動説……私たちが住んでいるのは平面に見えるが、それはとても大きい球の上で、その球は太陽の周りを楕円を描いて回っている、また惑星も太陽の周りを回っている、月は地球の周りを回っている……というモデルだ。地動説でも説明しきれなかったずれは相対性理論で完全に説明されている。
それからより遠くまで見える物を加工した目、普通は見えない光などを見る目などを工夫してきた。それで太陽や惑星はかなり遠くにあり、普通の星はとんでもなく遠くにあり、そして肉眼では星だと思っていたぼんやりが普通の星より更にとんでもなく遠くにあることもわかってきた。
さて、見たものと今のところ矛盾が見つかっていない仮説……科学的に正しいことを、宇宙から紹介していこう。
*次元、物理学
まず宇宙自体の、より大きな性質。
さっき言った前後左右、そして宇宙においては前後左右と区別がつかない上下の三次元の実数座標空間に対応する広がりが「空間」と言われている。それと一方的な時間の四次元時空がこの宇宙だ。ただし、時間が一方的なのは物質にとってであって、相対性理論では空間と同様の単なる実数座標として扱われ、四次元の実数が作るモデルで表現され、観測者ごとに違う。
そこにいろいろな「もの」がある。「もの」でない光や、そのほか人間には認識できない力を伝えるものもある。そして純粋な情報が「もの」や「光の類」に乗って存在している。
その「もの」は時空内のある部分を「占めて」いる。その「占める」というのがとんでもない話だ。
宇宙には速度制限があって最高速度は光速。また時間空間共にプランクスケールより短いのは意味がないという制限がある。今言った実数座標と矛盾しているが、私たちはその矛盾をいまだに解決していない。
その宇宙を支配している法則は小さいと量子力学、中ぐらいだとニュートン力学、大きかったり光速に近かったりすると相対性理論となる。
スケールを簡単に言うと、単位系とか具体的な数字は別に調べてくれればいいが、いちばん小さくそれより小さい世界について人間が何も知らないのがプランクスケールと呼ばれる大きさ。そして原子核のサイズ、原子、分子(このへんで量子力学の効果がなくなる)、微生物と人間が呼ぶ人間よりずっと小さい生物、人間自身など大型動物、それから惑星、太陽系(このへんから相対性理論が出てくる)、銀河、銀河団、宇宙全体かな。それぞれかなり大きな比がある。
それぞれニュートン力学はゴールドスタイン、量子力学はディラック、相対性理論はパウリの本が最も定評がある。まあそうでなくてももっと初学者向きの本はたくさんあるが、独習用ブックリストは後でまた。
ちなみに相対性理論、量子力学それぞれの特殊な場合として……相対性理論で光速を無限大とする、量子力学でプランク定数をゼロとする……ニュートン力学は導かれるが、相対性理論と量子力学の統一はいまだにできていない。私たちの物理学の理解は不完全なんだ。
いちばんのさわりを言葉で説明すると、ニュートン力学はどこでも共通に流れる絶対的な時間と直線直交実数座標、ユークリッド空間をデカルト座標で描写した中で、モデル化するために質点……質量が一点に集中した点に物質を簡略化して描く。実際、ものを平行移動させたければ、幾何学的に出る重心に向けて力を加えるべきだ。主に質量を持つ物体どうしに働く重力について記述する理論でもある。大きさのある物体を記述するには剛体、変形しない物体としてその回転を含めて描く。
その法則はきわめて単純で、1、慣性……静止状態も含む等速直線運動は何もしなければそのまま持続する。2、加速度……速度を時間で微分した方向を持つ量は、力という同じく方向を持つ量に比例し、質量というあらゆる物質が持つ方向を持たない正実数量に反比例する。3、力は、常に二つの物体が互いに反対方向の力を与えることで働く。
それと、逆二乗……二つの物体の重力は、質量・距離の二乗の逆数・ある定数の積で表現できる。距離の二乗ということは、三次元空間で一定の密度で全方向に均等に放たれる直線が、いろいろな距離で同じ面積を通る数と言っていい。電磁気も逆二乗の力だから似ている。それはこの世界が、知られている限りでは三次元だ、ということから自然に導かれると言っていい。
相対性理論は、ある意味非常に単純な考えだ……三つの前提を絶対的なものとするだけだ。1、真空中の光の速さは、どんな速度・加速度で動いている観測者が観測しても光速で変わらない。2、どんな速度・加速度で動いていても物理法則は変わらない。3、加速と重力は区別がつかない。
その前提から、質量とエネルギーが相互に転換できるとか高速で移動している時計は遅れるとか、重力自体が時空の幾何学的な曲率と解釈できるとか、私たちの生活上の常識とは違う結論が色々出てくるし、実験でものすごい精度で検証され続けている。まあそれがわかりにくいのは私たちの生活が、だいたい1cmから1km、速度にして時速40kmぐらいまでしか関係なく、光速とかとご縁がなかったので、脳も目も言葉もそんな用途のために発達してないからだ。
量子力学は相対性理論とは対照的に、人間から見ればとても小さい物の世界を説明するものだ。小さくなるとより大きい世界とは違って、現象が数として飛び飛び……整数倍が本質に入り、確率が支配するようになる。たとえばさっきのニュートン力学では、最初の速度と位置が分かればそのずっと先まで精密に予測できるが、量子力学では速度と位置を同時に正確に知ることはできず、確率的にしか知ることができない。またあらゆるものが、波と粒子両方の性質を同時に持つ。位置や時間の概念そのものが、特にプランクスケールになると連続的ではなくなる。
まあ細かいことの説明を、1.5m前後の大きさで育った私たちの言葉でやるのは無理だ……純粋数学の言葉でやるしかないし、それは上の教科書で学んでくれ。これまた理論と実験が、これまでずっとものすごい精度で一致している。肝心なのは、ニュートン力学は人間のサイズ前後の話であって、量子力学に従うものすごくたくさんの素粒子……といってもその粒子という考え自体が違う、人間サイズでの認識を無理に類推しているだけで、量子力学の数学での記述とものすごい精度で一致する何か……が集まって相互作用して、ニュートン力学で記述できるようなものになるといったほうが本当なんだと思う。
というか相対性理論と量子力学のどちらがこの世界の本質なのかも、私は知らない。
あと、重要なこの宇宙の法則がエネルギー保存則だ。あらゆるところに何か、正の一次元数で表せるものがあり、それは熱・光・電気・運動など色々な形で出てくるけれど、何がどう変わろうと宇宙全体で増えることも減ることもない。そして相対性理論から、そのエネルギーと質量が同じことで互いに変換できることもわかった。そういう互いに変換できる量はけっこう多い。実は情報とエネルギーも互いに変換できる。
もっと根本的なこの宇宙の法則といっていいか? この宇宙の物理法則を数学的に解明すると、その多くは数学的に高い対称性を持ち、一部の人間はそれを美と感じる。そしてこの宇宙は必要な資材とかを節約しようとする傾向がある。これはかなり漠然としたものだが、けっこう確かだ。
それと物理学にはほかに電磁気・光・流体力学・熱力学などいろいろある。必要になったらそれぞれ解説するか。
*宇宙の大きさ
宇宙自体は非常に広い。少なくとも130億光年は広い。その宇宙全体は、どの方向を見てもほぼ物理法則は等しい。そのことは……少なくとも何十億年も前、地下である現象(天然原子炉)が起きたが、その残留物を調べた結果何十億年も前でも物理法則は検出できる精度で違わなかったことが確認されている。
そしてその宇宙は、太陽とあまり変わらない巨大な光や熱を出す塊がたくさんある。その星々の多くは集まって銀河を作り、その銀河も銀河団を作る。ただし銀河の中でも、星と星との間はものすごく離れている。銀河と銀河の間もとんでもなく離れている。宇宙全体の密度はすごく低い。
また銀河や銀河団が安定するためには見える物質だけでは質量が足りない……それを補う何か、ダークなんとかがあるはずだが、それについては人間はまだよく知らない。見える物質は宇宙全体の十分の一もない、それだけ人間はこの宇宙についてわずかしか知っていないとも言える。
その銀河は、それぞれ離れて動いているように見える。気まぐれな動きではない、確かにどの銀河も気まぐれに動いてはいるが、それ以上にどの二つも互いに離れようとしている。その現象を説明しようとすれば、宇宙全体がどんどん広がっていて……最初は一点の熱い塊だった、という説明が一番きれいで正しいと言われている。
*宇宙の始まり
というわけで、その説明に則って宇宙の始まりから語るとしよう。まあワインバーグ『宇宙創生はじめの3分間』などを読んでもらうほうが早いがな。
本当に最初の最初やそれ以前はわからない。でもそのすぐ、ごくわずかな時間が経ってからならかなり詳しく分かっている。
その最初、その時空はものすごい密度で想像を絶するエネルギーが満ちていた。
そしてわずかな時間で、時空が少し変わって今のようになるために時空そのものから莫大なエネルギーが出て宇宙の大きさが指数関数の勢いでとんでもなく大きくなった……インフレーション理論と言われている。それが、この宇宙が異常なほどどこを見わたしても性質が変わらないことの、今いちばん広く認められている説明だ。
宇宙が広がっていくにつれて、宇宙を形成している四つの力ができた。最初の全部混じっている力からまず重力、そして原子核を結びつける強い力、原子核のある反応にかかわる弱い力、そして電磁気力が分かれた。
そしてそれまでは超高エネルギーの光などしかなかったのが、時空が広くなって薄まるにつれて電子など比較的軽い素粒子と呼ばれる変な物や陽子など重い素粒子ができ、それが集まってまず水素原子やヘリウム原子を作った。それが物質の始まりだ。
*原子、人間の感覚、波、光と電磁気
ああ、私たちに見えて感じられ、私たちの身体も作っている「物質」は原子という目に見えないほど小さな何かでできている。人はそれを粒と呼ぶが、本当は粒とは違い、波の性質も持っている。「ある数学で記述されるもの」を、それがたくさん集まってできた我々がたくさんそれが集まったものが動くときに見られる「粒」や「波」を調べ、数学的に記述したものがあり、たまたまそれに使われる数学が使えたからそのモデルを強引にあてはめようとして混乱しているだけだ。
人間はその大きさや形、動いているかをまず見るし、また同じ大きさと形で動いていなくても「違う」と判断する様々な知覚がある。
根源的な原子自体の種類は百二十種類ほどあり、さらにそのひとつひとつも、今知られている限りでは十数種類のより小さい何かでできていると考えられている。その原子がくっついたり離れたりして、これまた膨大な多様性を持つ分子を生み出す。
というか物質と物体についても……あらゆる「物」には形とかいろいろあるけど、いくつかの性質が明らかに同じで大きさや形が違うだけ、というカテゴリーがあって、それは同じ物質でできた違う物体、となる。逆に形とか大きさとは別の、色とか匂いとかその材料自体の性質を考えるときは物質というわけだ。
そうそう、人間の世界……人間の認識、人間に認識できるスケール、そこで意味がある数の原子の集まり……では「机に石が乗っている」ことがあるんだ。それがどれだけとんでもないことか、それが当たり前である人間には考えることも本質的にできない。
後で言うが、その「原子」というのは極端に小さく、一つ一つの原子も中心のごく小さい原子核を除いてはほとんど空っぽだ。さらにその原子核だって内部構造があり、今注目されている説ではさらにめちゃめちゃに小さいひもの振動パターンに過ぎない。
石も机もそんなものだ。なぜそれが触れ合うところから混じり合わずにそのままなんだ? なぜ気まぐれに消えない? なぜ潰れない? なぜ飛んでいかない? なぜその一つ一つの原子に、常に下に引く力がかかっている? 他にも熱・電磁波をはじめ、どれだけの平衡がある? 考えてみると気が遠くなる。
その物自体の性質も説明しておくべきだな。人間の感覚器の説明はあとになるが、それは物質と接するときにいくつかの情報を得る。まず見た目、大きさや形。音。匂い。口にすれば味、そして死ぬかどうかで毒の有無。感触、硬さと温度。
見た目というのは、眼という器官が受けた光……電磁波のある範囲の波長の、どの波長をどんな振幅で受けたかがわかる、ということだ。しかも、その見ている波長が人間の尺度から見ればかなり短いし、ものすごい短時間で処理を繰り返しているから、見ている物を時空とも非常に高い解像度の映像に分解できる。実は脳でその情報も処理しているんだが、それはあとで。形・大きさ・速度・波長を通じて表面の材質についての情報をかなり得られる。
電磁波は我々の時空にある、電場と磁場という「時空の各点と、大きさと方向がある情報の集まりとの対応関係」の中にできる波だ。といってもこれはニュートン力学を中心にした物理学での説明で、量子力学レベルだと場の概念も変わって「時空の各点」という言葉も無意味になり、光子という量子によって力がやり取りされることになるし、相対論だと空間の幾何学として重力場を解釈する。
あと光はエネルギーや情報を伝えることができ、あらゆる原子どうしのつながりを切断でき、原子の中の電子を違う状態にでき、波長によっては原子核さえ破壊する。
どんな「物」も、その「温度」……持っているエネルギー、原子の振動に応じて、まあそれぞれの原子などの性質にもよるけど光を出して熱などを交換しており、何かがある温度でありつづけるには周囲と同じ温度でなければならない。一時的には違う温度でもいられるが、ずっとそうではいられない。
またその温度は、原子どうしがくっついたり離れたりすることとも関係が深く、温度が上がるだけで別の組み合わせのほうがやりやすくなって、もの自体の性質が変わったりすることもあるし、原子のつながり方は変わらなくても形や大きさ、出す光などを変えたりすることもある。
波そのものも説明すべきだろうか? 言葉だけで簡単に説明しようとすると難しい概念なんだが。波とは、古典的にはある媒質の変化が伝わっていく現象だ。その物質の性質として「ある位置での変化は、そのごく近い周辺にのみ作用する」「どの位置の要素も元に戻ろうとする」となっている場合、一点に変化を起こすとその変化した点がその周囲に作用し、作用された周囲の点が変化して、その作用された周囲の点の周囲が……と連鎖的に起きる。
そうか、「伝わる」という言葉自体それがなければ無意味だ……我々の宇宙では、ある点はすぐ隣にしか原則として作用できないという現象が多い。たくさんの点の集まりは、その一点から始まった動きが、細かく見れば一つの点とその隣の点の相互左右しかなくても全体に伝えることができる。それは数学的帰納法や論理の推移率に似ている……いや、そっちのほうが自然のそちらの性質から……そのあたりはあまりに深遠でわからない。といっても量子力学レベルだと、情報は伝えられないものの離れた場所にあるものが繋がってることは普通だ。
さて、それは「もとに戻そうとする力」のせいで単振動かその組み合わせになるから三角関数で表現される式になる。ああ、周期的なことがたくさんあり、どれもこれも三角関数や二階線形微分方程式の式になるというのはこの宇宙だけのことだろうか。それとも我々の一部が異常に線形数学を好むだけなんだろうか、単に解きやすいから。また波はエネルギーや情報を伝えることができる。波には波長と波自体の幅があり、波長が短いほどエネルギーが大きい。波は媒質の質が変わると、方向を変える、または本来届かない所に弱い波が出るなどの性質がある。
そして観測者に向かって動いているものから出る波は波長が詰まり、逆に離れているものは波長が開く。だから、たとえば高速で遠ざかっているものは、こちらから見ると少し冷たい物が出している光に見える。
