白き怒り
法廷を出た瞬間、空気が変わった。
ざわめきに包まれた回廊。勝利と安堵の声。
私を見つめる視線。
そのすべてが、遠くなった。
「レティシア様」
エマさんの声が聞こえた。
振り向こうとした、その時だった。
鋭い気配。背後から、風を切る音。考えるよりも早く、衝撃が走った。
「・・・っ」
熱い痛みが、肩から胸へと広がる。
視界が揺れる。膝が崩れ、床に倒れ込む。
血の匂いがした。
(切られた)
黒衣の男が、刃を引き抜くのが見えた。
顔は仮面に隠されている。
誰かの叫び声。
騎士たちの足音。
だが、身体が言うことをきかない。
視界の端で、エマさんが駆け寄るのが見えた。
「レティシア!」
彼女が、私を抱き起こす。
彼女の白い衣が、赤く染まっていく。
大丈夫です
そう言おうとして、声が出なかった。
(また、死ぬのだろうか)
前回と同じように。理由もわからないまま。
その時だった。
エマさんの声が、震えた。
低く、怒りを含んだ声。今まで聞いたことのない響き。
「・・・誰・・・・しの・・・・・を・・・・!」
言葉の輪郭が、うまく掴めない。
けれど確かに、怒っている。
(私のために?)
床が、淡く光った。
回廊の紋章が、白く輝き始める。
人々の悲鳴。騎士の驚愕の声。
「・・・光が・・・」
「聖女様の・・・」
エマさんの身体から、白い光が溢れ出す。
まるで、怒りが形になったように。
彼女は、私を強く抱きしめた。
意識が、遠のいていく。
そして白い光が、すべてを塗りつぶした。




