7
「待って!」
「!」
大の男が涙を流しながら村人達に引きずられていく。
気づけば私は駆け出し、男を庇うように両手を広げていた。
「待って! 本当にその人が赤ちゃんを殺した犯人なの?!」
私にはそうは思えない。だけど確証もない。
だけど、そんな曖昧な理由で人の命を奪っていいはずがない。
「……どきなさい」
「だめ! 証拠はあるの?! ただの憶測でしょう!」
村人達は顔を見合わせる。流石に子供相手に力ずくに出る気はないのか、静かに私を諭そうとした。
それでも退けない。退けば、この人は死ぬ。
確証の無い、ただ人狼である可能性に賭けられて。
「だが、他にあの子を殺した犯人に検討がつかないだろう」
「でも! この人がやったという証拠もない!」
「…………」
村の人達も薄々分かっているのだろう。私の言葉に何も言い返さない。
けれど同時に、彼らも守りたいものがある。彼らにも彼らの言い分があって、葛藤しているのだ。だから誰も引けない。
お互いそれ以上何も言えず睨み合っていれば、地面に蹲っていた男が顔を上げ叫ぶ。
「俺じゃない! ……確かに、子供が生まれてから妻がそっけなくなったとか、夜泣きがうるさいと怒鳴ったことはある! でも、殺したいなんて思ってない!」
思わず頭を抱えたくなった。この人は悪い意味で正直すぎる。
特にこの場で、その言葉は最悪だ。
案の定、村人達の視線が冷たくなる。
「ちょっ……!」
村人達が私を押しのけ、男へ手を伸ばす。それを引き止めようと口を開くが、男が言葉を続ける方が早かった。
「でもっ! 俺の子だぞ……!」
男の叫びに、彼を地面に押さえつけていた村人達の手が止まった。
「俺の愛した女だぞ……!!」
涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら男は叫ぶ。
「俺が殺すわけないじゃないか!!」
「!」
その慟哭は、嘘には聞こえなかった。
「絶対に仇を取ってやる! お前らの中に“人狼”ってやつがいるんだろ!? 絶対に許さねえ!!」
「レヴィ……」
誰かが跨る男の名を呼ぶ。しかしその瞬間――。
『――一度行われた投票結果の変更はできません。
処刑が行われない場合、こちらで速やかに処刑を実行します』
レヴィと呼ばれた男の慟哭をかき消すように、突然あの無機質な音声が辺りに響いた。
全員が反射的に空を見上げると、そこには今朝見たものと同じ小さな光の玉が浮かんでいる。
「――! っだめ!!」
「あいつらを殺すまで、俺は死ねないんだっ……ぁ?」
必死にもがきながらレヴィが叫ぶ。
だが遅かった。光の玉から一条の光が降り注ぐ。
――そして。
『処刑が完了しました。これより夜のフェーズに移ります』
「…………っ!!」
眩い光が消えた後、そこで必死に藻掻いていた男はもう動かなかった。地面に倒れ伏した体から白い煙が立ち上る。虚ろな瞳は何も映していない。
私達はあまりの光景に言葉を無くし、ただ茫然と立ち尽くしていた。
遠くでカイが目を見開き、セイルがユナの両目を塞いでるのが視界の隅に見えた気がしたが、今の私にそれを気遣う余裕は無い。
気づけば私は家にいて、祖母に強く抱きしめられていた。
「これからは子供達を含め、全員に会議へ参加してもらう」
翌朝、また一人の犠牲者が出たことで始まった一日は、村長のその言葉でさらに重くなった。
広場に集められた村人達の中で、真っ先に反応したのは子供達ではなく大人達だった。
「そんな……! 子供達は幼すぎます! こんな残酷なことに巻き込むなんて……!」
「子供になんて投票できないぞ!」
「そ、それに……いい加減な気持ちで投票されたら、された方はたまったものではない……!」