またいろいろな物質が電荷というプラスマイナスがある量を持っている。電荷を持つ物が電場の中に置かれると、その物は受ける電場と持っている電荷の大きさに比例し、電場の方向に電荷のプラスマイナスをかけた方向の力を受ける。プラスどうし、マイナスどうしだと互いを結ぶ線上逆方向に押し合い、プラスとマイナスだと引き合う。また電荷を持つ物自体が周囲の電場の電場を変えてもいる。ある点の電場は、その電荷がない場合の方向のある量に、その電荷から逆二乗で出している方向のある量を、方向のある量の足し方で足し合わせた方向のある量になる。磁気は持っている物体自体が鉄などまれで、ひとつの物の一方の端がプラス、もう一方の端がマイナスとなる。一方だけの磁荷をもつ磁気単極子は今のところ発見されていない。その電場が変化すると磁場が変化し、磁場が変化すると電場が変化する性質があり、互いに変化を引き起こすことが波になって時空を伝わっていき、それが光を含む電磁波だ。我々の世界における電荷の、知られている限り最も基本的な単位は電子の三分の一だ。
その波には色々な性質があり、まったくの真空だとそのまま通り、あとで言うが我々が暮らしている大気、またよく見る水など透明なものの中もある程度通る。透明に見えて光の一部が吸収されることもよくあり、我々の目はそれを特定の色と判断する。光は様々な物質にぶつかると、それ自体本質的には原子の中の電子と光子の量子力学的な相互作用なんだが、反射したりする。反射は光が方向を変えることと言えるだろうが、その時に特定の波長しか反射しないことがあり、人間の目はその波長を色として認識する。
あと二つの光は通すけど性質が異なる物質がある面で接していて、両方を光が通るときに屈折という現象が起きて少し光の通る角度が変わる。その時には波長ごとに屈折角が違うこともある。ちなみにそこで、変分原理という我々の世界における非常に重要な原理が見られる……屈折角はその光にとっての最短経路で決まったりするんだ。自然はそういう、なんらかの価値観で判断しているような感じがあるんだな。
また光が当たると、物体そのものが変化することもある。物体の原子そのもの、波長によっては原子核、また原子どうしのつながりを変えたりできる。だから光を「見る」ことができているわけだ。
耳も波を感じるものだが、それは大気の圧力の変化が波状に伝わっていくものを感知する。圧力がかかったり消えたりが人間から見たら早く繰り返されるのを感知できる。
匂いは空気にどんな分子……原子の組み合わせが混じっているかを分析する。味も口に入る液体や固体について同様のことをしている。残念ながらその受け取り方は、科学的なそれ、何が何%とかとはかなり違う。だが生きていく分には支障がない。
そして皮膚は触れたもの……空気も含めて圧力、温度などを感じることができる。温度は主観的には皮膚の小さい器官が熱い冷たいという情報を脳に伝えたことだ。温度と加熱とかいう言葉自体、原子レベルでは別の意味を持つ言葉で、ある程度大きい生物になって初めて意味がある。あらゆる物質の原子は動き回ったり震えていたりするが、その動きの激しさが熱で、その熱が体温に比べどれだけ高いか低いかを温度として感じている。またどの物質も、熱に応じた波長の光を出してもいるし、光を受け取って温度を上げたり、または光によって原子どうしのつながりが変わったりもする。
皮膚と、あと筋肉や関節自体……そう、まず力と圧力を感じることができる。二つのものが接して互いに、力という何かを及ぼし合うことがある。それを細かく見ると、接触している部分どうしが互いに、原子レベルでぶつかり合い押し合って圧力を加えている。気体や液体には形を保つことが弱いため、主に圧力……原子どうしが動きまわりぶつかり合い、体積あたりの数を同じぐらいにしようとする作用を働かせ合う。圧力は変化すれば波になって全体に伝わり、特に形があるもので、形を保つ作用のほうが大きければ全体に加速度が加わって移動するし、または形そのものが破壊されることもある。
それである物を持ち上げれば、その大きさを眼と皮膚感覚で理解して密度……単位体積あたりの質量がだいたいわかる。物を曲げたり押したりすれば硬さや弾力など、それを通じて水に濡れているとか色々なことがわかる。
他にも物質には色々な性質があるが、それは人間には感知できない。たとえば電場や磁場そのものを感知することは事実上できないんだ……人間が進化していくときに必要がなかったから。
*原子論と物質の相
あらゆる物体をとことん刻むと百数十の原子というそれ以上壊すのが難しい塊に分かれる。原子がくっついて分子などをつくって、その分子が結晶や線維、液体や気体などいろいろなやり方で結びついてできている。原子論自体は、昔物をとことん分割したらどうなるかと頭のなかだけで考えられたことだ。証拠はまず、とことん分解すると単純な整数比でそれ以上、相当技術が進まない限り何をやっても分解できない素材に分かれる物質がたくさんあること。そして確証がブラウン運動……気体や液体のなかの小さい粒子が、何もしなくても動くことが、動きまわるごく小さい塊に叩かれているとして計算すると説明できること。今はもう原子自体を、特殊な針と電気を利用した顕微鏡で見ることができる。
気体や液体も説明が必要か……我々の生活している温度や圧力の範囲では、物質は固体・液体・気体の三つに分けると人間にはわかりやすい。液体と気体をまとめて流体としてもいい。固体は固く、強い力を加えないと変型しないし、表面も硬くて簡単には互いに混ざらない。液体は自由に変型・流動するが原子どうしが接していてねばっこく、圧力をかけても体積があまり変化しない。気体は風として以外感じられないほど軽く柔らかく、流動するし原子がばらばらで圧力に応じて自由に密度・体積を変えてそれを熱にすることもある。固体液体とも、重力がある場で溶けない、密度……体積当たりの質量が異なる異物があればそれが下に行く。いくつかの、密度が違う流体を混ぜて放置したら密度ごとに層になる。他にも高温高圧を含めると原子自体が電子と原子核に分かれるプラズマ、粉など中間的な性質を持つもの、圧力によって液体や固体が意味をなさなくなる超臨界などいろいろある。固体液体気体に分けるのは人類の環境・サイズ・時間感覚だけかもな。
多くのものは温度と圧力によって、固体→液体→気体と変化……相転移する。ただし固体から気体、気体から固体の相転移もあるし、この法則自体ほぼ圧力が変わらない人類が生活する世界でのことだ。圧力や温度が違うとそう簡単には言えない。固体には絶対ならないのとか圧力によってどれでもない状態になるとかいろいろある。あと均質なまま温度だけ変えても、普通なら変るはずが変わらないこともある。相転移にはきっかけがいる。
固体の多くは結晶という構造がある。決まった形になりやすい性質といえばいいかな。また非常に長い結晶などが、摩擦……固体どうしを一度物理的な位置を接触させて動かそうとすると、特に互いに圧力がかかったまま圧力と垂直に動かすとその動かそうとする力に、圧力に比例した抵抗がかかるんだ……でまとまった繊維という構造もある。あと結晶ではなく、実際には非常に変形しにくい液体といっていいガラス質もある。
一つ一つの原子は、上のブラウン運動もそうだが、かなりの速さで動くか、固体の場合動けないまま振動している。その一つ一つの原子の動きが気体などでは圧力となっているし、その動きの激しさが……熱力学を詳しく言うと色々違うが、直感的に熱と呼ばれる。ちなみにその熱に応じて原子の状態が少し変化し、また元に戻るときに光を放つ。例外もあるが、だいたい動きが激しいと体積が増える。
その熱は推移律で温度という客観的な数値にでき、その温度は、単純に言えば原子が止まっている状態がゼロでそれ以下にはならない。ただし原子が止まるというのは不確定原理と矛盾している……熱や温度自体が本来量子力学で理解されなければならないものだ。
その温度と圧力は原子同士がくっついたり離れたりするのにも関わる。
さて、その原子自体にも内部構造があり、とてつもなく小さく重い原子核が原子の中心にあり、その周囲を……わかりやすい像としては電子が回っていると言われるが、量子力学的な理解では全然違い、物質波が確率的にいくつかの軌道を占めている。それがどんなものかは数学的に描写するのがいちばん早いから、あとでブックリストを出す本で学んでくれ。人間が言葉でいくら直感的に描写してもほとんど無意味だ、人間の言葉自体それを描写するためのものじゃない。
原子核は陽子という電子とは逆の電荷を持つ、非常に重い粒子と、陽子と同じくらいの重さで電気的に中性の中性子からなる。電子と陽子は電気的に打ち消しあうこと、そして原子核は陽子と中性子が「強い力」で結びついており、同じ陽子の数……原子番号……なら中性子の数は大抵陽子と同じだけど違うこともある、などは知っておいていいか。原子一つ一つには原子番号・中性子数があり、あと電子の数や励起状態……原子内の電子がエネルギーを得て少し軌道を変えること……もあるか。
大体は原子番号が大きいほど、それでできたものの密度が高くなる。いくつか例外もあるけど。また原子番号や中性子数の違いで、原子核が核分裂や核融合しやすかったりしにくかったりする。だから原子全体を放射性かどうかで分類することもあるな。大体原子番号が大きかったり、中性子が陽子に比べ過不足があったりすると分裂しやすくなる。
ああ、これはけっこう重要な前提だな、「同じ名前の原子や素粒子どうしは違わない」。二つの二酸化炭素分子を区別する方法は、原理的にはない。いくらでも取り替えられる。ただし原子にも中性子の数が違う同位体があるから、それも含めてだが。
あと原子自体について、原子を分ける方法は単純な重さの原子量と原子番号があり、あと大きく分けて金属・希ガス・それ以外の三種類がある。希ガスは原子どうしがくっついて分子を作ることが原則としてない。金属は我々が暮らしている温度では水銀以外は固い塊になり、化学結合から解放して単体にすると光を通さず反射し、原子から離れた電子が多いので電気や熱が伝わりやすく、うまく強い力を加えると壊れずに変型する。
より重要な特徴が周期律。原子番号順に並べると、ある数ごと……簡単に言えば最初は2、次二回ほど8.それ以降は18ごと……に性質がとても似た元素になる。それを説明したのが上述の電子軌道理論だ。
金属も周期律に従って色々分類され、特徴がある。
原子と原子がくっつくやりかたには、電子がちょうどいい数より一つか二つ足りなかったり多すぎたりする原子どうしが、電子を放出したり吸い寄せたりして電子の構造は安定するけど電気が偏る状態になって、それがくっつきあうものが一つ。また二つの原子が、ある意味一つの原子のように、確率的に分布する電子を共有するのが一つ。また金属に見られる、いくつもたくさん集まって動き回る電子を共有している状態が一つ。
普通に結びついている分子どうしが電気的にくっつき合うこともある。
*素粒子
ついでに素粒子についても少しやるか……電子・陽子・中性子はもう紹介したか。量子力学では光は粒子でもあるので、その光子も素粒子の一つで電磁気力そのものでもある。それだけでよさそうだが、他にもけっこういろいろある……誰が注文したんだとか植物分類学になるとか言うぐらいに。
原子核の大きさで働く、陽子と中性子をくっつけて原子核にする強い力・中性子が電子と陽子などになるベータ崩壊という反応に関する弱い力も力だから粒子として扱うことができる。もちろん重力も粒子になるはずだが、それはまだ検出されていない。またベータ崩壊では、ほとんどの物体をすり抜けるので見えにくいニュートリノという粒子が出る。
それだけでなく、電子・陽子・ニュートリノそれぞれには性質が同じで電荷が違い、互いにぶつかると光になって消え失せる反粒子がある。
さらに電子・ニュートリノそれぞれ……兄貴分、といっても人間にしか通用しない言葉か、似た性質でより重い、見つかりにくいのが二つづつある。
電子やニュートリノや光子、その同族には内部構造は今のところ見つかっていないが、陽子や中性子には内部構造がある。三つのより小さい、クオークと言われる素粒子がくっついている。クオークは単独では見られない。今のところクオークは六種類見つかっている。
いろいろな粒子を区別する「性質」には質量・電荷・寿命・スピンなどいろいろある。それぞれの本当に本質的な意味は知らないけど。寿命は状況によって結構違い、原子核の中では何億年も平気な中性子が、外に出ると短時間で壊れたりする。
あと量子力学の世界では、素粒子が動き回っている真空そのものが何もない空間ではなく、常に色々な粒子と反粒子の対が出てきては消えていく動きに満ちた世界だということも忘れないで欲しい。
力そのものは重力・電磁気力・核の弱い力・強い力が今のところ見つかっている。
*元素の成り立ち
かなり飛ばしたな、その宇宙が冷える過程で本来なら電子と陽電子、陽子と反陽子……は同じ量できて互いに打ち消し合って物質は何も残らないと考えるのが楽なんだが、なぜか私が生まれた宇宙は、鏡像や反物質がからんだ対称性がわずかに破れて「物質」が結構あり、「反物質」はほとんどない。
さて、そうしてきわめて広い時空に弱まった電磁波が充満し、そして水素原子、ヘリウム原子が飛びまわり、そして水素どうしがいくつかはくっついて分子になる……そんな状態になった。
その虚空を飛びまわる原子どうしが、自然に重力によって集まって固まり、積もってどんどん密度を増していった。その密度が限度を超えると核融合を起こし、ものすごいエネルギーを出すと同時にヘリウム以上の……酸素や炭素など重要な元素も大量に作りはじめた。第一世代の星々だ。その出しているエネルギーで、重力による圧力に対抗して形を保っていた。
核融合というのは原子が強くぶつかり合うと起きる現象で、原子核どうしがくっついて一つのより重い原子核となり、その際に大量のエネルギーを発する現象だ。
対照的に核分裂とは原子核が放っておくと分裂し、かなりのエネルギーを出しながら二つ以上の原子などに分かれる現象だ。これは純粋に統計確率の世界で、崩壊のしやすさも陽子と中性子の数によって極端に違う。
さて、その第一世代の星々は今ある星々に比べ巨大なのが多く寿命も短かった。星が大きいと核融合も急で激しく、すぐに核融合が鉄に行き着いて自分の重さを支えきれずに崩壊してしまう。鉄は核融合をしてもエネルギーを出さないんだ。
その崩壊でこれまたものすごいエネルギーが出て、原子番号……原子核の陽子の数が鉄以下の元素がたくさん、光といっしょに凄い速度であちこちに飛び去り、同時に鉄より原子番号が大きい元素もそのときのとんでもない温度や圧力で無理矢理作られてばらまかれた。
それからまた長い時間が経って、その第一世代の星々の残骸が集まった。重力でガスが集まると、元素の種類によっては冷え固まって固体になる。だがそのほとんどは一つにまとまり、第一世代の星と同じく……ほとんどはやはり水素とヘリウムだ……核融合を始める。
もちろん核融合を起こせるほどたくさん集まらないのもある。恒星の周りを安定した軌道で……この宇宙の物理学が実数の三次元空間一次元時間で、重力が距離の二乗に反比例するという法則だから大質量の周りを安定して回る楕円軌道なんてものがあるんだ、嘘だと思ったら別の次元数で計算してみればいい、うまくいかないんだ……回る小さなガスの固まりや、さっき作られた水素以外の元素が多くて冷え固まった岩や氷の固まりが回る、星系といわれるものもたくさんある。
まあ恒星が二つや三つ、互いに引き合って回る星系のほうが多いとも言われているが……そのあたりは難しい問題が多い。三つ以上の星が互いに引き合いながら回るのを計算するのも難しいし、また今私たちが住んでいる太陽系の外の星にどんな惑星があるか観測するのも遠すぎて、今急速に進歩しているけどやはり難しい。
そんな形で無数の、第二世代かそれ以降の太陽系ができた。その星は一つ一つ色々な性質を持ち、なかには寿命が長いのもあるし重くて明るく短いのもある。色も光の強さもさまざまだし、明るさが変わったりするのもある。
そんな星々がたくさん集まってまとまって回るなどして銀河を作り、その銀河がたくさん集まって銀河団ができている、ということももう話したと思う。
*太陽系
さて、では私たちが生まれた星、地球とそれが属する太陽系を紹介しよう。
第二世代以降の星の一つ、太陽があるのはごく平凡な、中心に特に多くの星が集まった固まりがあり、そこから何本か腕状の星の集まりが回っている銀河の、ある腕のやや端側にある平凡な……主系列星と呼ばれる大きさの星だ。そのあたりは星もあまり集まっていなくて、隣の星までかなり遠い。
