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ペンギン!寿司職人

掲載日:2026/11/07


ここはとある町の寿司屋「松葉寿司」。

この店には珍しい寿司職人がいる。


大将

「いよいよ、お前もお客さんに寿司を握る日が来たな、ペン吉」


ペン吉

「クエッ」


大将

「今までの厳しい修行、耐え抜いたお前ならきっとできる。頑張れよ」


ペン吉

「クエッ」


女将

「ペン吉、立派になって…」


涙ぐむ女将。


大将

「おいおい、泣くにはまだ早えぜ。お客さんを満足させられてからだ」


ペン吉

「クエッ」


そこへ客が入ってきた。


大将

「へいらっしゃい!!」


客が席に座りながら大将に話しかける。


初見客

「あの、ここ初めてなんですけど、おすすめってありますか?」


大将

「へい!でしたら、おまかせがおすすめです。今日仕入れた旬のネタを握りますよ」


初見客

「じゃあおまかせで」


大将

「あいよ!」


大将が威勢良い返事とともにパン、と手を叩いた。


おもむろに包丁を握るのかと思いきや……


大将

「ペン吉!おまかせだ、頼んだぞ」


ペン吉

「クエッ」


初見客

「は?」


ペン吉がまな板の上に飛び乗った。


初見客

「えっ?ペンギン?ペット?」


大将

「いえ、私の一番弟子です!今日はこいつが握ります!」


初見客

「マジか」


大将が堂々というものだから、初見客は見守ることにした。


大将

「まずは、白身からいくか」


ペン吉

「クエッ」


ペン吉はシャリを手羽ですくい上げると……


派手に羽ばたいた!


パーン!!


シャリ爆散!



初見客

「うわあああ!!」


初見客の顔にシャリが飛び散る!


初見客

「ちょっと!ちゃんと握ってくださいよ!」


大将

「おっといけねえ。すいませんねえ、うちはシャリも活きが良いもんで」


初見客

「シャリが暴れてるの!?ペンギンでしょ、撒き散らしたの!」


大将

「今日水揚げされたばかりのシャリでねえ」


初見客

「シャリって海から獲ってくるものだっけ!?」


大将は初見客の疑問をスルー。


大将

「さあて、お次は」


初見客

「ねえってば!」


ペン吉

「クエッ」


ペン吉はイカを取り出す。


クチバシで。


ヒョイ。パクッ。ごっくん。


初見客

「食べちゃったよ!」


大将

「ペン吉〜、こいつぅ〜。またつまみ食いしやがって。かわいいなぁもぅ」


初見客

「かわいいじゃねえよ!俺はいつ食べれるんだよ!」


客が顔を拭きながら、


初見客

「ちょっと大将、一番弟子だかなんだか知らないけど、甘やかしすぎじゃないですか!?」


大将

「だって、かわいいんだもん。なあ、お前」


女将

「ね〜」


ペン吉

「クエッ(誇らしげな顔)」


初見客

「くっ…。こうなったら、ちゃんと寿司食べるまで帰らないぞ」


謎の意地の張り合いを始める客。


その時、店の扉が開き、新しい客が入ってきた。


大将

「いらっしゃい!!」


常連客

「やあ、大将。今日もいいネタ入ってるかい?」


長年馴染みの常連客がやって来た。


大将

「もちろんです!しかも今日はペン吉のデビュー戦なんですよ!」


常連客

「ほほぅ、今日だったか。自信のほどは?」


大将

「ドンと任せてください!なあペン吉!」


ペン吉

「クエッ」


ペン吉は威勢良く鳴いた。


常連客

「ほっほっほ、じゃあ早速いつもの握ってもらおうかな」


初見客

「あの、シャリ飛んでくると思うので止めておいたほうが…」


顔についたシャリを拭きながら初見客は常連客に話しかけた。


常連客は初見客の顔を見るなりさらに期待に満ちた表情になった。


常連客

「ほっほっ!今日はシャリの鮮度も特別良さそうだね!」


初見客

「シャリの鮮度の問題なの!?俺がおかしいの!?」


大将

「ペン吉!常連さんにいつものやつ!」


ペン吉

「クエッ」


ペン吉は片方の羽にシャリ、もう片方の羽にエビを持った。


ペーン!!


両羽で叩き潰した!


