外伝♦誤解♦
暖炉の火がゆらゆらと揺れる中、レティシアはソファにうつ伏せになっていた。
肩が凝ったと言うレティシアにエマがマッサージを提案したのだ。
「じゃあ、ゆっくりいくよ。力抜いてね」
「……はい……」
エマは肩から背中へ、指を沈み込ませる。
「レティ、ここ良い?」
「……あッ……はい、良い……です」
(レティのエロボイスだー!ツボ押し捗る)
「ここ、かなり硬くなってる」
「……んんっ……」
エマは少し鼻息が荒くなりつつ、凝っているところを重点的にほぐす。
「ほら、ここも」
「……あッ……あ……そこ……」
「効いてるね」
「……は、はい……すごく……」
押すたびに、レティシアの声が漏れる。
「……あ……っ……ん……」
(尊い……尊い……でも健全……これは健全……)
エマは自分に言い聞かせながら、真面目な顔で続ける。
「呼吸して。力抜いて」
「……すぅ……はぁ……」
「ほら、だいぶ柔らかくなってきた」
「……あ……じんわり……」
廊下を通る騎士が足を止める。
「……今の声……」
「お盛んだな…」
中では、まったく健全な会話が続いていた。
「レティ、ここもいくよ」
「……や……そこ……」
「大丈夫、ゆっくり」
「……あッ……あ……」
エマは一瞬手を止めて、咳払いをする。
「……レティ、声……ちょっとだけ抑えようか」
「……出ちゃうのは……あなたのせいです……」
「えへへ、ごめん」
それでも手は、やさしく、丁寧に動き続ける。
――外から聞けば完全に誤解されるが、中身はいたって健全マッサージである。
翌朝。
エマとレティシアが並んで朝の回廊を歩いていると、前方から黒衣の男が現れた。
「……聖女」
「ノア様、おはようございます!」
「……おはよう」
ノア・アーカイブは一瞬だけ視線を逸らし、咳払いをした。
「忠告がある」
「忠告?」
「……夜伽は、程々にしろ」
ぴたり。
レティシアが固まる。
「……は?」
「城内で噂になっている。夜になると、お前たちの部屋から声が聞こえると」
「ち、違います!!」
エマが即座に叫ぶ。
「健全マッサージです!!」
「声が出ちゃうだけです!!」
レティシアも必死に頷く。
ノアは二人をじっと見つめ、やがて深いため息をついた。
「……まあ、いい」
「いいんですか?」
「私生活に口出しはせん」
「ですから誤解ですってば!」
「だが――」
ノアは杖を軽く鳴らした。
「お前達の部屋に、防音魔法をかけておく」
「……え?」
「周囲への配慮だ。節度ある夜を過ごせ」
「だから違いますってば!!」
エマはレティシアの袖を引く。
「レティ、声抑えてね」
「出ちゃうのは、エマのせいです!」
「えー」
ノアはそのやり取りを見て、再び視線を逸らした。
「……若いというのは、実に騒がしい」
「ノア様!」
「安心しろ」
ノアは淡々と告げる。
「私は、何も見ていない。何も聞いていない。お前たちの夜の営みには、今後も一切ツッコまない」
「だから営んでません!」
「では、失礼する」
そう言い残して去っていくノア。
エマはその場に崩れ落ちた。
「……完全に誤解された……」
「あなたのせいです」
「いや、レティの声が……」
「エマ!」
「でも可愛いから仕方ないよね?」
「仕方なくありません!」
レティシアは真っ赤になりながら、そっぽを向いた。
「もうしませんからね!」
「レティ、そんなぁ〜」
遠巻きに二人を見ていた使用人達は、また誤解をしていくのであった。