そういう星は非常に寿命が長く百億年近くあり、そのうち数十億年は安定している。だからこそ私がここにこうしていてこんなことを説明しているわけだ。というか今まで言ったことの多くについて、少しでも物理法則などが違ったら「私はここにこうして」いない。原子核が安定に存在する、核融合が安定して起きる……いろいろなことについて、色々な力などが今の宇宙での比から千分の一でもずれるとうまくいかない、ということがものすごく多いんだ。まあそれはポール・ディヴィス『幸運な宇宙』参照だな。
その主系列星……太陽は、その莫大な重力で多くの惑星などを軌道につなぎ止め、強い光と熱、荷電粒子流などを出して惑星を温めたりしている。
目立つ大きさの惑星は、特に大きいガスの固まりが二つ……木星・土星と呼ばれる……あり、あとかなり大きい天王星・海王星の二つ。他に木星軌道の内側にやや大きい、岩と呼ばれるかなり高温でも固体であるものの固まりが太陽から順に……かなり小さく気体に取り巻かれてない水星、やや大きく非常に分厚い気体に覆われた金星、岩の固まりの中では大きく薄い大気があり、磁気によって太陽からの荷電粒子から守られ表面に液体の水がたくさんあり、水星並みに大きい衛星を一つだけ持つ地球、そして小さめで薄い大気と小さい衛星が二つある火星がある。他にも火星と木星の軌道の間にたくさんの小惑星帯、また巨大ガス惑星の外に海王星という惑星が目立ち、その外にもたくさんの比較的小さい惑星がある。まあ遠すぎて私たち人間にはろくに見えていないが。大きい惑星を回る衛星もたくさんある。
ああ、回るということ自体説明がいるか……たとえば太陽から見た地球、地球からみた月などはほぼ互いの距離を変えず、円に近い軌道を描いている。それは前述のニュートン力学から導かれる動きで、互いに強い重力で引かれあっており、一方が……地球に比べて月が……すごく軽いとして、月を地球にぶつからないようにある程度の速さでその近くを通すような速度を与え、そのまま放っておく。するとそのまま離れていくか、最後にぶつかるか、またはずっと地球の周りを月が回り続けるかのどれかになる。重力によって等速直線運動から曲げられると、その曲げられたくない力が働いて、その力と重力がちょうど釣り合うわけだ。
本当はそれは二体問題、さらにいえば他の天体も含めた多体問題だ……二体だと、その二体の共通の重心の周りを両方が回ることになる。また、その回る軌道は楕円でよく、円軌道は楕円軌道の特殊な場合と考えた方が本当だ。
その地球に私は生まれた。
*地球の誕生
地球のできかたや、私を含む生物ができるまでをざっと語ろうか。
地球は太陽系ができたとき、余りが集まってぶつかり合って固まって、太陽との重力と自らの速度である軌道を回り続けている塊の一つだ。
大きさとかの具体的な数値も必要か? それは『理科年表』に載っているし、その一つ一つの数字をどうやって出したかも調べることはできる。
さて、最初地球は大きくはなかった。たくさんの色々な物がぶつかり合い、だんだん大きくなっていった。そのぶつかるときに、運動エネルギーが熱エネルギーに転換されてかなりの熱が出るから、昔の地球は我々から見れば熱かった。石が融けるほどに。
そのなかで、今広く信じられている説として、とんでもなく大きいのが地球にぶつかった結果、地球の中のほうまでえぐり飛ばされて月ができた、というのがある。
地球は石だけではなく、大量の水や二酸化炭素その他のガス成分も含まれていた。地球が少し冷え固まるにつれて、その水は気体の大気となって地球をとりまき、冷えるに従って液体の水となり、熱い大地とぶつかって蒸発……気体の水になること……し、それが気が遠くなるほど繰り返されるうちに地球の表面が冷え、大量の水が表面にまとわりつく状態になった。全部を覆うには至らず、大気に露出した岩の塊……大陸や島もある。
二酸化炭素の多くは水に溶け、同じく水に溶けている他の元素と反応して石になった。
どの物体も、周りに比べて温度が高いと、くっついていればミクロに言えば原子が振動を伝え合う……熱伝導、間が真空なら温度に応じた電磁波を出して周りと同じ温度になろうとする。宇宙全体に今非常に低い温度の背景放射があるので、宇宙に放置された物体は理論的にはその温度まで冷える。だが太陽系にある物体は太陽からの光などを受けてかなり温められる。地球は太陽が放つ光による熱、地球内部の核分裂の熱などがあるので冷え切らない。
*地球
その融けた大量の色々な物が、重力によって密度の違いごとに分離していった……現在の地球を少し描写する。
地震などを利用して地球の深くを探った結果、いちばん深いところに鉄でできた核、それを覆う高温高圧のため流動性があるマントル、そして表面のごく薄い固体の岩が地殻となっていることがわかっている。
地球の表面の半分以上は膨大な液体の水という物質で覆われており、それを海という。水が液体なのは地球の太陽からの距離、熱を調整するガスの濃度、地球深部の核分裂による熱などのバランスが絶妙だからだ。今はもう、その温度調整の相当部分はガスの濃度がやってくれているが、そんなことができるのも地球の公転軌道が真円に近く自転軸も極端に傾いてはいないからだな。
その水はきわめて多く、地上の最も高い岩の塊の高さより最も深い海の深さがずっと大きいほどだ。その水がたまったとき地球表面の溶けやすい成分を溶かし込んだため、その海の水は塩……塩化ナトリウムなどを大量に含んでいる。
水に物が溶けるということも説明しなければならないか? 水そのものも? まったくこう相鎚も質問もなにもないと、そっちがどこまで理解しているのかわからない……どれだけ掘り下げなければいけないのかもわからない。そうなると、こっちがいかに何も知らないかばかり思い知らされる。
さて、水に覆われておらず岩石が露出している部分もあり、それは陸と言われる。その陸の表面もいろいろとある。岩石が細かくなった砂やいろいろな生物と細かい砂が集まった土など。私たちは土の上に、地球の重力で押しつけられながら暮らしている。また陸や海の表面でも、冷えて固体になった水……氷で覆われている部分もある。
地球全体を覆っているのが単純な分子でできた気体の層、現在は窒素分子と酸素分子がほとんどで微量の水蒸気や二酸化炭素、その他が含まれる大気だ。
上に行くと行くほど、ちょうど羽布団をたくさん重ねると下ほど圧縮されてつまり、上ほどふわっとしたままになるように大気が薄くなる。
そのさらに外側は、太陽からの荷電粒子などと地球の磁気がぶつかって非常に複雑な領域を作っている。その働きは目には見えないが、地球の生物のためにも重要だし、両極の近くではオーロラという美しい光にもなる。
*主要元素
くそ、ちょっと主要元素・分子についていくつか解説する必要がありそうだ。本当は130まで全部やるべきなのだろうが、それだけでとんでもない量になる。それぞれの、密度とか融点とかその他細かい情報は『理科年表』などを見てくれ。原子番号もだ。
最初に原子番号1の水素。最も軽く、普通は陽子一つの原子核と電子一つからなる。原子価は……これも説明するか、要するに電子が座れる椅子がいちばん内側は二つ、中から二つめには八つ……とあると理解していてくれ。水素は電子が一つだから二つ椅子があるうちの一つが埋まり、一つ開いている。その開いた椅子や少し余っているのが、原子どうしがくっついて分子になるのに関わる……人間が手をつなぐ手にたとえられるのが多い。同じ原子番号で、状況によって原子価が変わる原子もある。
というわけで水素は分子を作りやすい元素だ。
さっき説明した宇宙の成り立ちでも重要で宇宙の物質のほとんどであり、恒星の主燃料でもある。また化学……原子どうしがくっついたり離れたりするのの中核になる、酸と塩基の反応でも重要だ。
次、原子番号2のヘリウム。二つの椅子が両方ふさがっている。そういうのを希ガスといい、まず原子どうしがくっついて分子になることがない。宇宙全体ではけっこうたくさんあり、恒星の核融合燃料としても重要だけど、地上ではほとんど話に関わらない。
少し飛ばして炭素。炭素の原子価は四、それで水素や酸素、酸素と水素が組んだものなどいろいろなものとくっついて、地球における生命活動の中心になっている。その化合物の多様性は目を見張るばかりだ。
次の窒素は地球の大気の主成分。窒素どうしが二つくっついた窒素分子は、私たちが暮らしている環境……常温常圧と言われる、水が液体である温度と圧力ではほとんど化学反応がない。でも窒素と酸素と炭素がうまくくっついたタンパク質は生物そのものだ。また窒素が作る硝酸という酸は重要な酸だ。窒素一つに水素が三つくっついたアンモニアという分子も重要だ。
その次の酸素。酸素どうし二つくっついた酸素分子は大気の主成分であり、珪素などとくっついたものは地球の岩石の主成分でもある。そして水・水酸基どちらも生物にとって何より重要だし、多くの生物に関する分子の成分でもある。より重要な性質が、酸素原子は希ガス以外ほぼあらゆるものと反応したがること。そのせいで多くの金属元素は、地球の表面では酸素と結合したものとしてしか得られないぐらいだ。そのくっつきやすさを利用する生物もあるし、また生物にとって毒でもある。また酸素が三つくっついたオゾンが大気の上の方で、太陽からの光で生物にとって有害なのを取り除いてくれる。これについてもまたあとで。
少し飛ばして、実は周期表では一周して頭に出たところにあるナトリウム。その同族はものすごく反応しやすい。むしろ海水から水を除いたものの主成分である塩化ナトリウム、食塩として重要だな。もちろん生物にとっても必須で非常に重要だ。カリウムも似た性質を持ち、生物にとっても非常に重要な元素だ。
マグネシウムも酸化しやすく、海水にもたくさん溶けているし、地球の岩の成分としても重要で生物にとっての必須元素でもある。その周期表で下になるカルシウムも同様に海水にたくさん溶けている。生物にとっては炭酸などとうまくくっつくことで、扱いやすく固い素材になる。それは地球の大気の成分をコントロールし、また膨大な鉱物を生みだしてもいる。
アルミニウムはとても酸化しやすい。生物にとっては毒でしかないが、多くの岩に含まれているから地球そのものにとって重要だ。あと今の我々の文明では重要な素材でもある。
珪素は炭素と、さっき説明した周期律のすぐ下で性質が似るが、炭素ほど多様な化合物は作らない。生命にとって重要な原子どうしがくっついたりすることにはあまり関係せず、それなしで生活している生物も多いが、水で生活する小さい生物や後述する穀物には珪素を必要とするものも多い。地球そのものの素材として特に重要で、さっきの酸素と珪素がくっついたものが地球の、上の方の固い部分の主成分と言っていい。あと電気を半分通す独特の性質があり、最近の人類の工業にとっても非常に重要だ。
燐も生物にとっては必須で、それがあるかないかが地球の多くの場で生物が多いか少ないかを決めている。硫黄も同様。また硫黄の酸……硫酸は環境にもかなり重要だし、生物にとっても工業にとっても重要だ。金星や太古の地球の大気は硫酸が重要な成分だったりする。また生命の発祥にも深く関わっている。
塩素はナトリウムと並び食塩のかたわれだ。単独だと多くの原子の組み合わせを切り離す毒だが、生物の中では色々な働きをしている。
金属の代表として鉄をあげておく。地殻にも割とたくさんある元素だし、地球の核の主成分だ。また核融合と核分裂の境界になるから、宇宙の成り立ちでも重要だな。また生物にとっても非常に重要。まあそれは措いて、ほとんどは酸素などと化合しているけどそれからうまく引き離し、適度に炭素などを混ぜたりすると非常に固く……変型したり壊れたりするのには大きい力がいるし、大抵の物体にぶつかっても傷つかない物になる。しかもかなり曲げても壊れず元に戻る……弾力性もあり、うまく力を加えれば壊さずに変型したままにもできる。とことん加熱して……原子の振動を激しくしたら液体になるので重力などを利用して型に流して好きな形を作ってまた冷やして固めることもできる。人間の歴史の中では銅・錫・金・銀・鉛・水銀・プラチナ・アルミニウム・タングステンなども重要な金属だな。その性質などはその時説明するよ。
*主要分子
分子となるともうきりがないけれど、中でも特に重要なのが水と二酸化炭素と食塩と炭酸カルシウムか。ああもう本当にきりがない。主要造岩鉱物だっていくつあるんだ……人間にとって重要じゃなく宇宙でどれだけあるかを優先すべきか……
人間の側から見るとグルコース、デンプン、セルロース、リグニン、キチン、エタノール、アンモニア、脂肪酸、それに硫酸・硝酸・塩酸・水酸化ナトリウムに炭酸カルシウム……どれだけ重要なものがあるかわからんな。といってもそれぞれ、ちゃんと分子式・構造図で表現しなきゃ意味はないだろ? 名前なんてそんなに重要じゃない、ちゃんと名前を聞いたら構造図が描けるんでなくちゃ。せめて最低限どんな物質なのかいえないなら。第一、塩・酸・アルカリ・糖・脂肪・アルコール・アミノ酸などという言葉が、本当にどういう意味なのかは簡単には説明できないし、歴史によって混乱した言葉だ……たとえば糖や酸はまず味覚から出てきて、それが学問の発達につれてどんどん意味が変わっていった言葉だ。ちゃんと化学・生理学という学問全体を勉強しなくちゃここで言葉だけ出しても意味がない。
とにかく原子同士がくっつくことが多く、それで別の性質を持つものができる。それが実に高い多様性を持っている。
くっつきかたもいくつかあり、電子を共有する、一番外の殻にもう一個電子があるとしっくりいく原子と一個だけ余っている原子が引き合ったりなどがある。分子同士が電気的に引き合う力も重要だ。
その分子があるのも、私たち人間が暮らす地表という環境が、地球の重力でたくさんの原子が集められて押し固められているからで、それがない宇宙空間だと単独の原子や、原子核と電子がバラバラになってさまよっていることもよくある。もっと強く押し固められるとまた別のものになるけど。ちょうどいい押し固められかただと、電気的につりあって安定した分子を作ろうとする傾向がある。
水、酸素一つの両脇に水素二つがくっついたものは、我々にとっては何よりも重要な物質だ。だがそれは我々にとってであって、水と炭素に依存しない生物だって宇宙のどこかにあるかもしれない。でも水が非常に面白い物質であることは変わらないだろう。形自体が変だ、一直線じゃなく必ず一定の角度で曲がっていて、電気的に非対称だ。
水の固体は多くの小さい太陽系の天体の主成分だ。また地球上でも、地表のかなりの面積を覆っているし、地表の地形を大きく変えてきている。
水の液体が特に重要だ。その中では水素と、酸素一つと水素一つの水酸基に分かれたり戻ったりしている。その「分かれたり戻ったりがつりあう」のも我々の世界では重要なことだ。とにかく水は二酸化炭素や酸素、様々な金属塩などあらゆる物体を溶かす。さっき説明しかけた溶かすという現象だが、我々がよく知っていることだが、水にいくつかの固い物体を入れると入れた物が形を失い、消えたように見える。そして水に色や味や匂いがつくんだ。ちなみに重さの合計は変わらない……ほとんど何をしても重さは変わらないし、重さとエネルギーの合計は絶対変わらない、というのも重要な物理法則だな。その溶けるというのは水が電磁気的に分子の形のせいで、全体としては中性だけど、一つ一つが磁石みたいにプラスとマイナスがくっついているような働きになり、それが物に働きかけるんだ。
困ったことに、物理法則自体は同じでもスケールごとにある意味物理法則が違うように思えるんだよな……そして違うスケールの世界は、言葉で説明するのがほとんど無理だ。この説明を聞いている誰かさんが、同じ宇宙の存在でも体長2ナノメートル・2ミクロン・2ミリメートル・2キロメートル・2000キロメートルだったらそれぞれどれだけ世界の見方が違うやら……その分子のレベルの大きさだと、分子間でも電磁気力がかなり直接働くことになる。
