守る者
王国では、国の手が回らないところを冒険者達が補っている。
例えば王都。王都の市街地における治安維持は憲兵隊が対応する。
周辺地域の害獣や魔獣駆除は冒険者が依頼を受けて討伐へ向かう。
地方都市であれば、市街地の治安維持は現地の騎士団が請け負う。
中小の町は騎士団だけでは手が足りず冒険者も一役買っている。
では、騎士団も置けず冒険者も寄り付かないような規模の村は?
付近に町があれば、その地の冒険者に依頼する事もあるのだが、
受けてもらえても解決まで時間の余裕のない場合はどうなる?
そうした場所では、村人が自警団を組織している場合がある。
普段は畑仕事などを手掛けているが、有事は武器へ持ち替えるのだ。
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この集落も、そうした自警団頼みの場所である。
何せ人口がかなり少ないのだ。村と呼べるのかも怪しいぐらいに。
年寄りや子供を含めても五十名もいない。
なお、自警「団」とは言うものの人員はたった五名である。
普段は農家が二人、どちらも三十を超えたあたり。
そして狩人が二人、こちらは四十中盤と二十代一人ずつ。
最後に十代中盤の村娘が一人。彼女に至っては家事手伝いである。
本来なら彼女の父親が加わっていたのだが、今はろくに動けない。
大工だったのだが、屋根から落ちて大怪我をしてしまった。
現在近くの町まで治療を受けに行っている最中である。
元々五名しかいなかったところに臨時の欠員が出てしまった。
かといって、誰か他に任せられるわけでもない。
残っているのは老人と女達、あとは子供だけなのだ。
残りの男衆は町で出稼ぎをしている。急には戻れない。
よって十三歳の彼女が臨時で数日間自警団に加わった。
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こんな辺鄙な場所でも、王国の新方針として基礎教育はされている。
五歳から八歳までの子供達は、近くの町の基礎学校に通っていた。
荷馬車に乗せられ、毎朝早くから通学しているのだ。
この娘も遅ればせながら昨年までは通っていた。
十一歳から十二歳までの間、かなり急ぎ足の詰め込み教育で。
なにせ基礎教育を子供達へ施すべし、というお触れは出たばかり。
既に九歳以上十五歳未満の子供に対しても必要だとされたために、
対象の子供達は最低限の読み書き計算を叩きこまれたのである。
そのおかげで彼女もある程度はそれが身に付いている。
しかし武器の扱いなどは教えてはもらっていない。
もっともこの娘、子供達からは一目も二目も置かれている。
女の子とは思えない野生児で、年上の男の子まで泣かせていた。
喧嘩となれば手段を選ばないので、心配はされてなかった。
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自警団といっても、普段やっている事は本格的な戦闘ではない。
集落の巡回と、物見やぐらでの半日の見張りだけである。
交代で行っているので、膨大な時間は取られない。
本日も娘は、硬い棒切れを武器代わりにして巡回中である。
王都に限らずこうした巡回警備は二名一組、三名一組が原則だが、
何せここには人がいないのだ。彼女のみで巡回している。
正直この集落は狭く、産業らしきものもほとんどない。
専業農家が二件、あとは兼業農家で細々と畑を耕している。
自警団最大の敵はせいぜい害獣だ。モグラやらネズミやら。
仮に盗賊が近くに立ち寄ったとしても、見向きもされないだろう。
それほどに何もない。盗めるようなものが見当たらない。
なので彼女も巡回を割と軽く見ていた。
が、この日はそれが災いとなる。
小さな森が途切れる場所で、イノシシに遭遇してしまった。
目があった途端、娘に向かい突撃してきたのである。
彼女は思わず棒切れを振り回して応戦しようとするが、
殴った瞬間、硬いはずの棒切れはへし折れる。
避けようとしたがイノシシに跳ね飛ばされた。左足に衝撃が走る。
道に転がる娘。まだイノシシは娘を襲おうとしている。
走って来たイノシシに娘は折れた棒切れを突き刺そうとする。
が、イノシシに刺さりはしたものの棒切れは持っていかれた。
また転がされた。もう攻撃する手立てがない。どうするか。
三度目、イノシシが襲い掛かって来た。
転倒したまま手近にあった石を投げつけたが効いていない。
思わず目をつぶる。
が、鳴き声はすれどいつまで経っても衝撃は来ない。
うっすらと目を開けると、イノシシの首に矢が突き刺さっている。
物見やぐらから見張っていた若い方の狩人が駆け付けていた。
他に集落の女衆も、農具を持って集まって来る。
いまだ暴れるイノシシを取り囲み、何とか農具で袋叩きに出来た。
◆
娘の奮闘は、よく頑張った、よく耐えたと讃えられた一方、
単独行動の危うさは集落の共有するところとなった。
今後巡回は二人一組で行う事になる。
娘は大工の父親が戻るのと入れ替わりで町へ治療に向かう。
襲われた時は無我夢中だったが、左足は傷も深く、折れていた。
大工は周囲の協力も仰ぎ、集落の周りに柵をめぐらした。
入って来づらいよう、せめてもの防御策である。
ところで、町で治療を受けている娘だが。
襲われた時に恐怖はあったのだが、落ち着いたら怒りがわいてきた。
あの時ああすれば、こうすればと神殿で治療待ちの間考え続け、
次に出くわしたら目にもの見せてくれると息巻いていた。
娘の帰還後、自警団は六名に増える。
彼女は今後狩人二人に狩りの教えを乞うそうだ。いやはや逞しい。
この集落近郊にはまだ、えげつない仕掛け罠が普及していません。
彼女、覚悟してきてる人ですよね…




