鉄格子の向こう
牢獄の空気は、冷たかった。
湿った石の匂い。
錆びた鉄の匂い。
遠くで水が滴る音。
「レティシア・フォン・ローゼンヴァルト」
低い声が、廊下に響いた。
足音が近づく。鉄格子の前に立ったのは、宰相の息子セドリック・ルート。
「ご機嫌はいかがかな」
私は、ゆっくりと顔を上げた。
「ここに来て、機嫌の良い者はいないでしょう」
セドリックは、薄く笑った。
「君は、状況を理解しているか?」
「・・・反逆の嫌疑。武装集団との共謀。国外逃亡の計画」
私は、淡々と口にした。
「すべて、事実ではありません」
「だが、証拠は揃っている」
セドリックは、懐から書状を取り出した。
「これは、君の署名だ」
紙には、確かに私の名が記されていた。
だが、書いた覚えはない。
「偽造ですね」
「法廷で証明できるかな?」
セドリックは、肩をすくめる。
「君は、すでに罪人だ。裁判は、形式にすぎない」
宰相は、少しだけ声を落とした。
「君は、不要な存在だ。第一王子の婚約者であり、ローゼンヴァルトの後継であり、・・・そして聖女の敵とされた女。それだけで十分だ」
私は、唇を噛んだ。
「聖女エマのためですか」
宰相の目が、わずかに揺れた。
「彼女は、この国の希望だ。彼女の敵は消えるべきだ」
「私は、何もしていません」
宰相は、鉄格子に手をかけた。
「・・・安心したまえ。終身刑になる予定だ。表向きはな」
宰相は、ゆっくりと背を向けた。
「裁判の日まで静かに過ごすといい」
足音が遠ざかる。
私は、しばらくその場に立ち尽くしていた。