そして水は比熱が高い……少し温度を変えるにも多くの熱が必要になる。凍ったり蒸発したりするときにも多くの熱を出し入れする。純粋な水は電気をほとんど通さないが、何かを溶かすと通すようになるし、あらゆる物の水溶液にはそれぞれ色々な働きがある。酸やアルカリといわれる性質を持つものが水に溶けると水から水素や水酸基を奪い、奪われたのが電子を奪いたがったり押しつけたがったりして、結果金属や生物を急速に溶かしたりすることさえある。
何より変なのが、冷たくなって凍った水より、融点より少し高い水の方が密度が高いことだ。そのおかげで地球では生物が暮らすことができると言っていい……もしそうじゃなかったら、凍った水が下にたまって安定し、うまく熱が動かなくなっていたはずだ。また水は凍るときに体積が少し増える。その時にはすさまじい力を出し、岩石すら簡単に壊す。加熱されて気体になるときにも強い力を出す。
水素と酸素一つずつの水酸基も、化学的に非常に重要なものと言っていい。
水の気体、水蒸気も重要だ。多くのガス惑星でも、地球などの大気でも重要な成分だ。
二酸化炭素、炭素一つに酸素二つがくっついたのも非常に重要だ。金星や火星の大気の主成分だし、後に説明する光合成、炭素循環でも重要な役割を果たす。その固体や液体も多くの天体の重要な成分だ。炭素一つと酸素一つも地球では重要で、特に水中では海の主要な酸として色々な塩を作る。
食塩、塩素とナトリウムは地球の海の水に一番多く溶けているものだ。人間の味の中心で、それがないとどの生物も生きられないが、多すぎると死ぬ。まあ酸素だって多すぎれば死ぬがね。食塩は固体だと立方体の結晶。電子を分けあって電子が原子番号より一つ足りないナトリウムと、一つ多い塩素になる。そうなることによって、どちらも電子の数が希ガス同様ちょうど良くなるわけだ。そういうのをイオンという。また食塩は、典型的な酸とアルカリである塩酸と水酸化ナトリウムの中和でできる「塩」の典型でもある。酸とアルカリがまたややこしい……本質的には物質間の電子のやり取りだ。
炭酸カルシウムも食塩同様「塩」だが、上述のように生物にとって重要な素材だ。
あととことんきりがないのが、炭素と水素を中心にした化合物だな。とにかく種類が多い。まあ我々人類が、液体の水を持つ地球で進化した、炭素と水素を中心にし、酸素で呼吸する生物だからそれがそんなに重要なんだろう。けど、あらゆる元素全体の組み合わせを知られる限り見回しても炭素と水素、それに酸素や窒素などを加えた分子群の多様性はずば抜けていることは確かだ。
あと酸素が二つ、窒素が二つなど同じ原子がくっついて安定しているのも重要かな。酸素分子はほかと反応しやすく、窒素分子はほかと反応しにくい。
そうそう、生物とかの話題になると「原子番号は変わらない」とみなしたほうがいい。生物は原子同士のくっつき方は変えることができるが、原子番号を変えて炭素を水素にしたり鉄をナトリウムにしたりすることはできない。もちろん無から窒素原子を作り出すこともできないし、いらないナトリウム原子は何らかの形で外に出さなければならない。
*古代地球、生命の誕生
さて、昔に戻ろう。海と冷えた大地、だが何もかもが違う。
太陽も今とは全然違う……もっと熱かったし、強い光が多かった。大気の成分も、分子酸素などほとんどなく濃い水蒸気や二酸化炭素、その他硫酸硝酸のガスなど色々だった。海の成分も今とは違った。火山活動も激しかったし、地球にぶつかる宇宙の大小の塊……隕石も多かった。
本来ならそのまま安定し、太陽と一緒にゆっくり冷えてもよかった。
だが、その色々な環境から、どのようにかはわからないがあるものが生まれた。
炭素・水素・酸素などは非常に複雑な分子を多数生み出すことができ、有機物と呼ばれる。
さらに窒素・リンなどが加わると、その複雑さ・多様性はまたはるかにものすごくなり、タンパク質と呼ばれる色々な働きをする一群の分子になる。しかもそのタンパク質は二十かそこらの基礎的な分子があって、それの組み合わせで莫大な多様性を生み出していたりする。
さらにそのタンパク質は互いに結びつき、また切り離す触媒となり、さらに他の金属などと結びつくことでもっと多様になり、いろいろなことができる。
触媒という概念も大切か……これはタンパク質でも、プラチナなどいくつかの金属などでも見られるもので、原子どうしがいろいろ反応するときに、「自分は変化せず周囲のある反応を起きやすくする」ものだ。それがあるとないとでは大違いだ。原子どうしはくっついたり離れたりしやすかったりしにくかったりし、それでエネルギーを出したり奪ったりすることもある。
さてその色々な分子の中から、「自らを複製する」非常に複雑な分子……RNAとDNA、その分子を覆う脂肪の膜、その他一緒に脂肪膜に覆われたりするタンパク質や糖などのセットが生じた。これからしばらく、主にそれら……地球型の生物について語っていこう。
ちなみにそれがどこでどう生まれたのか、私は全く知らない。人類の誰も知らない。
色々混じった昔の水、海の底に地中深くから噴き出す色々混じった水、または地中の鉱物、特に鉄と硫黄が結びついた鉱物の表面から産まれたなど色々な説がある。まためったに起きることではないのか多分一度だけで、地球上で生物といわれるものは全部同じ特徴を持っている。それ以降は起きていないようだし、別の星で起きている形跡もない。
脂肪や糖は炭素と水素の複雑な化合物。それぞれあまりに複雑で種類も多く、文脈によって定義も異なるのでここで簡単に説明するのは難しい……生物全体、有機化学全体を理解しなければどうにもならない。ここで話題にする脂質は炭素・水素・酸素などでできた分子で、地球の生物にとっての常温で液体になることが多く、また要するに非対称の棒状で一方の端は水になじむが反対側は水分子と電磁気的相互作用ではじき合う。また油どうしで集まりやすく、液体だと水に溶けず油と呼ばれるが、その量が水に比べ少なく、うまい力が働くと膜……三次元の中での二次元的な構造を作る。それが球の表面のような閉じた曲面を作ると、内部と外部を分けるものになる。生物という現象に関わっているのは燐を含む脂質だ。
その「内部と外部を分ける」というのが生物の本質の一つかもしれないな。
それにその表面というのが実に面白い、本当に多様でそれでいて美しい法則性のある様々な化学反応などがある、ということがこの宇宙の法則だからなのかもしれないが。
*熱力学第二法則、DNA、進化
さてここで、熱力学第二法則を説明した方がいい。私の故郷宇宙における、物理学の根本法則の一つだ。
数学的に厳密にやることもできるが、簡単に言えば「物質の集まりは無秩序に向かう」だ。本来なら物理法則の数式の上では、時間に前も後も区別できない。でもはっきりと前後が分かる理由の一つに、自然には事実上絶対に起きないことがたくさんある、ということがある。どんな物でも、それより熱い(または冷たい)物をくっつけると、いつかは両方同じ温度になる。逆はとてつもなくわずかな確率でしかない。二つの物が同じ温度である状態は、違う温度である状態より無秩序だからだ。より正確に言えば、その二つの物を構成する全ての原子がとれるあらゆる状態、とんでもない量になるが、数えれば同じような温度である状態のほうが、違う温度である状態より圧倒的に数が多い。
ただし、ここでは言葉がちょっと変だ。熱力学第二法則がすべての理由であるかのように言っているが、実際には「ありとあらゆるものが、熱力学第二法則に従っているように観測される」ということだ。というわけで、あらゆる科学者が熱力学第二法則は自然の絶対的な法則と見なしている。
ちなみに熱力学第ゼロ法則が温度の推移律による一意性、第一法則は要するにエネルギー保存則、第三法則は絶対零度の禁止だ。熱力学というのは、たくさんの原子が集まった物質の、熱などに関するおおまかな動きに関する科学だ。一つ一つの原子は見えなくても、その平均的な速さとか周囲に壁に与える力とかは厳密な法則に従う。ちなみに我々人間は結構大きく、ものすごくたくさんの原子が集まってできているから熱力学で考えるのがやりやすい。
で、「自らを複製する分子」というのは、熱力学第二法則に明らかに逆らっている。非常に複雑な、つまり秩序の高い分子がある……それはいずれ分解され、より単純な、つまり無秩序な分子の集まりになるだけの物のはずだ。だが、その複雑な分子が増えるのだ。そんなことを起こすためには、より強いエネルギー源というか高い秩序を持つものが絶対に必要になる。簡単に言えば、「利用者」が少し秩序を増やす代わりに「エネルギー源」がより大きく無秩序になることで、「エネルギー源」と「利用者」を合わせた全体の無秩序が少し増えれば熱力学第二法則には矛盾していない。
そのエネルギー源かつ自己複製の材料として、まわりのさまざまなものを油膜を通じて取り込み、また自然に複雑な分子を分解しようとする光や酸素など高いエネルギーを持つものから身を守ることもする。
もう少し、その「自らを複製する分子」を説明したほうがいいか。DNAは梯子のような構造で、四種類の複雑な分子が二つつながって一本の横棒を作っている。ちなみに、その四種類の分子のつながり方は決まっている……1は2としかつながらず、3は4としかつながらない。二つに切り離すことができ、その一方を材料の山に放り込めば勝手に1は2、2は1、3は4、4は3を作り出してつながり、横棒をつなげる縦棒も作って、切り離したペアと同じ物を作りだす。
それによって、デジタルに情報を記録するシステムにもなっている。二重に記録し、もしどこかに狂いが生じたら間違った側を切り離して自分自身を修正する能力があるから正確に情報を保ち続けることができる。
三重にして多数決にすればもっと正確だろうが、それがこの宇宙の元素で可能かどうかは知らないし、正確すぎて進化の余地がなくなるかもしれない。知らない。
さらに、その「自らを複製する」分子は、たしかに二重に記録しているから正確ではあるが、ときどき間違いもする。その間違いがあるからこそ多様性が生まれる……同じ分子のコピーではなく、構成成分……DNAであること自体は同じでありながら、とてつもない数の組み合わせの種類の存在を許す。
さまざまなそのDNAとタンパク質と脂肪膜と糖などのセット=細胞がある。DNAの情報は別の形で読まれることでタンパク質分子を作ることもし、そのタンパク質が周囲の様々な物体と反応することで細胞がいろいろと、全体としての複雑なことをする。そいつは表面の膜を通じて、外界の特定の分子などを入れたり違うのを出したりもするし、移動したりすることもある。色々やるが一番めざましいのは、DNAを複製してから周囲の糖や脂肪膜なども複製してしまい、細胞そのものが二つになることだ。もちろんDNAにも無から原子を作る能力はないので、周囲から材料になる原子を内部に取り込んで、原子のつながり方を変えて自分自身と同じ物を二つ作る。
DNAやそれに近い情報を持つ分子とそれをくるむ殻だけでできていて、別の生物の細胞の中身やそのDNAさえ部分的に利用して自己再生する、生物なのかなんなのかよくわからないものもある。
自己増殖だけでなく、内部の温度・特定の元素の濃度などさまざまな状態を保とうとするのもそれらの重要な性質で、それもまた熱力学第二法則違反だから別のところから秩序を余計に消費する必要がある。それで面白いのが、石などが「変わらない」のと違って生物は、一つ一つの原子を追えば常に出入りし、入れ替わっている。でも情報が維持されているので「変わらない」でいられる。結果的には自己修復が不可能な石より、入れ替わり自己複製する生物のほうが情報を長く保たせることができるわけだ。
細胞やその集まりが、崩壊せず自己増殖と外界との物質を出し入れなどを続けている状態を「生きている」といい、生きているものを「生物」と呼ぶ……生という概念自体、説明できない言葉だと思うけど。
で、そのためにはエネルギーや材料を必要としている。だからさまざまな、またはまったく同じ情報を持つ生物どうしでも、限られたエネルギーや材料を争い、またお互いをエネルギーや材料として自らに取り込むために争う……食うことをする! すでに生きているそれはバラバラに切断したり溶かしたり分解したりすると、別の生き物が生きるための材料・高秩序エネルギーになる……これが地球の生物の呪われた基本法則でね。呪いと言ってもわからないかもしれないが、あとで説明する。
資源が有限である限り、指数関数で増大する生物はほとんど瞬時に資源を使い切る。そうなるとどうしても、資源の奪い合いがあらゆる生物の本質といっていいものになってしまうんだ。生物は本質的に多くのコピーを作り、その大半が死んで、少し運が良かったり、何か優れた点があったりしたものが生き残る。ここで誤解して欲しくないのは、優れていれば生き残るとも限らないことだ。優れていても運が悪ければ、その産まれて生きていくべき環境に合っていなければあっさり死ぬ。
その争いにより、とてつもなく膨大な組み合わせの「間違った複製」の中から、よりその場に適応した複製の間違いをもつ多くの自分の複製を残して自己複製を続ける、つまり生きのびるシステム……進化が生じた。それによって、生物は非常に多くの種類の、どんどん複雑な構造や機能を持つものに分化した。
そういうわけで地球の、知る限り地下かなり深いところから大気がかなり薄くなるまでの、まあ地球全体で見れば薄い表面では、無数の多種多様なそれ……生物が移動したりしながら資源を求め、周囲に対応して移動を変えたり、外にあるいろいろな物質から特定のものを中に入れたりそれ以外が入ろうとするのに抗ったり、逆に中で色々原子の組み合わせを変えた分子を出したり、そして自分を複製して増えたりしている。
「進化」って言葉自体が人間の世界では誤解されている。一つの個体が時間が経つに連れて姿を変えていくのは「成長」変化が大きければ「変態」。「進化」は、常に百とか億とか子供ができ、そのほとんどが死ぬ環境で、親兄弟とは違う特徴がある子が生き残り、その特徴をその子の子に伝えて……と長い世代と自然淘汰の末に種自体に起きる変化だ。
あとここで「遺伝子」という概念も説明しておこう。人間の歴史では遺伝子・進化・DNAは別々に発見された。信じられない話だが。遺伝子は後述する親子、また同じ親の子に似た特徴が出ることで、実はそれはバラバラの情報だ。DNAの上の一つの、分子で描かれた文字が自己増殖しても受け継がれるということだ。ただし大抵の特徴は、DNA上の情報がいくつかそろわないと出てこない。
原則として、あらゆる生物の間には食べる・食べられるという関係がある。ある程度以上大型の、陸上の生物になるとはっきり動いて食べる生物である動物、動かず食べられる生物である植物という違いがあるが、むしろ多い生物である単細胞の小さい生物にはそんな違いなど無意味だ。海にはほとんど動かず食べてばかりの動物はいくらでもいるし、陸上にもまったく動かず他の生物を殺したりその死体にくっついたりしてその物質……栄養を吸う生き物もたくさんいる。動物が動く、というのはそれ自体、生物が生活する環境の多くが完全に均一ではない、位置によって物質の分布などがちがうことから生じることであり、完全に均一な世界にいる存在にとっては無意味なことかもしれない。
実際にはあらゆる生物は生きようと、そのすべてを使ってあらゆることをする。そうしない生物はあっというまに絶滅するから、人間の「目的のために何かをする」という考えの類推で生物を理解するのは間違ってはいない。
できることは実にいろいろあるが、一般に大きくなれば食べられにくい。また多数の子孫がいればどれかは運良く生き延びる確率が高い。体内でさまざまな化学物質を合成し、自分はそれでも生きられるようにしておけば、食べた相手は死ぬ……これは特に、知性の高い動物に主に食べられる植物や昆虫にとって有用だ。いや、あらゆる生物は、きわめて小さい生物に食われないように常に自分の中の化学物質を工夫することが必要だ。
何億年もかけて、その進化はとめどなく進んだ。
油膜……細胞膜の中に、別の膜を作ってその中にDNAを入れて保護する生物、真核生物が生じた。また別の生物を呑み込んでから、溶かして食らい尽くす代わりに生かしたまま利用し、共に一つの生物のように機能するのもできた。