寿司はせんべいみたいにぺったんこ。


初見客

「つぶした!!」


常連客の前に差し出される平たい寿司。


ペン吉

「食えっ」


初見客

「食えって言った!?ねえ、鳴き声じゃなくて喋ったよね!?」


女将

「ウフフ、いやですよ、お客さん。ペン吉はペンギンなんだから喋るわけないじゃないですか」


大将

「はっはっは、お客さん、おもしろいね」


ペン吉

「クエッ?」


初見客

「そこは現実的な認識なの!?」


常連客

「ほお、ではいただいてみよう」


平たい寿司を一口。


常連客

「……ふむ…うむ…ちょいとシャリが固いかな。大将にはまだ及ばないようだね」


初見客

「固いで済みます?それ」


ペン吉

「クエッ…」


ペン吉は少し残念そうだ。


常連客

「今日デビュー戦だろう?まだまだこれからじゃないか、頑張れ、頑張れ。ほっほっほ」


大将

「ありがとうございます!ペン吉!景気づけにサバいくか!」


ペン吉

「クエッ!!」


ペン吉は冷蔵ケースからサバを取り出し、そのまま飲み込んだ!


ングング…ごっくん。


初見客

「また食べた!売り物ですよねそれ!?」


常連客

「ほっほっほ、良い職人は己の舌でもネタを確かめないとな」


初見客

「そういうレベルの話!?丸飲みしてますよね!?」


ペン吉

「クエッ?」


ペン吉は初見客を見ながら不思議そうに首を傾げる。


初見客

「ぐっ……ちょっとかわいい…」


初見客、ハッとして首を横に振る。


初見客

「ていうか!俺まだ寿司食べれてないんだけど!?」


大将

「ああ、すいませんねえ。ペン吉、次だ。昆布締め出して差し上げて」


ペン吉

「クエッ」


初見客

「嫌な予感しかしない」


ペン吉は白身魚の上に乗った昆布を取り……


力強く羽ばたいた!


パーン!!


初見客

「うわああああ!!」


ビターン!!


昆布が初見客の顔に命中!


アイマスクのように目元に張り付いた!