悲鳴にも似た声が次々と上がる。この村に残っている子供は四人。私とカイ、セイルとユナだけだ。
数票の差で、人は死ぬ。だからこそ大人達は恐れている。子供に責任を負わせることを。そして同じくらい、子供の一票を。
「静かに。それは私も理解している」
村長は疲れ切ったように息を吐いた。
「私が提案しているのは会議への参加だけだ。投票まではさせない」
「……参加だけ?」
「こんな状況で子供達だけを目の届かない場所に置いておけるないだろう。大人は全員集会所に集まっているんだ」
その言葉には何人かが頷く。
「子供達に投票権は与えない」
「それなら……」
張り詰めていた空気が少しだけ緩んだ。だが次の一言で再び凍りつく。
「ただし、投票先にも含めないものとする」
「!」
空気が変わった。子供のいない者達は鋭い視線を向け、一方親達は反射的に我が子を抱き寄せた。
「当然だろう。投票権を持たない者を投票対象にするわけにはいかない」
村長は淡々と言う。
「なお、大人が投票を放棄した場合はこの限りではない。……そんなことを許していては収拾がつかんからな」
重い沈黙が落ちる。だが一人が、その場の誰もが考えていたことを口にした。
「ですが……もし子供達が“人狼”だったら?」
「!」
無いとは言えない可能性。私は静かに息を呑み、状況を見守る。
「そうです! 人狼は村人に紛れているんでしょう?! なら子供だって例外じゃない!」
「大人だけで殺し合ったって、最後に子供達だけ残ったらどうするんですか?!」
「罪なき者への償いは出来るのでしょうか!」
いつも穏やかだった村の人達の変貌ぶりに恐怖を覚える。
仕方がない。今は通常ではない状態で、それも生きるか死ぬかの瀬戸際だ。だけど、自分達より何周りも大きい大人が大勢で私達の命について言及する様は、とても恐ろしかった。
「メア」
「……おばあちゃん」
「大丈夫よ、大丈夫」
祖母は私を抱き寄せ視界を自分の体で覆う。大人達を見なくて済むように。その声を少しでも遠ざけるように。けれど耳を塞がれても怒鳴り声は聞こえている。
それでも、たった一人でも味方がいることが救いだった。
「落ち着け」
村長の低い声が広場を制する。
「いずれ子供達も天秤に掛けなければならない時が来るだろう」
その言葉に誰も反論せず、耳を傾ける。
「だが、それは今ではない」
村長は村人達を見渡した。
「お前達は既に一度投票した」
その言葉に空気が重くなる。
「投票とは犠牲者を選ぶということ。……それには多大なる罪の意識と責任が伴う」
レヴィのことを思い出したのだろう。村人達が視線を落とす。
「そして同時に自分が選ばれるかもしれないという、死の恐怖も」
村長の言葉に沈黙し、今度は誰も声を上げなかった。
「私はなるべく子供達をそこへ入れたくない。むしろそう願っている」
眉間に皺を寄せ、苦々しい表情で村長は目を閉じる。だが一拍置いて瞼を開けた後、もうその感情は消えていた。
「だが、もし子供達が人狼である可能性が高くなった時は別だ。その時は投票権を与える。そして投票先として選ばれる義務も負ってもらう」
「そんな……!」
「人狼同士は互いを認識している。誰を庇い、誰へ票を入れるのか。その全てが情報になる」
村長は静かに続ける。
「だからこそ子供達にも会議を見てもらう。将来その立場になった時、不公平にならないように」
そう言って、村長はゆっくりと一人一人子供達に視線を向ける。
私に向けられた時、妙に凪いていたその瞳が印象的だった。
「…………」
それは早い段階で自分が処刑され、先導する者がいない未来を……誰よりも先に見ていたのかもしれない。
――残り――
村人:?名
人狼:?名
合計:22名
ここから処刑で選ばれた人が、人狼か村か分からなくなるのでそれぞれ?名になります。