最初の頃のそれは、よくわかっていないが地中からどんどん出てくる、秩序の大きい硫黄などの単純な化合物をエネルギー源として利用し、地下や水中の深く温度の高いところで生きていたと思われている。といってもその起源については何もわかっていない。
*酸素呼吸、光合成
その進化で、長い時間の中とんでもない反則をしでかしたやつがいた。
酸素は生物にとって主要な元素ではある。でも酸素原子単独・酸素が二つくっついた分子・三つくっついたオゾンのどれも、生物にとってはきわめて危険なものだ……熱力学第二法則で言えば、非常に秩序のレベルが高く、また他のあらゆる物と反応してそれをより無秩序な状態に引き下ろす能力が強いんだ。
そして太陽の光も、非常に秩序のレベルが高いエネルギーであり、ありとあらゆる物を分解して無秩序に引き下ろすものだ。
恐ろしいことに、その酸素をエネルギーを出すために用いた生物がいた。確かに色々な生物の素材から効率よくエネルギーを引き出してくれるがね。
またさらに恐ろしいことに、日光を使って水や二酸化炭素などを分解し、その水素や炭素の秩序を高めて使いやすい糖などを作ってあらゆる生物材料を作る元にし、余った酸素を吐き出すようになった生物がいた。
特にあちこちで重要なのがATPという水素・窒素・炭素・酸素・燐からなる分子だ。といってもこの分子は酸素以前から活躍してたけど。生物の色々なところで、動いたり細胞膜から過剰になっている元素を出したりするいいエネルギー源になる。呼吸でブドウ糖という一番単純な、炭素と酸素が6水素が12でできた糖と酸素、その他より単純な材料からATPを作る化学変化は生物にとって最も重要なものの一つだが、非常に複雑なので簡単に言葉にはできない。ただし生物はATPを直接大量に貯めるのではなく、ブドウ糖を組み合わせたデンプンや脂肪を貯めるのを好む。ATPは不安定だし、酸素呼吸がいつもできるという前提ならいつでも呼吸と貯めた栄養からATPは作れる。ちなみにブドウ糖は塩化ナトリウムも同様だが水に溶けやすく、そういうものはたくさん水をほしがって細胞を破裂するほど膨らませてしまう。
まあそうやって、限られた噴火口などだけにあるメタンや水素や硫黄化合物だけでなく、もっとどこにでもある日光と二酸化炭素と水だけから生物としてのエネルギーと材料のほとんどを得られるのは便利だ……あと燐や窒素などいくつかの元素が多少あれば自己再生を全部できるのだから。
要するに日光があれば、日光と水と二酸化炭素などを使ってエネルギーと生物材料と酸素を作り出すことができ、また酸素と生物材料を使って効率よく生きることができる、というわけだ。
だが、その日光を用いる過程は酸素という恐ろしい物を環境に、大量にばらまいてしまう。人間の世界で言えば排ガスに猛毒を含む超強力エンジンのようなものだ……
その結果とんでもないことが起きた。それまで生きていた生物のほとんどは死んだはずだ……大災害だ。それまでと同じ、酸素を使わない生物は酸素が届かないほど深い海の底や泥の底などでかろうじて生きのびた。
代わりに、日光を使って酸素を作る生物と、酸素を使って呼吸する生物が地球……生物が生きられるのはほとんど海だが……の主流になった。
そのときに面白いことがある。日光を使って酸素を作るのも、酸素を使って呼吸するのも、単独でやれるのはものすごく小さい生き物だけだ。もっと大きい生き物は、膜……細胞単独であっても、もっと小さい生き物を生きたまま取り込んで一緒に生き、その力を借りている。
私たち大きい生き物もそうだ。大きい細胞がそんなややこしいことができるほど、一度大きくなった細胞は進化できないのか……それとも小さい細胞を取り込んだほうが手軽だからか、それは知らないね。いや、なんでも理由を探ろうとするのがまた人間の悪い癖でね。大きい生物にはけっこう苦手なことがあって、それを小さい生物にやらせている。さっき言った光合成と酸素呼吸は細胞内の共生生物に。また大気中の窒素をとりこんだり捨てられる単純な窒素化合物を再利用したり、植物の形を支えるやたら丈夫な物質を消化したりするのは非常に小さく単純な生物にやってもらっている。自分でやればいいと思うけど、できないらしい。
その、大量の酸素が放出され、二酸化炭素が消費されたことは地球全体にも色々な副作用がある。
まず、それまで海に大量に溶けていた鉄などが、その酸素と化合して沈んだ。生物にとって鉄は、少量ですむがけっこう大事な要素だったのにそれが一気に不足した。また当時沈んだ膨大な酸化鉄は、海の底で固まって巨大な鉱床を作った。
炭素と酸素とカルシウムの固まりも膨大だ。他にもたくさんある。
さらに酸素はそれでは足りず、海に溶けきれなくなって大気に混じった。それが上に行くと酸素はオゾンになった。オゾンは日光に含まれる紫外線……波長が短くて化学結合を切り離す力が強い光……を吸収して分解し、すぐに元に戻る。それが繰り返されるから、有害な紫外線は地上に届かなくなった。
それまでは海水の防御がなければ、地上は紫外線のせいで生物にとって生きられる場ではなかったが、そうではなくなったんだ。
生物がやった環境調整は他にもある。大気中には多くの二酸化炭素もあったが、生物が光合成で大量の二酸化炭素を消費し、それと海水のカルシウムを利用して炭酸カルシウムやそれに近い物にして自分の形を支えたり、食べられないよう身を守ったり、食べるための刃物にしたりした。それが死後海底にたまり、長い年月などの力で膨大な岩石に変わっている。それは地殻にとってもかなり重要な成分だ。それで二酸化炭素を減らしたことは、地球の気温そのものを大きく変えている。
*性、多細胞生物
さらにそれまでは細胞は中のDNAが自己再生し、細胞が分裂して増えるだけだったのが、二つの同じ種類の、遺伝子の一部だけに違う特徴がある生物がくっつき、DNAの「分裂できる梯子」という性質を利用して情報を交換し、複製の失敗による進化を待たずものすごい多様性を得る方法を身につけた。多様性があれば、多少環境が変化したりしてもそれに合ったやつが生き延びることができるし、体内に入って中から食おうとする小さい生物を防ぐ方法もたくさんあるから有利なんだ。
それが二つの対によって行われる、というのも一番単純ではあるけれど、聞いているのが三つ以上の性をもつのが当たり前だったり、性がなく単独の自己複製子しかなかったりする存在だったらびっくりして不気味に思うだろうか。
ある個体が、一部の細胞からDNAの半分を持つ小さい細胞を作り、それが自分と同じ種の生物が出す同じく半分のDNAを持つ小さい細胞と合わさると、小さい完全なDNAを持つ細胞……受精卵がひとつでき、それがまた分裂を始める。いくつかのDNA塊が二つ対になったのを多数用意しておき、片方づつを選んでいくやり方もある。
大体子供は両親に似るが、同じ両親の子供でも別々に生殖されれば色々違いがある。それが性だ。
そして特に次にいう多細胞生物の場合、そうして繁殖さえ成功したら他の身体は用無しだからすべての細胞が崩壊する、死が始まった。そういう生物はちゃんと水や酸素、光や食物があり、食べられもしないし病気にもなっていないのに時間がたつだけで動くのをやめ、自然の微生物に食われるのに身を任せてバラバラにされてしまう……死んでしまう。特に人類自身も含め、人間の目に入るような大きい生き物のかなりの部分がそう、有限寿命だ。
ちなみに遺伝子交換の方法は性だけでなく、上述の小さいのを体内に取りこんで共生するのもある意味それだし、また微生物の世界ではDNAの部分が切り離され、別の微生物のDNAに混ざってそのまま、ということも結構ある。
またものすごい時間をかけて、いくつかの細胞が集まってまとまって、しかもその細胞はどれも同じDNAを持ちながらいろいろな形・機能の部品に変わって、助け合って一つの生き物になる、という複雑きわまりない生き方に進化したものがあった。
他にも海には多数の、同じ遺伝子情報を持つ動物がまとまり、しかも色々と違う形や機能に分化してちょうど同じ遺伝子を持つ細胞が協調するように暮らしている、ということをやっているカツオノエボシとかがいるな。サンゴやシロアリも個体の集団が一つの生物のようにさえ見えるし、大きな面積を占める植物の集まりが同じ遺伝子ということもある。
多細胞生物はまず生殖のために分化した細胞を作る。動物の大半は有性生殖、ごく一部の動物と植物は無性生殖もする。無性生殖しか確認されていない多細胞動物はわずかだ。
まず受精卵がしばらくくっついたまま分裂し、そのうち分裂しながら形を変えて色々な器官を作り、その器官が協働してひとつの個体になり、その個体が元と同じぐらいの大きさまで成長したらまた半分のDNAをもつ細胞を作って……というわけだ。
ああ、多細胞生物のひとつの生きているもの……個体は、ある程度以上破壊……元の形から無理な力で変型させられたり、変に加熱されたり冷凍されたり、長期間必要な水や酸素を得られなかったりすると、残りの細胞が「まだ生きて」いても機能しなくなり自然に死ぬことが多い。特に複雑な構造になるとなるほど破壊に弱くなり、簡単に死ぬ。複雑な構造と機能分化した器官どうしの助け合いがなければ、各細胞が自力で水や酸素や二酸化炭素や養分を得たり周囲の微生物に食われるのに抵抗したりできないんだな。そうなったら自然の微生物に食われるだけだ。
ああ、でも無性生殖……自分自身のコピーを生殖と似たシステムで作ることができる生物もけっこう多いか。ほかにも半分ずつが、雄雌とはっきり違いがある生物もいるし、ほとんど同じなのもあるし、一つの個体が雌雄両方の生殖機能を持つのもあるし、一つの個体が成長などによって雄になったり雌になったりするのもあるし、ほとんどの個体は生殖機能を捨てるのもあるし……実にいろいろある。
また、多細胞生物にとって、個々の細胞はそれほど重要とはいえない。再生できるだけ残ってさえいればいい、生殖さえできればいいんだ、いくつの細胞が壊れても。だから多細胞生物の中では常に、多くの細胞が死んで、また別の細胞が再生する。それで遺伝子情報や形、記憶などは同じでも、体を作る元素全部が入れ替わって、分裂も死もなくそのままの細胞などなくなる。でも個体として生きてる。その点は、個々の原子は常に入れ替わりながら情報は維持されてる細胞と似ている。
だから、考えてみると無駄な話なんだが、どの細胞にも同じ、完全なDNAが入っているんだ。人間の機械でいえば、たとえば自動車の塗料のひとかけらにも「全部品の設計データ」が入っているのと同じだ。無駄な話ではあるけど、その車の目的が「情報を運ぶため」だとしたら別に無駄じゃない……人間がやるようにトランクに一冊だけ入れていたら、それが燃えたら無意味になる。
ああそうだ、人間の側から見れば、今言ったようなことはなかなか見えない。人間には単細胞生物を目で見ることはできないから世界を構成する生物は多細胞生物ばかりだ。そしてその多細胞生物は皆子を生み、子は親に似ている。
死は性を持つ多細胞生物にとってとことん本質的なことだ、ということは忘れないでおいて欲しい。
*地球生命圏、大量絶滅
さて、多細胞生物ができたのが10億年ぐらい前だ。生物がいつ発生したのかは知らないが、大体35億年ぐらい前といわれているから半分以上は単細胞生物だけだったんだな。今も生物全体の多くは単細胞生物だよ。単細胞生物を細菌と呼ぶこともあるけど、本当は人間は微小生物についてはあまりよく知らないから、多分その呼び方は間違いが多いと思う。今更直せないことも多いけど。
そうやって地球の表面近くは、大きい生物や小さい生物がたくさん満ち溢れるようになった。実は地球のかなり深い、高温高圧の岩の中にもけっこう単細胞生物がいるらしいけど、それについては人間は知り始めたばかりだ。
最初は地上には生物はいなかったけれど、さっきも言ったようにオゾン層が日光のやばい波長を遮断してくれる……ああ、あと地球そのものが適度に大きく、中がずっと熱いからか強い磁場を周囲に作っていて、太陽からの、光速に近い速さで飛んでくる素粒子などいろいろまずいものが地上に当たらないようにしてくれている事もあるか、地上でも生物が生きられるようになってきた。あと、数億年前から海水が地球内部に引きこまれて戻らなくなっていき、陸地が大幅に増えたこともある。
生物は本質的に水を必要とするから、最初は地上でも水が流れたりたまったりしているところ、それから少しずついろいろなやり方で水を持っていったり手に入れたりする方法を学んで、地上にも生物が広がった。
でも、確かに大気や地磁気などが守ってくれてはいるけれど、宇宙・地球というのは絶対安全なところじゃない。地球自体も今言ったように中がずっと熱い……それは時々、大量の炭酸ガスや窒素・硫黄化合物とともに中の液体の熱い岩を吐き出すことがある、ということでもある。
また宇宙の、太陽の重力圏にも、そりゃ各惑星ができたころに比べてだいぶ減ったけど、たくさん不安定な軌道で飛び回る塊はある。小さいのは地殻にぶつかる前に、大気と激しく摩擦することで蒸発する。前も言ったけど、熱は原子のぶつかる速さだ……極端な速さで空気に飛び込めば、それは激しく加熱されるのと同じになるんだ。でも時たま特大のが来ると、大気との摩擦でも燃え尽きないで大地にぶつかる……隕石だ。
重力で地球と引き合って加速しているからすごい速度になっており、その速度と質量が持つエネルギーは瞬時に膨大な熱エネルギーに変わる。特に巨大なものは時には地下の熱いとこまでぶち抜いてその熱まで引っ張り出して、気体と化した岩と加熱された空気は地上の全てを焼き尽くす。大量の岩石粉も地球全体にばらまかれ、それが大気上層に浮いて日光を遮断したりする。またでかい隕石は大抵海に落ちるから、海もめちゃくちゃにかき回される。そうなるときわめて多くの生物が死ぬことになる。
太陽の光、地球の自転公転も、安定してはいるけれど完全に安定しているわけじゃない。そのわずかなぶれは、大抵は大したことないけれど時たま、大気・海水・そこの生物などが色々と関わって複雑に絡みあう中、温度や化学成分の変化が大きくなることがある。何度か地球全体が凍りついたことさえあるぐらいだ。そうなるともちろんほとんどの生物は死に絶える。
まあとにかく事実だけ語ることにしよう。地球の過去を調べていくと、何度も地球の生物の大半が死んだ大災害が起きたことは確かだ。そしてそのたびに、特に陸上の大きい動物や植物で今の人間が保存された死体を発掘しやすいもので一番目立つものの、根本的な形や子供の生み方が変わる。
ある時期は二億年も、今生きているのより巨大な動物と植物が暮らしていたが、それが巨大隕石の衝突でいきなり絶滅したりしたんだ。
ちなみにここ最近も大量絶滅の真っ最中だ。私達人類のおかげでね。
ああ、人間の目は、元々人間が知っているものしか見えない。そして昔を知ろうとすると、前に言った「カルシウム化合物などの固い部品」が石になったものが一番見えやすいから、それを持たない生物は注意しないと見えない。だから人間は昔を「どんな大型脊椎動物がいたか」だけでイメージすることが多い。それは多分、本当の姿の一面でしかないと思う……微生物や昆虫、海中生物の変遷から地質時代を区分する方がおそらくは正しいんだろう。でもそれはある意味どうしようもない。人間のものの見方が限られていることは分かっているが、人間であることはやめられないんだ。もしナメクジが泥の大文明を作っていたとしても全部水に流れてわからない、と『火の鳥』にあったっけ。
*プレートテクトニクス、大陸配置
そうそう、以前海と大陸は紹介したが、地球の中がまだ熱いからか、大陸や海底は常に動いている。非常にゆっくりで、人間の一生……地球が太陽の周りを回る時間の、長くて百倍程度ではほとんどわからないが。人間はそういう長い時間を理解するのも苦手なんだ。
動いていること自体は、それこそ宇宙から見ればこれから紹介するアフリカ大陸と南アメリカ大陸が、一枚の板から切ったものだと一目でわかるのでわかりきったことだと思うが、人間は……まあその、人間がどれだけバカかという話は後だ。
今の大陸の配置をざっと紹介しておくか。北極周辺は海で、その周りを二つの大陸がとりまいている。
いちばん目立つのが圧倒的に大きいユーラシア大陸。東西に長く、南北にもかなり延びている。
その北西辺にひとつ、南側に三つ、東側に二つ大きな半島……大陸から海に向かって突きだしている地形が延びている。西端そのものを巨大な半島と言うこともできるな。
北極海を囲むもうひとつの大陸が、北側に多くの大きい島……大陸より小さい陸地を人間は島と呼ぶ、基準はどう見てもいいかげんだ……があるアメリカ大陸。
アメリカ大陸は南北に長く、北半球と南半球を分ける赤道より少し北で極度に細くなり、また赤道ぐらいで膨らんでから南に向かうにつれて細くなって海になる。
そしてユーラシア大陸の西側から南に下ると、陸地にほとんど囲まれ、かろうじて少しだけ外の大きい海につながっている地中海という海を挟んで、ユーラシア大陸の南の西側の方のアラビア半島とごく狭い陸地で結ばれたかなり大きいアフリカ大陸がある。アフリカ大陸は南北に長い。北側がかなり広く、赤道あたりから急に狭くなって、かなりの間大体そのままの東西幅で南下し、急に狭くなって海になる。ちなみにアフリカ大陸の東のほうに、南北方向にプレートの割れ目ができかかってる。何万年という時間が過ぎたらそれは海になって、二つの大陸になるんだろうな。
ユーラシア大陸の北東部は海に突き出すように、アメリカ大陸とほぼ接している。その狭い隙間から南下すると、細長いカムチャッカ半島に接して東側を覆うように千島・日本列島と呼ばれる島が連なっている。日本列島とユーラシア大陸が囲む海に朝鮮半島が突き出ている。ついでに、西端の少し北にもやや大きい島と周囲の多数の島がある。
それから南に行くと、インドシナ半島という南東側の半島があり、そこから更に南、赤道前後にいくつか大きい島がごちゃごちゃある。
さらに南には小ぶりのオーストラリア大陸がある。
それを無視してインドシナ半島からユーラシア大陸を回ると、南側の中ほどに三角形のインド半島が突きだしている。
ずっと南は、南極点を覆って南極大陸があり、その大陸は他の大陸とかなり離れている。
全体に北側に陸が多く、南側に少ないな。
同じことだが、海を南から見てみようか……南極大陸を囲む帯状の海にアフリカ大陸南部が突きだし、かなり北側にアフリカ大陸南端・オーストラリア大陸がある。アフリカ大陸と南アメリカ大陸の間……北に行くと北アメリカ大陸とヨーロッパにはさまれる……を大西洋、オーストラリア大陸やその北の群島・インド半島・アフリカ大陸に囲まれた、赤道から南半球だけの海をインド洋、アメリカ大陸とオーストラリア大陸やユーラシア大陸に囲まれる特大の海を太平洋と呼ぶ。北に行くと、太平洋と大西洋どちらも比較的狭い隙間から北極海につながっている。
ちなみに北極海と南極大陸はともに分厚い氷で覆われている。北極海はそのうち過去形になるかもしれないが。
アフリカ大陸とユーラシア大陸を分けている地中海についてはもう述べたな。
さて、大陸や海底は動いていると言ったが、動いているだけではない。どの大陸も、ひとつの岩の塊とは限らないし、海底も一枚の岩の板とは限らない。よく見たら、地下の巨大な熱量によって複雑なプレートに別れ、互いに力を及ぼし合いながら動いている。
たとえばさっき紹介したインド半島は、本来別の小さい大陸がひたすら北に動き、ユーラシア大陸にぶつかったものだ。だからユーラシア大陸とインド半島の境界が、ものすごく高いヒマラヤ山脈と呼ばれる大地の壁になっている。
そのプレートがぶつかる所は周囲に比べて高い地形……山、特にときどき大量のガスや高熱で溶けた岩を噴き出す火山が多くなるし、地面が揺れる地震も多い。
他にも山は色々な所にある。全体に……まずアフリカ大陸とユーラシア大陸の影響で、ヨーロッパは全体に多くの山脈がある。アフリカ大陸北岸にも。
ユーラシア大陸東岸も多くの山脈・火山がある。ユーラシア大陸とオーストラリア大陸の間の大きい島々にも火山は多い。
アメリカ大陸は全体に、西岸近くおよび赤道近くで狭くなっている部分がほぼ全部、ひとつながりの山脈と言っていい。
あとアフリカ大陸はほぼ全体が、なぜかかなり高い。海岸からすぐに非常に急な地形を登らなければならない。
*気象
その海と大陸の配置、地球が球で主に太陽光で温められ、また物体自体に宇宙に熱を放射する性質があること、あとは液体の水・雲・個体の水・植物のない地面・植物のある地面それぞれ太陽の光を反射する率……アルベドが違うこと、そして窒素分子と酸素分子四対一、少し水蒸気と二酸化炭素が混じっている大気や水の比熱などを考えれば、本来は地球の気候は言わなくても予測できると思う。
まあ一応解説しておくか。
いちばん単純なこと、液体も気体も、温度が高いと体積が大きくなり、その分密度が低くなる。重力下だと密度が高いものが上、低いものは下に行きたがる。そして地球の自転軸は公転している面に、本来直交するはずだがなにかがぶつかったのか少し傾いている。でも直交に近いから地球の南極と北極はほとんど日光に当たらないので寒く、赤道は一年中温められていて暑い。でも傾いている分、両極と赤道周辺以外は熱くなったり寒くなったりする。
その寒い両極と、暑い赤道の温度差は、水も大気もなければほぼそのままだ。だが水や大気が、その膨大な温度差を減らそうとする……それこそ熱力学第二法則だ。ただし、温度が違う液体や気体の固まりがぶつかり合うと、熱力学第二法則は互いを混ぜようとするが、実際には混ざるのにかなりの時間がかかってしまい、その間混ざろうとしない二つの固まりにも見える。特に温度の高い固まりが重力から見て上にあると、非常に長い時間混ざらないことがある。
まず大気。大量の気体が地球の重力につなぎ止められている状態では、周囲に比べて温度が上がると分子の運動が活発になり、その結果密度が下がって、周囲に比べて軽くなって上昇し、そこに周囲のより冷たい大気が流れこむ。それによって、重力がない場合よりよく熱い空気と冷たい空気が接触し、早く均等になっていく。あと空気は上に行くと、その上に積もっている空気が減って圧力が下がり、密度が下がって結果的に温度も下がる。
水も、大抵の液体や気体はある程度だが同じ動き、対流をする。大気の、主に対流による流れの一部を風という。それも地上ではかなりの力を持ち、長い時間で地形すら変える。エネルギーのおおもとは太陽光、いや太陽と宇宙の温度差だ。
その対流はまず赤道で大気が上昇し、そしてその少し南北で下降する。その下降した帯のまた少し南北で上昇し、と三回繰り返して両極に至る。一気に赤道から両極に風が流れることはない……地球は球だし自転しているから。
さらに地球は自転している。だからたとえば北に行こうとすると、まっすぐ行っているつもりが少し西にずれている。その作用によって、風は南北方向より東西方向のほうが強い。特に上空には非常に強い東向きの風が流れている。
また海面近くで、いくつか一年中ほぼ向きも強さも変えない強い風が吹くことも多い。
そして海水。海水は大気に比べて単位質量・単位温度変化に必要とされる熱が大きく、膨大な熱を効率よく動かしている。それがこの複雑な大陸配置で動くわけだ。太陽光は上から来るから、常に水は上が温かく下が冷たくなり、そのまま安定することが多い。
海の表面近くを見れば、いくつかのかなり速い流れがある。特に目立つのが日本列島沖を、南西から東北のアメリカ大陸北西岸に向かう日本海流、通称黒潮と、アメリカ大陸東岸の、赤道近くのくびれた所から北大西洋に抜けるメキシコ湾流だ。海水の流れと風も相互作用する。
そして地球全体で見れば、北大西洋で大量の水が冷えて海の深い所に沈み、それが地球全体をあちこちめぐってまたメキシコ湾流になって戻ってくるまでの壮大な流れがある。
さて、大気と海の間には重要な相互作用がある。あ、言い忘れたかな……地球では雨が降る場所が多い。人間の立場で見ると、前言った雲が時々特に濃くなって、上から人間から見れば小さい液体や固体の水の粒がたくさん落ちてくるんだ。
そうなると地面は大量の水で濡れ、その水が小さい岩石の隙間にしみこんでいったり、あるいはしみこみきれず地上に流れを作り、重力に引かれて低い方へ流れていくこともある。固体の水……氷だと地面を白く覆うこともある。さらに寒い所では、氷が大量に積もっていき、そのまま氷がゆっくりと地表を流れることさえある。固体は変型しないように見えるけれど、非常に長い時間で見ると流れる固体も結構ある。
その水や氷の流れは膨大な力があり、人間から見れば長い時間の間に地面を削って地形を変えることも簡単にできるし、大量の岩石などを運ぶこともできる。それだけでなく、たくさんの水が地表より下の岩の隙間などにあって、それもゆっくりと流れている。これも生物にとってはけっこう重要だ。
その水はどこから来たか? というと、答えは海からだ。海の水が太陽の熱を浴びて暖まり、蒸発する。その蒸発した水蒸気を含んだ水が、対流で動いて上昇すると圧力が減る。圧力が減ると分子の運動が遅くなる、それは冷えると同じだ。空気は温度によって、溶かしておける水蒸気の量が変わる……温度が高いほど多くの水蒸気を含むことができ、逆に冷えると水蒸気を溶かしきれなくなる。そうしたら余分な水が液体になり、まず小さい粒になって、空気の分子のぶつかる力で浮く……実はそれが雲の正体だ。そして、もっと粒が大きくなると、地面や海面まで落ちてくるんだ。それが雨。
その雨の多い少ないが地上の生物にとっては大切だ……空気中の水蒸気や造岩鉱物内部の水を直接化学的に取り出すのはなぜか生物は苦手みたいだ。いやまあ、人間が技術でやろうとしてもすごいエネルギー使うけど。
雨が降らない地域は生物が少なく、岩盤がそのまま露出し、部分的にはそれが細かく砕けた砂で覆われた砂漠という地勢になる。
緯度で見れば、赤道周辺は非常に雨が多い……空気が暖められて上昇するから。そしてその少し南北の、空気が下降する所は恐ろしく雨が少ない。宇宙から地球を見れば黄色い筋が一目瞭然だよ。北アフリカ、ユーラシア南西部、北アメリカ、南アフリカ、オーストラリア大陸などがそういう砂漠だ。
それからしばらく割と雨が多く、それから両極はこれまたほとんど雨が降らない……両極では雪か。
また全体として、ユーラシア大陸のような大きい大陸の内陸部は雨が少ない。さっき言った、水蒸気を含む空気が大陸内部まで動こうとしても、途中で水蒸気を全部落としてしまうからだ。逆に本来雨が降らない緯度でも、海に近ければ、また小さい島だったりすれば雨が降る。
特に大陸の東岸は、地球の自転する力などによって常に海から風が吹き寄せるから雨が降る。
あと、大きい山脈があって、それに常に強い風が吹きつけている場合、風上側は常に雨が降る。さっき言った、湿った空気が上昇したら冷えて雨を降らすメカニズムが働くからだ。逆に山脈の風下は空気に混じる気体の水蒸気が、上記の上昇による冷却で絞り尽くされていて雨が降らない……中央ユーラシアはただでさえ内陸なのに、ヒマラヤ山脈に南・東からの風をはばまれている。またアメリカ大陸西岸にもそれによって多くの砂漠がある。
ちなみに生物にとってはけっこう気温も重要だ。簡単に言えば赤道近くが熱く両極に行くにつれて寒くなるが、海に近かったり、特に赤道から両極に向かう海流に近かったりすると緯度の割にものすごく暖かくなる。逆に海から離れて高緯度だと一気に冷える。
また季節によって、そして昼夜によって気温が変わるが、大体海が近いと気温の変化は小さい、海から遠いと多い。
少し長い時間で見ると、最近の地球は寒くなったり暖かくなったりする。全体に寒くて大陸の多い北半球を広く氷河が覆う時期を氷期と呼び、暖かく氷河が少ない時期を間氷期と呼ぶ。地球の今は、妙に長めの間氷期だ。
*生態系
**単細胞生物
さて、今の地球で生物がどう暮らしているか、人類を無視して少し描写しておこう。
先に理解しておくべき前提が、今の生物は大きく単細胞と多細胞、そして嫌気性と好気性……酸素があると死ぬかなければ死ぬ、光合成するとしない、などと分けられる。動かない生物を植物、動く生物を動物と前は呼んでいたが、それは人間が生物に関する知識が少なかった頃に分類法を作って、新しい知識を得ても分類法を作り直すのが面倒だからだ。そんな簡単に分けられるものじゃない。
単細胞生物には嫌気性も好気性もあり、光合成をするのもしないのもある。多様で、実に多くの化学的な道具を持っている……いろいろな化学物質を出し、いろいろなものを利用できる。沸騰寸前、いや常温なら沸騰する温度で高圧の水や高濃度の塩水、地下の岩盤など、人間には信じられないような環境で暮らせるのも多い。また増えるのが非常に早く、ちょっと適した環境があればあっというまにその環境を使い切りながら増える。
多細胞生物も大小いろいろあるけど、ほぼ好気性。光合成するものは動かない事が多い。
嫌気性菌は生物の死体やそれが積もったもの、火山から出る化学物質、それこそ地下深くの熱い所でも生きるのがいる。それ以外の、人間を含む生物は水・酸素・二酸化炭素・日光・窒素や燐など肥料分を必要とし、また水が液体である、それもかなり低いほうの比較的狭い温度でしか生存できない。
生物を分けるには他にもいろいろある。人間、それもある一地方の人間に見える範囲の特徴、たとえば動くかどうかとか、ある染料で染まるかどうかとかで分類するのがずっと主流だったが、最近はDNAなどが知られて少しはちゃんとした分類ができるようになってきている。
といっても、考えてみれば生物をちゃんと分類する、なんてすべての生物のDNAとその機能が判明しないと無理だが、人類が把握してるのはそのとことんわずかでしかない。明日また、今まで知られたすべての生物より多様な生物の世界が判明しても別におかしくない。微生物についての人類の知識は本当にわずかしかない。
今の知識で言えば、まずDNAを入れるものがはっきりしているかどうかがあり、それが以前言った太陽に頼らず地下深くや海の底で地球から出る物質を使って生きてるようなものと、それ以外のちょっと表面に壁があるものに分かれる。DNAを入れるものがはっきりしている生物はごく小さいいろいろなもの、別の生物を細胞表面を通じて食べて表面に壁があるもの、その他となる。
さらに生物かどうかまぎらわしいのに、DNAだけでそれを自己増殖させるための色々な分子を持たず、別の細胞に依存して増えるのもたくさんいる。
あ、それまでの人間が分類してた、これから説明する動物とか植物とかなんて「その他」のほんの小さな部分だけだ。地球の生物の種の多様性や生物自体の重量の相当部分は、単純な単細胞生物だということを忘れないように。
**海
ではまず海の表面近くから。ほとんどの海表面は、海水と日光はふんだんにある。だが酸素や二酸化炭素はやや少なく、肥料分は更に少ない。また深い海になると一気に日光と酸素がなくなる。
そして海水はかなり密度が高いため、その中にあるだけで浮かそうとする力が働く。また運動に対する抵抗も大きい……動きにくいが押せば移動しやすいなど。だから地上に比べて、自分の形を保つための素材の強さは小さくてもよく、重力をほぼ無視できる。ただし深海に行くとものすごい圧力にもなる。あと私はつい人間の尺度で考えるが、非常に小さい生物にとって海水は……まあ人間が大量の砂利や蜜に埋まったように、泳ぐじゃなくてかき分ける代物だろうな。
そして水は比熱が大きく、海水は普通の水より更に融点が低い。そのため海水は比較的凍りにくい。もちろん融点より冷たくなったり沸点より熱くなったりしないから、生物にとっては比較的温度変化が少ない環境でもある。
海では一般に、重い肥料分は日光が水に吸収されて届かないほど深い所にある。海水表面が冷やされる場所や季節、風が大陸岸から表層海水を引きはがす場所、海流が大陸にうまく当たる場所などでは深海の肥料分が海水表面に出る。
そうなるとまず、単細胞やごく小さい光合成をする生物が増える。かなり冷たくても問題なく繁殖する。また岸が近く水深が浅い海であれば、海底に一部をくっつけて海流などに抵抗する目に見える大きさの色々な形の海藻が光合成で育つ。
それらを食べる、動き回る小さい生物がいる。それはより大きい生物の生まれて間もない頃である場合もあるし、元々小さいこともある。
より大きい生物が小さい生物を食う事が多い。まあそれだけでなく、小さい生物が大きい生物に貼りついてその栄養を吸う……寄生も多いし、また小さい生物が大きい生物の体内で増えて大きい生物を食い尽くしてしまう……病気も多いけど。