常連客

「ほっほっほ、昆布も活きが良いのう」


初見客

「なんでも鮮度の問題にすればいいと思ってるでしょ!」


ペン吉

「クエ…」


ちょっとうつむくペン吉。


大将

「ペン吉、元気出せ。まだこれからだぞ!」


女将

「そうよペン吉。頑張って!」


初見客

「何でもいいから俺に食わせてくれ」


常連客

「ほっほっほ」


ペン吉

「クエッ」


ここまでペン吉は、初見客に何も食べさせられていない。


流石に申し訳なく思ったのか、ペン吉は何やら姿勢を変え、別の品の用意を始めた。


ペン吉

「…ッ…ッ…オエー」


ペン吉がベーッと吐き出したのは、先程飲み込んだサバ。


初見客

「うわあ!何してんの!デロデロじゃねーか!」


常連客

「おや、なめろうかな」


初見客

「なめろうではないでしょ!」


大将

「これは、ペン吉なりの愛情表現です」


女将

「ヒナに餌を与える時の行動です」


初見客

「なんで二人ともドキュメンタリー番組の字幕みたいになってんの」


常連客

「ほほう!貴重なシーンを見れた。これはレアだねえ!刺身だけに!」


大将、女将、常連客

「ハッハッハ!!」


初見客

「そんな爆笑する?」


大将

「よーし、ペン吉。頑張ったご褒美に賄い食べるか?」


初見客

「まず俺に食べさせてよ」


ペン吉はハッとしたように顔を上げると、奥の冷蔵ケースに近づいた。


ドアを開けると、そこには立派なマグロの柵が鎮座していた。


ペン吉

「クエッ!」


大将

「あっ!待て、ペン吉!それは大事な高級マグロ!それはいくらお前でも丸ごと食わすわけにはいかねえ!」


ペン吉

「クエッ!」


ペン吉はマグロにクチバシを伸ばそうとする。


大将が慌ててペン吉とマグロの間に手を差し入れる。


大将

「ダメだ、ペン吉!これはダメ!」


ペン吉

「クエー!」


ペン吉は不満そうに羽をばたつかせ、大将の手をつつく。


大将

「いててっ!ダメだっ!女将、手伝え!」


女将

「ペン吉!ほら、イワシやアジがあるわよ!こっち食べなさい」


ペン吉

「食えん」


プイッとそっぽ向くペン吉。


初見客

「食えんって言った!!クエッじゃなく食えんって!!」


女将

「ウフフ、お客さんったら、そんなことばかり言って。ペン吉は喋りませんって」


大将

「お客さん、面白いこというね。ペンギンってのはね、魚を食うんですよ」


初見客

「俺が間違ってんのかなあ!?」


常連客

「大将。マグロ、大丈夫かね?」


大将

「あっ、いけねえ!」


大将はマグロを抱えてペン吉から離れた。


ペン吉を手で制しながら、


大将

「ペン吉、待て。これは高級なマグロだ。いくらお前でも簡単に食べさせるわけにはいかねえ」


女将

「ペン吉、ツナマヨ軍艦のツナで我慢しなさい」


初見客

「この店ツナマヨ軍艦出すの?」


大将

「へい、熱烈なリクエストに応えた裏メニューでね」


常連客

「ワシのツナマヨ軍艦を犠牲にしないでくれー!」


初見客

「あんたのかよ!」


ペン吉はマグロめがけて走り出した。


大将は後ずさりしたが、調理台にぶつかってよろけた。


その拍子にマグロが手から離れ、空中を飛ぶ。


女将が慌てて手を伸ばしマグロをキャッチ!

…したように見えたが、掴み損ねてマグロは更に高く飛ぶ。


常連客がマグロをキャッチしようと席から立ち体を伸ばす。


常連客

「いだあ!!」


常連客、マグロに手は届いたものの日頃の運動不足がたたり筋を痛め、マグロから手を離してしまう。そしてそのまま倒れる。


ぺちょっ。


マグロは初見客の頭に着地。


初見客

「…」


大将

「ナイスキャッチ!お客さん」


初見客

「キャッチはしてないです。乗っただけです。…とりあえず、お返ししますね」


ペン吉

「クエッ」


初見客

「とりあえず握ってもらっていいですか」


大将

「へい」


大将はマグロを受け取ると大事そうに包んでしまおうとする。


初見客

「えっ、それ握ってくれるんじゃないの?」


大将

「これは、大事なマグロなので…熟成させるんです…真っ黒になるまで」


初見客

「黒くなったら腐ってるんだよ」


常連客

「前に食べたマグロ、漬けマグロじゃなかったのかね?真っ黒だった」


初見客

「食べたことあるんですか?」


常連客

「どうりで…ビーフジャーキーみたいな味わいじゃった」


初見客

「熟成超えて保存食みたいになってんじゃねーか!」


初見客は大将に頼み込む。


初見客

「お願いします大将。俺、この店入ってまだ何も食べてないんです。なにか食べさせてください」


大将

「…わかりました。お客さんにはちょいとばかり迷惑をかけちまいましたからね」


初見客

「ちょいとどころじゃないけどね」


大将

「このマグロで、美味しい寿司を握ってみせましょう!ペン吉!俺の技を見ておけよ!」


ペン吉

「クエッ!」


大将はマグロを取り出し、スッと切り出す。空気を切るようにスムーズで滑らか。


シャリを握る手はその量を間違うこと無く。


わさびは塗られたことを気づかないほど自然でさりげない。


ネタとシャリが合わさった時、それは緻密な細工を仕上げるようだった。


大将

「へい、お待ち!」


初見客の寿司下駄に置かれたマグロの握りは、それはそれは美しい、光る宝石のようだった。


初見客

「うわ…めっちゃ美味しそう。いただきます」


初見客は寿司を口に運ぶ。


初見客

「…!大将、美味しいです。すごく美味しい!」


大将

「ありがとうございます」


ペン吉

「クエッ」


大将

「どうだペン吉。お前もいつかこれぐらいの寿司を握れるようになるんだぞ」


ペン吉

「クエッ」


初見客

「うーん…ペンギンには大変かもしれないけど、頑張って」


ペン吉

「クエッ!」


女将と常連客は、ペン吉の決意に感動し、そっと涙を拭いた。



――数カ月後


ある日の正午を過ぎた頃、松葉寿司の戸が開く。


初見だった客

「こんちは〜」


初見客はこの店によく来るようになっていた。


寿司の美味しさにいっぺんにファンになってしまったのだ。


大将

「らっしゃい!」


ペン吉

「クエッ!」


女将

「あら、いらっしゃい。今日は早いですね」


初見だった客

「予定が早く済んだので、早く来ちゃいました」


常連客

「今日はペン吉くんの新作があるぞ」


初見だった客

「今日は何だ〜?自家製なめろうだけは止めてくれよ」


ペン吉

「クエッ」


ペン吉はすでにブリをくわえている。


初見だった客

「ちょっと待て、ペン吉!食うな!握れ!」


しかしペン吉はブリの柵を飲み込んでしまった!


ペン吉

「クエッ?」


ペン吉はきゅるきゅるな瞳で首をかしげる。


可愛すぎて全員ため息。


大将

「お〜、ペン吉も食いたかったか?しょうがねえなあ」


初見だった客

「これがなけりゃなあ」


苦笑いをしながら、メニューを開いて次の注文を考える。



松葉寿司は、今日も営業中。





おわり


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