開かれた扉
鉄の扉が、重く開いた。
「被告、出廷」
看守に促され、私は立ち上がった。足枷の音が、石の床に響く。廊下を進むたび、
胸の奥が静かに鳴る。
(逃げられない)
大法廷の扉の前で、足を止める。高い天井。重厚な扉。王家の紋章。
(ここで、終わるか。ここで、始まるか)
ざわめきが、波のように押し寄せる。貴族席。神殿席。騎士団席。王族席。
そして――被告席。
「静粛に」
裁判長の声が響く。
「これより、国家反逆罪に関する裁判を開廷する」
宰相が、検察席に立つ。冷たい視線。勝利を確信した顔。
「被告レティシア・フォン・ローゼンヴァルト。貴殿は、国外逃亡を企て、武装集団と結託し王家の護送を利用して反逆を図った。よって、国家反逆罪に問う」
「異議あり」
静かな声が、法廷に響いた。空気が止まる。私は、思わず顔を上げた。
弁護席に立つのはエマ・グレイス。
「その証言は、事実ではありません」
宰相の目が、細められる。
「聖女が、なぜここに」
エマは、静かに言った。
「私は、この裁判に立ち会う権利があります」
王妃が、頷いた。
「許可する」
法廷がざわめく。
「・・・続けよ」
裁判長が言った。エマは、私を一度だけ見てから、宰相へ視線を戻す。
「まず、山道襲撃事件について。襲撃者は山賊ではありません。王国正規軍の装備を用いた、私兵です」
「証拠は?」
エマは、一通の書類を掲げた。
「補給記録です。武具の出庫記録、倉庫刻印すべて、宰相府のものと一致します」
法廷が、どよめく。宰相の顔が、わずかに歪む。
「・・・それは、捏造だ」
「では、証人を呼びます。護送部隊補給係、前へ」
年配の看守が、証言台に立つ。レティシアに食事を配膳していた看守だった。
「私は、襲撃者の装備を確認しました。それは、宰相府倉庫の物でした。また、命令書の写しも存在します」
「・・・どこに」
「こちらに」
エマは、さらに証拠を提示した。
「では被告が襲撃者と結託していた証拠を提示してください」
宰相は、沈黙した。
「・・・署名入り書状があります」
「では、筆跡鑑定を王家書記官、確認を」
書記官は書状を手に取り確認する。
「・・・これは、被告の筆跡ではありません」
ざわめきが、爆発する。
「偽造です。宰相府の文官の筆跡と一致します」
宰相の顔色が、変わった。
「続けましょう」
エマは、静かに言った。
「襲撃者の供述もあります。彼らは、宰相の命令で動いたと証言しています」
「・・・」
「つまり被告レティシア・フォン・ローゼンヴァルトは反逆者ではありません。むしろ暗殺の標的です」
法廷が、騒然とする。私は、ただ立ち尽くしていた。
(・・・なぜ、彼女が)
「被告」
裁判長の声が、私を呼ぶ。
「何か、言うことはあるか」
私は、ゆっくりと顔を上げた。
「私は罪を犯していません。ただ、生きたいだけです」
法廷の空気は、重く張り詰めていた。ざわめきは、いつの間にか消えている。
誰もが、判決を待っていた。裁判長が、ゆっくりと立ち上がる。
「被告レティシア・フォン・ローゼンヴァルト国家反逆罪について、無罪とする」
息が、止まった。その言葉が、ようやく耳に届いた。
(無罪)
足から、力が抜けそうになる。
「また、宰相府による、私兵の動員および暗殺未遂の件について、宰相および関係者を拘束する。王家への反逆行為と見なし全権を剥奪する」
法廷が、どよめく。
「そんな・・・」
宰相が、後ずさる。宰相は、兵に取り押さえられた。
「連行しろ」
重い鎖の音。私は、その光景を見つめていた。
「被告あなたは、自由の身だ」
「ありがとうございます」