生物のスケールが大きくなってくると、いくつかの特徴が見えてくる。人間にとって目立つのは、内部に固い骨を持ち、素早く泳ぎ回る魚と呼ばれる生物群だ。
他にもイカと呼ばれる、全体に丈夫で特に固い部分がない、長く延びた部分……腕足をたくさん持つ生物もたくさんいる。外側が非常に硬い、多くの長く伸びて動く部分……脚を持つ、カイアシ類・蟹・エビなどの生物もいる。
自分ではあまり動かず、非常に柔らかくほとんど水でできたクラゲと呼ばれる生物も多くいる。
それから海底近くでは、非常に固い殻におおわれた貝類も目立つ。他にもよく見ると、色々な形をした実に色々な生物がいる……人間はそのどれだけを知っているのかねぇ、多分ほとんど知らないだろう。
さらに言えば、非常に小さい単細胞生物や、もっと単純でDNAなどとその殻だけでできているウィルスももっととんでもない数がいる。あらゆる生物が出しているいろいろなものも含まれる。
食べるやり方もいろいろあり、たとえば今地球で一番大きい動物で海に住んでいるシロナガスクジラは、その次に大きい動物ではなくかなり小さい生物を、大量に海水を口に入れて小さい隙間がたくさんあるところを通して海水だけ吐き出すことで食べている。海水の分子は小さく、生物はもっと大きいから、その間の大きさの隙間があればそこにひっかかる。濾過食といい、海ではすごく多くの生物がそのやり方で食べている。
ああ、それから海でも地上でも、あらゆる生物の死体は単細胞生物に食い尽くされる。もちろん生きていても単細胞生物どもは材料にもエネルギーにもなる生物分子の塊である生物を食って増えようと頑張っており、どんな生物も生きているのはそれに必死で抵抗して辛うじてだ。多くは失敗するけど。そしてその単細胞生物も他の何かに食べられ、そうやって生物の食う食われるが織りなす網に戻る。食う食われるだけでなく、寄生するとか共生するとか、あと出した酸素や二酸化炭素、他にも膨大な物質を色々と利用しあったりとかものすごく複雑な関係だけど。
戻らないのも結構ある……深海にそのまま沈んでしまう死骸もかなり多く、それは深海にたまって最後には積もり積もって岩にさえなる。地上の岩のかなりの部分は生物の死骸が押し固められ、また地球内部の膨大な熱のせいで地形が変わって地上に出てきたものだ。
ついでに、海の深いところでは、エネルギーから太陽に頼っていない生物がいる。地球深くの原子番号が大きすぎて不安定で原子核が分裂してエネルギーを出す元素の、そのエネルギーが元で地中の物質が色々動き、高い秩序を持つエネルギーになる水素などが出るところで暮らしているんだ。
**地上、植物
地上では酸素と二酸化炭素と日光はふんだんにあり、窒素や燐、珪素など必要とされる元素も海に比べれば足りていることが多い。で、まず水が大抵足りない。あと温度も海に比べて極端になりやすい。また大気は海水に比べて密度が小さく、浮力も小さいので重力の影響が極度に大きい。海の生物のほとんどは、地上に置いたら自分の重さで潰れて死んでしまう。
まず中心になるのが植物。海とは違い、大型の多細胞生物が主に光合成をしている。
植物にもいろいろあり、形や繁殖法で分けられている。岩などに直接張りつく水分の多いところで育つコケ、小さい遺伝情報だけの塊を出して繁殖する時少し水を必要とする、昔は巨大な木だったのもあるシダ、植物とはいえない本体は糸状に細胞をつなげ自分では動かないものが多い菌類とともに暮らしている光合成微生物の複合体である地衣類などいろいろある。
今の地球で重要なのが種子植物といわれるものだ。体が機能分化しており、光合成は葉と言われる二次元構造の器官をたくさんつけて行う事が多い。ああ、葉が細長くなったりすごく長い一枚だけの葉があったりするのもある……ここで言っているのは一般論、大体の話ばかりだ。特に寒い地方の樹木は葉が細長くなるのが多い、雪が積もらないようにかな。あと砂漠の、分厚く水分の多い植物には葉がものすごく硬く細長い構造になっているのがある。
その葉を、地上から離れた所に茎と言われる棒状の頑丈な構造で支持している。大抵一点で葉と茎が接しており、葉は簡単にちぎれ、また生えてくることができる。かなり傷つけられても全体は死なないようにだな。茎が非常に短く、ほぼ直接丈夫な葉が地上に伸びるのも多いし、また茎が地下に伸びる植物も多くある。
その丈夫さはセルロースとリグニンと呼ばれる、水素と炭素と酸素からなる化合物が一つ一つの細胞を分厚く覆い、互いに絡みあう無数の繊維となることから生じる。植物で大型のものは茎の表面のみが生きた細胞で、内部は死んだ細胞の非常に強靭な物質が集まった木とよばれるものになる。
木でないのは草という。木は非常に頑丈な構造だから、そのまま大きくなり続けることができる。植物はより多くの日光を受ける競争をするから、地上より高い所に葉をつけられれば有利なんだが、木は草より高くなれるから有利だ。ただし高くなるのに無駄な資源を使うし、水が少なかったりするとうまくいかないこともあり、草がなくなることはない。
また植物の表面は、いろいろな物質で覆われて水の蒸発や微生物の攻撃を防いでいる。また植物の一つ一つの細胞は、まあこれはどんな生物の細胞も変わらないが、常に様々な分子を作っている。植物の細胞は、ある程度以上の生物に共通する呼吸を行う小さい構造、前に言った光合成を行う小さい構造……どちらもそれ自体が細胞とは独立して繁殖する微小生物……、細胞自体を囲む頑丈な壁、色々な化学物質の液をためる部分などが特徴だ。
多くの植物は地面から下に、様々な隙間に糸状の根と呼ばれる器官を多数伸ばす。浅いところで板状に広がるものも多いが、地下深くまで伸びるのもある。地面が大体小さい岩石……砂が集まって水分をその隙間に保ち、後で言うが生物も加わって、その造岩鉱物の性質もあって柔らかい塊になった土というものになったのが植物に適している。その砂粒の隙間などに根を伸ばし、さらに細かい根毛と言われる毛を伸ばして周囲の水・窒素化合物など肥料分を吸収し、同時に茎が倒れないように支えている。さらにその根の植物の細胞に、いろいろな微生物や菌類が入って食い合ったり助け合ったりいろいろしている。
根は地面が乾燥、要するに地球上では大抵のものにくっついている水が気体になって大気に混じって消えて小さい隙間にさえない状態でも、もっと深い所にしみこんでいる水を強引に地上まで持ち上げることもできる。高い木になると、大気圧で管で水を持ち上げる限界よりさらに上まで、分子どうしの力で水を持ち上げることができる。その管全体が、水を前に言った電磁気的な非対称性でつながった一つの塊として、上から一分子ずつ抜いていくことで下から持ち上げることができる。
また植物は茎から芽と呼ばれる若い部分を出し、それが伸びて葉や新しい茎になる。茎が増えて多くの又になることも多く、枝と呼ぶ。
そして植物の、葉が変型して柔らかくなった花と言われる部分が繁殖……前述の、二つの生殖専門細胞が遺伝子を分けあう作業をする。植物の多くはひとつの体が雄雌両方の器官を持っていて、その花から多くは粉状の花粉が出て、それがめしべに着する……受粉。自分の花粉がめしべに着けばいい植物もあるし、別の同種の植物の花粉が必要なのもあるし、雌雄が別々の個体に分かれるのもある。その花は色・匂いが普通と違い、とても鮮やかなものが多い。
受粉したら大抵花の、葉が変型した部分が枯れ落ち、小さな塊が何かに包まれて出てくる。それを実といい、それに生殖した新しい個体のいちばん幼い姿……種が入っている。その種や実の多くは周囲の環境、特に乾燥や微生物によって死なないよう護られ、また栄養分がかなり乏しい所からでも成長できるように多くのデンプン・脂肪などを蓄えている。
だからそれは動物が好んで食べるものになるが、だから植物はその内部、毒になる物質を作ったり殻を固くしたりして食べにくくすることも多い。また、食べられることを利用する植物もある……植物は自力で移動できないが、種や果実に多量の栄養を蓄えておくと、それを食べる動物がその場で食べきれない分を別の場所にもって行ってくれる。そうなるとより広い範囲に子孫を残すことができる。
植物は種で繁殖するだけでなく、地下の茎、地面に接した芽、根の一部などから複数の個体を作ることもある。とんでもなく広い範囲の植物が、地下を見たら全部ひとつながりだったということさえあるんだ。
植物の生き方の一つに、つるを用いるものがある。ほぼ自在に形を変える、長い線状の茎が地上に伸びる。それは地面を覆うこともできるし、また木や草の高い茎に、多くは円筒上に螺旋を描くように上に行く。それは自分の体を支えるための資源を節約してより高いところに葉をつけ、日光を奪うことができる。そのつる自体が木化し、さらに自分がしがみついている木を枯らしてしまうことさえある。
他にも植物には花や種の性質が少し違う裸子植物、花を作らないシダ、茎がみられず濡れた岩などに直接ついて暮らす蘚苔類などいろいろある。もちろん光合成をする単細胞生物も、水中心にあちこちにいる。
気温の変動が大きい中緯度地域では、大体気温が上がり始める頃に草なら種から葉と根を出して成長を始め、木ならあちこちの、枝分かれしている部分などから小さな葉の塊を出す。気温が下がりだす頃に生殖、つまり花をさかせ種を作り、そのまま草は死ぬか根以外の地上部を死なせ、木は葉を落として幹と根だけになって寒い時期をしのぐ。
あ、陸上にも雨水がたまっている所がけっこうあり、それは海に似た生態系を作っている。違いも多く、多くは塩化ナトリウムが少ない水だから昆虫が重要な要素だし、光合成をする植物や魚の種類もかなり違う。
で、その植物を大小の動物や菌類が食べる。食べる側にとっては、植物の多くは必要な窒素化合物に比べて単純な炭水化物が多すぎるし、体に取り込むのが難しい厄介な分子が多い。
**地上の小動物
小さい動物はかなり多様だ。後述の脊椎動物にもかなり小さいのはいるが、特に目立つのが昆虫と言われるグループ。
そのグループとしての特徴はタンパク質と同じような元素構成でできた物質などでできた固い殻で覆われて外骨格をなしていること、小さいので呼吸がわりと単純でいい、前後がはっきりして左右対称、六本の脚と四枚の羽を持つ、卵を産むことなどかな。
外骨格と呼吸の構造からあまり大きくはなれないが、とにかく構造が多様で使いこなす化学物質の種類も多い。数も種類も、地球全体で全部集めた重さもすごく多い。
特に重要なのがアリとシロアリ。赤道近くでは生態系の中心となる。生殖の仕方が独特で、女王と呼ばれる一匹の雌が大量の卵を産む。その卵からかえる雌は、餌の種類によって少数の女王候補と働き蟻と呼ばれる生殖機能を持たないものに分かれ、働き蟻は生殖には関わらずひたすら地面を掘り、餌を集めるなどする。雄は何もせず、女王候補が別の巣を見つけるために旅立つときだけ従って交尾し、すぐ死ぬ。
その住みかはそれら昆虫の大きさから見れば実に巨大で、下は地下水層に達して水を集め、全体が熱や水分や空気を見事に動かす構造になっている。シロアリは体内の微生物によって木や葉を分解し、そしてアリの一部は植物を地面を掘った巣に持ち帰って下記の土壌微生物の一種を大量に繁殖させ、大量の餌を安定して得ることができる。そして互いに色々な化学物質などで情報をやり取りし……やってることは人間以上と言っていいよ。
アリに似た社会性昆虫で、空を飛んで植物の花が出す花粉や、花が出す蜜を集めるミツバチと呼ばれるものもいる。植物にとってはその蜂の働きはけっこう重要なんだ、虫は移動して別の花に体についた花粉を運ぶことを通じて、水や風以上に遠くの仲間と遺伝子を交換する手段になり、より大きな多様性を得られる。だから栄養を集めた蜜を与え、様々な化学物質を出し、花を色々な色にして昆虫を呼び寄せることをしている。
昆虫と花をつける植物をあわせたシステムの多様性は本当に素晴らしいよ。
他にも色々な小さい動物がいる。昆虫に似ているけど羽がなくて足が八本、さまざまな「糸」を使うことが得意な蜘蛛という他の動物を食べる小動物群も重要だ。体から、空気に触れると硬くなるタンパク質を出し、それが非常に細長く、弾力性が高い棒になる。さらにそれに、生物の体が触れると離れにくくなる物質まで塗ってある。それを木の枝の間などに張って、平面の形を作り、それが濾過に似た形で飛ぶ動物を捕らえる。他にも移動や、土を固めて隠れ場所を作るなどいろいろに使う。人間にもそんな能力があれば何かと便利だったんだが。
人間は地球に住む小さい生物たちについて、あまりにわずかしか知らない。
**脊椎動物
そして大きい動物のかなり多くは、我々人間も含めて脊椎動物というグループに入る。
魚も脊椎動物の仲間だ。共通の特徴はまず進行方向は前後軸とはっきりしていて左右対称、上下非対称であること。そして内骨格、表面ではなく内部に頑丈な、カルシウム化合物やタンパク質、細胞でできた繊維をうまくつないだ棒や板になることが多い構造を持ち、それによって自分の重さを支えることができる。水中陸上問わず大型化に適した構造だ。
基本的に酸素を呼吸する。体内には血液という、水に色々な化合物が溶け、無数の特別な機能を果たす体内で単細胞生物のように振る舞う他とは切り離された細胞などとともに循環する液が流れている。酸素を運ぶそれが鉄の特殊な化合物を含んでいて赤い。脊椎動物にはサイズが大きいのが多く、外の酸素や水と簡単にふれあえない細胞が多い……そのままでは死ぬ。酸素や水を血液が運び、二酸化炭素やアンモニアなどを流し去ることで体の深いところにある細胞も生きている。血の赤い色を作っている鉄の特殊な化合物は、水に溶けられる酸素よりも多くの酸素を運ぶのが主な機能だ。他の色々な生物が、色々な血液を持っている……鉄ではなく銅を使うのもいるし、植物にも体液が流れている。
脊椎動物もまず子供の産み方などでいくつかに分かれる。ああ、人間は人間を基準に生物を分類する……多分それは、本当にいい分類法じゃない。DNAも知らなかった人間が作った分類法なんだ。だがとりあえず人間のやり方しかないか……ここで新しく生物分類法を作りだす力は私にはない。
陸上の脊椎動物は昆虫や陸生貝類に比べ大型化できる。そして脳も大型化しやすい。
陸上という環境がやや特殊だ。空気は水に比べて密度が非常に低いので、浮力・移動抵抗ともに、特に大きくなるとほぼ無視できる。そうなると重力が直接かかってしまい、自分の構造を支えるのに強い構造が必要になる。また移動するのも大変だ、水中生物や超小型生物のように周囲の流体をちょっと押せば動けるわけじゃない、強い棒で自分の体を支え、またその棒で地面を押して、その反動で体自体を動かす。しかも常に重力に対して自分の体を正しい方向にしていなければならない。またその移動法には地球自体と引き合う重力、地面と足先がずれない摩擦力などの前提が必要になる。
体表が濡れており、卵を水中に産むので水に近い所でしか暮らせないのが両生類。卵というのは植物の種と同じで、受精卵が分裂し、まだ自力で動けない状態だ。
そして爬虫類という、体表が鱗で覆われており、卵も骨に似た頑丈な殻に覆われているからかなり水から離れても暮らせる動物がいる。けっこう妙な形が多く、柔軟な棒だけで他の多くの動物にある手足がないヘビ、逆に胴体を外骨格のように骨などで覆っているカメなどいろいろいる。
ああ、どこにでも例外はいる。魚にも爬虫類にも、体内で卵から小さい子供にまでして動ける子供を出すのもいる。
あと空中を飛ぶ鳥類もいる。ああ、脊椎動物はほぼ共通に、脚が四本あるんだが、そのうちの二本を空中移動のために使っている。海と違い、大気は密度が低い……あらゆる生物の素材より密度が低いから、そのままでは重力で地面に押しつけられる。だから流体の力学を巧みに生かす……上と下で対称でない、うまい形をした板を前方に動かすと、流速の違いから上向きの力が生まれる。二本の腕をその板のようにして、それを動かして飛んでいる。
昆虫の多くも空を飛ぶけれど、昆虫のサイズだとかなり飛ぶのは楽だ。二乗三乗則……この宇宙は空間三次元だから、サイズを小さくすると少ない力で体を持ち上げることができる。また水も空気も、サイズが小さくなると粘性が強まり、それも飛ぶ助けになる。鳥のサイズで飛ぶのはかなり大変だ。だからいろいろと構造上うまくできている。
