表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/17

国境の男

北の国との国境は、静かだった。

関所を抜けてから、しばらく進んだ森の中。雪の匂いを含んだ風が吹き抜ける。

馬車は、急に止まった。


「どうした」

御者の声が、低く響く。

「道に、誰か立っています」

護衛の騎士が、剣に手をかける。

「何者だ」

馬車の扉が開かれた。冷たい夜気が流れ込む。私は、外を見た。月明かりの下。

道の中央に、一人の男が立っていた。黒衣。風に揺れる銀髪。魔術師団長、ノア・アーカイブ。

忘れもしない。護送の途中で私に「本来はここにいないはずの存在だ」と言った男。


「ここで止まれ」

彼の声は、静かだった。だが、その場の空気が凍りつく。

「王家の命だ道を開けろ」

護衛が言う。

「王家の命は、ここでは通らない」

魔術師団長ノアは、一歩前に出た。

「この国境は、境界だ。越えてはならない存在がいる」

エマさんが、馬車から降りた。

「私たちは、フロストハイム王国へ亡命します」

「聖女よ」

護衛の隙間から、その視線がエマを捉える。

「お前は、まだ理解していない。お前が目覚めた力の意味を」

彼女は首を振る。

「私には関係ありません、ここを越えます」

アーカイブ様の目が、私へと向く。

「ローゼンヴァルト令嬢は死ぬ運命だ」

「アーカイブ様に言われても私は、生きます」


魔術師団長ノアは、ゆっくりと杖を構えた。

「それが、問題なのだ」

大気が歪み、地面に魔法陣が浮かび上がる。護衛騎士が一斉に動いた。

「防御陣形!聖女様を守れ!」

盾が前に出る。槍が構えられる。それでも、圧は増すばかりだった。

「退いてください」

エマが一歩前へ出る。

「これ以上、あなたに関わる気はありません」

「ならば、ここで終わらせる」

空気が凍りついた。

「エマさん、下がって!」

私が叫ぶより早く魔術が放たれた。白い光。黒い閃光。盾が弾かれ、地面が裂ける。

「うっ!」

衝撃が、背中を打つ。

「レティシア!」

倒れ込む私を、エマさんが抱き留める。騎士団が前へ踏み出す。

「聖女様を囲め!応急処置を!」

アーカイブ様は、私を見つめていた。

「境界を越えればお前は、完全に異物になる」

「それでも私は、生きたい」

魔術師団長ノア・アーカイブの手が、わずかに止まる。視線は聖女に向く。


「聖女よ。お前は、本当に彼女の死を望まないのか」

エマは、迷いなく答えた。

「望みません。私は、彼女と生きます」


沈黙。雪が、静かに舞い落ちる。


騎士団が一斉に息を詰める中、魔術師団長ノア・アーカイブはしばらく二人を見つめていた。

「・・・行け」

アーカイブ様は杖を下ろした。

「今は、見逃す。だが境界を越えた先でお前たちが何になるのか。それは、私にもわからない」

彼は踵を返す。

「次に会う時、私は敵かもしれない」

月明かりの中、魔術師団長ノア・アーカイブの姿は霧に溶けていった。


私は、エマさんの腕の中で息を整える。

「大丈夫ですか?」

「・・・はい・・・エマさん、それより亡命って・・・」

「・・・レティシア様を斬り付けたのは、宰相の息子セドリック・ルートでした。

私は王妃様にレティシア様と北の国フロストハイム王国へ亡命すると告げ、協力を頼んだんです」

(普通、他国に亡命なんて許されるはずない・・・なのに、何故?)


私たちは馬車に戻り、身なりを整える。


馬車は、北へ再び走り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