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ここはなにかが欠けている

守る者

作者: 浮月重月
掲載日:2026/10/31

王国では、国の手が回らないところを冒険者達が補っている。


例えば王都。王都の市街地における治安維持は憲兵隊が対応する。

周辺地域の害獣や魔獣駆除は冒険者が依頼を受けて討伐へ向かう。


地方都市であれば、市街地の治安維持は現地の騎士団が請け負う。

中小の町は騎士団だけでは手が足りず冒険者も一役買っている。


では、騎士団も置けず冒険者も寄り付かないような規模の村は?

付近に町があれば、その地の冒険者に依頼する事もあるのだが、

受けてもらえても解決まで時間の余裕のない場合はどうなる?


そうした場所では、村人が自警団を組織している場合がある。

普段は畑仕事などを手掛けているが、有事は武器へ持ち替えるのだ。


◆


この集落も、そうした自警団頼みの場所である。

何せ人口がかなり少ないのだ。村と呼べるのかも怪しいぐらいに。

年寄りや子供を含めても五十名もいない。


なお、自警「団」とは言うものの人員はたった五名である。


普段は農家が二人、どちらも三十を超えたあたり。

そして狩人が二人、こちらは四十中盤と二十代一人ずつ。

最後に十代中盤の村娘が一人。彼女に至っては家事手伝いである。


本来なら彼女の父親が加わっていたのだが、今はろくに動けない。

大工だったのだが、屋根から落ちて大怪我をしてしまった。

現在近くの町まで治療を受けに行っている最中である。


元々五名しかいなかったところに臨時の欠員が出てしまった。

かといって、誰か他に任せられるわけでもない。

残っているのは老人と女達、あとは子供だけなのだ。

残りの男衆は町で出稼ぎをしている。急には戻れない。


よって十三歳の彼女が臨時で数日間自警団に加わった。


◆


こんな辺鄙な場所でも、王国の新方針として基礎教育はされている。

五歳から八歳までの子供達は、近くの町の基礎学校に通っていた。

荷馬車に乗せられ、毎朝早くから通学しているのだ。


この娘も遅ればせながら昨年までは通っていた。

十一歳から十二歳までの間、かなり急ぎ足の詰め込み教育で。


なにせ基礎教育を子供達へ施すべし、というお触れは出たばかり。

既に九歳以上十五歳未満の子供に対しても必要だとされたために、

対象の子供達は最低限の読み書き計算を叩きこまれたのである。


そのおかげで彼女もある程度はそれが身に付いている。

しかし武器の扱いなどは教えてはもらっていない。


もっともこの娘、子供達からは一目も二目も置かれている。

女の子とは思えない野生児で、年上の男の子まで泣かせていた。

喧嘩となれば手段を選ばないので、心配はされてなかった。


◆


自警団といっても、普段やっている事は本格的な戦闘ではない。

集落の巡回と、物見やぐらでの半日の見張りだけである。

交代で行っているので、膨大な時間は取られない。


本日も娘は、硬い棒切れを武器代わりにして巡回中である。

王都に限らずこうした巡回警備は二名一組、三名一組が原則だが、

何せここには人がいないのだ。彼女のみで巡回している。


正直この集落は狭く、産業らしきものもほとんどない。

専業農家が二件、あとは兼業農家で細々と畑を耕している。

自警団最大の敵はせいぜい害獣だ。モグラやらネズミやら。


仮に盗賊が近くに立ち寄ったとしても、見向きもされないだろう。

それほどに何もない。盗めるようなものが見当たらない。

なので彼女も巡回を割と軽く見ていた。


が、この日はそれが災いとなる。


小さな森が途切れる場所で、イノシシに遭遇してしまった。

目があった途端、娘に向かい突撃してきたのである。


彼女は思わず棒切れを振り回して応戦しようとするが、

殴った瞬間、硬いはずの棒切れはへし折れる。


避けようとしたがイノシシに跳ね飛ばされた。左足に衝撃が走る。

道に転がる娘。まだイノシシは娘を襲おうとしている。


走って来たイノシシに娘は折れた棒切れを突き刺そうとする。

が、イノシシに刺さりはしたものの棒切れは持っていかれた。

また転がされた。もう攻撃する手立てがない。どうするか。


三度目、イノシシが襲い掛かって来た。

転倒したまま手近にあった石を投げつけたが効いていない。

思わず目をつぶる。


が、鳴き声はすれどいつまで経っても衝撃は来ない。

うっすらと目を開けると、イノシシの首に矢が突き刺さっている。


物見やぐらから見張っていた若い方の狩人が駆け付けていた。

他に集落の女衆も、農具を持って集まって来る。


いまだ暴れるイノシシを取り囲み、何とか農具で袋叩きに出来た。


◆


娘の奮闘は、よく頑張った、よく耐えたと讃えられた一方、

単独行動の危うさは集落の共有するところとなった。

今後巡回は二人一組で行う事になる。


娘は大工の父親が戻るのと入れ替わりで町へ治療に向かう。

襲われた時は無我夢中だったが、左足は傷も深く、折れていた。


大工は周囲の協力も仰ぎ、集落の周りに柵をめぐらした。

入って来づらいよう、せめてもの防御策である。


ところで、町で治療を受けている娘だが。

襲われた時に恐怖はあったのだが、落ち着いたら怒りがわいてきた。

あの時ああすれば、こうすればと神殿で治療待ちの間考え続け、

次に出くわしたら目にもの見せてくれると息巻いていた。


娘の帰還後、自警団は六名に増える。

彼女は今後狩人二人に狩りの教えを乞うそうだ。いやはや逞しい。

この集落近郊にはまだ、えげつない仕掛け罠が普及していません。


彼女、覚悟してきてる人ですよね…

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