でも空を飛べるというのは非常に便利だ、敵に追われて逃げるのも食べものを見つけて襲うのも。ああ、あと子供は爬虫類と同じ固い殻の卵を産み、表面は羽毛という特殊なタンパク質が非常に細くなったのを平たく分岐させ集めたもので覆われることが多く、またほかの動物と違い周囲の気温がどうなっても体温があまり変わらない……大量のエネルギーを常に使って温度を一定に保っている。エネルギーの無駄は多いが、周囲が寒くてもすぐ動けるのは有利だ。
人間が含まれるのが哺乳類。鳥同様体温はほぼ一定。基本的に前後方向にやや長い、いろいろゆがんだ円筒形に近い胴体の前方に頭部、胴体前端の下方向に二本の前足、胴体後端の下方向に同じく二本の太目の後足、胴体後端上部に長く関節の多い尾を持っている。
子供を産む方法は二種類ある。オーストラリア大陸などに少しいるだけなのが、腹に袋……中に物を入れられる、ある固まりの表面だけの構造……を持って、最低限手足が動くなど最低限生きられる程度の小さい子を体から出し、その袋の中で育てる。そうそう、オーストラリア大陸では体内で子供を育てるシステムの哺乳類が少なかったからか、袋を作るタイプの哺乳類がたくさんいて、それがまたいろいろな形、それも体内で子供を育てるタイプに似たのがいる決まった形に進化するんだ。同じ環境だと同じ形が最適になり、同じような機能を持つ生物が、食い食われの結果協力して生態系を保つようになるんだろうな。さらに飛べない鳥とかでも似たようなことが起きる。
より広い世界で生きているのが、雌……脊椎動物のほとんどは生殖が非対称で、一方が生殖細胞のほとんどを提供、もう一方の雄はほとんどDNAの半分しか提供しない、そして雌のほうが卵に栄養を大量に提供し、卵を外に出せるまで体内で保護し、殻やその内部の暫く生きるために必要な予備栄養まで与えると圧倒的に負担が大きい側……の体内に特別な器官を作り、そこで卵に酸素や栄養をうまく与えて、完全に外界で生きられるようになるまで育ててやっと出すシステムだ。
これは生物全体の生殖戦略としては、かなり極端な少産少死だ。あらゆる生き物があらゆる生き物を食べるし、外界の環境もけっこう変わるときは変わる……この地球は、宇宙から見れば安楽だけど、狭い見方で見れば非常に苛酷な場だ。多くの生物は寿命よりずっと短い時間で死ぬ。だから生物の多く、特に小型なのはものすごくたくさんの子を生み、そのほとんどが産まれてすぐ食われるけれど少しでも生き残ったのが成長して繁殖すればいい、というやり方で生きている。でも大きくなればなるほど強くなりそう簡単には食われない。大きい動物は少ない子を産み、その子に餌を与えたり保温したりして世話をすることさえある。
そう、哺乳類の雌は一般に、産んでからも体内で流れている色々混ざった水をうまく調整し、わざわざ小さい子供の食料として与え、かなり大きくなるまで食料が足りている状態にする……それを乳という。
哺乳類の表面は繊維状の細胞やタンパク質で、かなり丈夫な皮膚と呼ばれる器官を作っており、その皮膚には特殊な細胞とその死んだのなどからできた毛と呼ばれるより丈夫な、非常に細長く弾力性に富む棒がたくさん生えている種が多い。それは毛の間に空気をためて対流が起きないようにして熱伝導をしにくくしたり、外からの打撃などを弱めたりけっこう便利だ。
パターンから言えば、ここ最近あとで言うように人類のせいでまた多くの生物が絶滅しているから、それが終わってからまた別のやり方で生殖する脊椎動物が出てきてもおかしくないんだが……どうも哺乳類のその次は想像できないな。知性・大型・戦闘力などを見るのは人間の見方であって、生物にとっては適応あるのみだ。
**土
より小さい動物も、人間の目には見えにくいが非常に重要だ。線虫をはじめきわめて多様な小さい生物が大型動物の体内、土などいたるところにある。
土という言葉自体解説が必要だろう。地球の、人間が住んでいるような地域の多くでは、地面のあまり深くない部分は独特の土と呼ばれる素材でできている。
人間のサイズと感覚器から見ると砂と違い、手にとって傾けても流れ落ちない。粒どうしがかなり互いに粘着する。完全に乾燥すると石のように固くもろくなり、大量の水を入れて混ぜると非常に粘性が高い液体のような泥にもなる。土自体、色も形も非常に多様だ。その粘着する性質自体は、造岩鉱物の一部が水や風などによって非常に細かい粒に砕かれたことによる、本質的に鉱物自体の性質であることも多い。
ただ、土には造岩鉱物だけでなく、非常に小さい生物や生物の遺体など、生物の体を構成する分子やそれが分解されたものもたくさん含まれている。それと造岩鉱物の性質が合わさって、土の独特の性質ができるわけだ。
生物が落とすのは死体だけじゃない。微生物から大型動物まで、生物が他の生物を食べたときには、完全に何も残さず吸収し尽くせるわけじゃない。どんな生物も、体のなかに実に多様な物質を作っている。特に多細胞生物となれば植物の細胞壁、動物の内骨格や外骨格、羽毛や毛など非常に固い部分も多く、それらは簡単には分解して自分の材料にすることができない。大型動物の場合一般に体内には食べたものを処理するための管……海の動物には穴が一つの袋であるものも多い……があり、食べるものを入れて内部で消化吸収して余りを出す。
消化管には多くの、単細胞も多細胞も含め非常に小さい生物が常に住んでいて、それは時に宿主の体を攻撃し、大抵は食べたものの分解や吸収を助けている。たとえば昆虫の一種、シロアリは木を食うけれど、自分で木のセルロースなどを分解するのではなく消化管内の微生物に消化させている。草や葉を食べる大きい動物も大抵そうだ。そしてその膨大な小さい生物も分解しきれなかった物と一緒に排出される……糞と呼ばれる。
特に植物由来のセルロースなどを分解するのに、さまざまな微生物も非常に重要になってくる。単細胞の微生物もたくさんいるし、多細胞ですごく小さいのも実に色々いる。
また一つの方向に細胞がつながって時に分岐してちょうど植物の根のように一定の範囲の土や木にはりめぐらされ、細胞表面から周囲の栄養を吸収し、その栄養を目で見える大きさの塊に集中して、そこからごく小さい繁殖用の塊を撒くのもいる。昔は植物とひとくくりにされてきたが、動物とも植物ともまったく違う生物だ。かなり単純な構造で、運動することもないし自分で光合成をすることもない。ただし、その中には内部に微細な藻類を共生させるグループもあり、それは単純な植物に似ている。
普段は単細胞生物として生活しているが場合によって集まって、不定形の多細胞生物のように動いて、固く環境の変化に強い繁殖のための小さい細胞もしくはその塊を撒くものもいる。
特徴だけでは動物とも植物とも言えないのもたくさんいる。
本来ならもっとちゃんと、遺伝子構造からあらゆる生物を分類して、そういうのや別の小さい生物についても動物や植物と同じように詳しく説明したいところだけど、それらについては私はあまりに知らないし、人類そのものもそれほどくわしく知ってるわけじゃないんだ。許し難い無関心だよ。
また、単純に体の細胞が活動するだけでも、二酸化炭素やタンパク質の窒素が単純な形になったアンモニアやそれをより安全にした尿素という化合物、余計な水や塩化ナトリウムなどいろいろな物質を外に出さなければならない。
また生物の一つ一つの細胞も、生物個体全体も生きているだけで実に色々なものを常に外界から吸収し、外界へ排出している。自分の毛や羽毛など、死んだ細胞を体外に捨てることも多いし、粘液と呼ばれる様々な物質が混じった液などを体外に出す生物も多く、その排出されたものを食べ物とする生物もとても多い。
さて、そういう生物から出る色々な物や生物の死体……量としては植物が多く、特にそのセルロースとリグニンが分解しにくい……が、常に土に落ちる。そうすると土の中に常に住んでいる、膨大な小さい生き物がそれを食べる。そして食べては糞や色々な物質を出す。それが集まって土ができているんだ。
その小さい生物には、空気中の窒素分子を利用できる器用な生物もいて、それが最終的に生物たちの中に窒素を取り込んでいる。海にも空気中の窒素分子を使って他の生物が使いやすい分子にする微生物がいる。
さらに土の微生物は様々な化学物質を出し、土を作っている大小の岩石、造岩鉱物をゆっくりとだけど分解することさえできる。
植物の根も、そういう小さい生物と色々な物質のやり取りをしている。根を食うのも多くいるし、それを殺す物質を根が出すこともあるし、その殺すための物質をえさにする生物もいる、さらに小さい生物を根に棲まわせ、それが空気中の窒素分子や土の中の砂を分解して作った使いやすい分子を吸収したり、細かいところにある水を吸うのを助けてもらったりもする。
植物が生活するには土に適度に水と空気が含まれているのが望ましいとされる。
**生態系の元素・エネルギー循環
陸上では土の小さい生物から木や草やその他植物、昆虫や大きい動物……といろいろな生物が生きている。大量の多種多様な生物の集まりが生き続けるには安定した成分の大気とちょうどいい温度は当然として、水と秩序の段階が高いエネルギー、水素・炭素・酸素、窒素、燐や硫黄その他元素が必要だ。元素とエネルギーはなくならない、全体は無秩序に向かう、という自然界の基本法則を忘れないように。
水は陸上では雨か地下水を利用する。そのまま利用できないほど深い地下水を植物の根が吸いあげてくれたのに頼るものも多い。
高い秩序を持つエネルギーは最終的には、日光を用いた植物の光合成に由来する。
水素・炭素・酸素は、水や空気中の酸素分子・二酸化炭素分子から得られる。より単純な、言い換えれば秩序が低い水や二酸化炭素分子をより複雑で秩序が高い糖や脂肪などに変えるために日光の非常に高い秩序のエネルギーを使っているんだ。
窒素を直接空気から得るのは多くの、特に大型の生物は自分ではできない。主に土壌内の微生物がやっているが、窒素が不足して生物が少なくなることも多い。
燐や硫黄その他諸元素は、基本的にはその場にあるのを使い続けるしかない。土壌の燐を使って植物が育ち、その植物を動物が食べて燐を吸収し、より大きい動物がその動物を食べ……最後に死んで土の微生物が分解し、それでできた単純な燐化合物を植物の根が吸収、というふうに何度も繰り返し使われる。炭素や窒素も食べられたり分解されたりと色々な生物の間を流れ、時には大気や海に帰る。
水が流れていると、そういうのが水と一緒に流れ去ることも多い。でも雨といっしょに硫黄や窒素の化合物が落ちてくることも多い……火山の噴火で地球自体から出たり、また生物の非常に細かいのが空気中に出たり、海から出たりするのもある。いつも海の表面は風のせいで揺れており、海水が細かい粒となって空気中に飛んで水分が気化して大気に混じり、海水の成分が非常に細かくなって大気に混じることがよくある。
また土壌微生物は大地の造岩鉱物自体も分解し、さまざまな元素を生物の中に入れることができる。
海と陸も色々な物質のやり取りを、主に川の多くや地下水が最終的に海に流れこむことでやっている。生物の世界から見ても実に多くの、海と陸のやり取りがある。
それだけでなく、生態系からは失われ、地球内部にとどまる生物関連元素もかなりの量に及ぶ。
海底に沈む微生物の死体の珪素やカルシウムなどの化合物が海底で押し固められ、地上の岩石になっているものも相当多い。その炭素などが地下の高温高圧によって変化してメタンなどのガスやより複雑な炭化水素原子になり、それが岩盤に閉じ込められた天然ガス・石油もある。
また古代の地球では膨大な樹木が枯れて腐らないまま地下深くに埋まり、そこでほぼ純粋な炭素の塊になった。それを石炭といい、かなり大量にある。
以上のことで分かるように、あらゆる生物は他の多様な生物の存在自体に依存している。例外があるとすれば植物や海の光合成微生物、地球そのものから出る水素や硫黄に依存している微生物だが……生物は長いこと微生物だけでやっていっていたし……
少なくとも大型の生物は植物や光合成微生物がなければ呼吸する酸素もなく、日光のエネルギーを使って大量に原子のつながりを組み替えられた食物も得られない。
また植物を食べる動物は、自分を襲って殺して食べる動物や自分たちを内部から食い尽くす微生物や寄生生物がいなければすぐに増えすぎて、自分たちの食物を食べ尽くして自滅するだろう。
大型の動物は互いに縄張りを争って一定範囲あたりの数を調節し、多すぎるのが餓死することで数を調整する。また自分たちも病気や寄生生物で死ぬことで、獲物を食べ尽くして自滅するのを防ぐ。無論意識してではなく、みんな一生懸命生きようとするけど多くは失敗してそうなるだけのことだ。
そしてどの生物も糞を出し、死んで死体になる。それを分解する微生物などがいなければ、植物が新しく固定する炭素化合物だけでは土が足りなくなる。植物や微生物は、別の微生物などが糞や死体を分解して使いやすい化合物に戻してくれないとすぐそれらが不足する。また大気中の窒素分子を使いやすくしてくれる微生物も重要だ。というか植物の細胞自体に空中窒素固定能力があるとか、光合成用の細胞内共生微生物同様にみんな空中窒素固定微生物と細胞内で共生しているとかしていれば話は早かった。
ついでに動物だって自力でセルロースやリグニンを分解できたりしたら楽だったんだが、ある程度以上大きい動物には分子レベルでできないことがあまりにたくさんある。
*人類の誕生、サル
さて、哺乳類が繁栄し、地球が寒くなったり暖かくなったりを繰り返していたある時期、アフリカ大陸中央部の赤道直下で雨が多い地域で高い木ばかりの地域から、その近くに広がった草が多いが木もある程度あり、雨が降る時期と降らない時期がはっきり分かれており、一年中まず水が固体になるほど気温が低くならない地域にかけて、あるサルの一種が進化した。
それがずっと前に、森で長い時間をかけて進化してきたことは確かだ。ただしある程度草原にも適応しており、低速の長距離移動を得意とするやや大型の群れ動物だ。ただし単純に、自分の体の成分や形を変えて草原に適応するより、むしろその特殊な生活方法に順応したといったほうがいいだろう。
これだけだと意味不明だろう? とにかくまず、その人類という動物の体を詳しく描いていこう。言い忘れてたかな、この私はそれ、人類の一個体だ。
まずサルという、哺乳類の一部について少し解説しよう。木の上で暮らす事が多い動物だ。その多くは色々なものを食べ、木の上で暮らすために複雑な運動ができる。手や足、尾で木をつかむことができる。鳥類の三次元行動が非常に有利なのは前に言ったが、森の中である程度三次元に動けるだけでも非常に有利だ。
つかむ、ということがどういうことか……それを説明するとなるととことん難しいな。
平面においてある円形を円周に触れる三点で囲む。その三角形の三つの角がすべて直角より小さければ、「その円を平行移動させて三角形のどの点も円周内に入らないようにしつつ、円を三角形の外に出す」ことができない。
三次元においては、四面体で球を囲み「つかむ」ことができることもわかるだろう。
サルや人間を説明するにはそれがけっこう重要なんだ。枝という棒状……ゆがみのある円筒を、サルの類は手や足でつかむことができる。手や足は前も言った腕脚、陸上動物が体を支え、移動するのに使う棒状の身体器官の変型した末端部だ。脊椎動物の場合、複数の関節を持つ、一本の手足につき大体五本の指がある。その指は一方向だけに曲がることができ、その指が十分長いサルなどは支持する広い部分と指先が、断面を見ると歪んだ円筒形になって棒を囲んで圧力を加え、棒が外に出られなくすることができる。それによって体を棒からぶら下げて支持することができる。木が高密度に集まった空間を三次元に利用することができるんだ。
その能力と発達した感覚器、知能によって様々な種類のサルが地球全体、特に森がある所に広く分布している。
人類の遺伝子によって作られる体の構造や機能は、まず森のサルとしての生活に適応し、その特徴を多く残しつつ広い草原に適応する最中といえる、と覚えておいて欲しい。