エマ・グレイス【婚約者として】
城門が開いた。
馬車がゆっくりと王都の中へ入る。
街路にはすでに人だかりができていて、私たちの姿を見つけるなり、ざわめきが広がった。
「聖女様だ」
「ローゼンヴァルト令嬢、ご無事だったのか・・・」
(王都モブのざわめき演出ありがてぇ)
馬車は王城へと進む。
私は、隣に座るレティシア様の横顔を盗み見る。
(推しが王城凱旋とか、感無量なんですが)
正門前で馬車が止まった。扉が開く。
そして――
階段の下に立っていたのは、ローゼンヴァルト公爵夫妻。
(え????推しの両親!ゲーム未登場のレアキャラ!!!!)
「レティ」
公爵が娘の名を呼ぶ。
レティシア様は馬車を降り、震える足で歩き出す。
「お父様・・・お母様・・・」
公爵は無言で歩み寄り、娘を強く抱きしめた。
「生きていてくれたか」
公爵夫人もレティシア様を抱き寄せる。
「よかった・・・本当に・・・」
(尊い)
私は少し距離を取りつつ、その光景を見守る。
(ああ・・・レティシアを産んでくれてありがとうございます。育ててくれてありがとうございます。世界に送り出してくれてありがとうございます。あなた方がいなかったら、私は今ここにいません)
公爵が、こちらを向いた。
「あなたが、娘を救ってくださった聖女エマ・グレイス様ですね」
私は一歩前へ出て、深く頭を下げる。
「レティシア様を救うのは当然の事です」
公爵夫人が微笑んだ。
「レティシアを守ってくださったこと、決して忘れません」
私は息を吸い、まっすぐに告げる。
「私はレティシア様を、必ず幸せにします。たとえ王国のすべてを敵に回すことになっても。たとえ権力を使うことになっても。彼女の人生を、誰にも奪わせません」
(推しの両親の前で言うセリフじゃないけど後悔はない)
公爵は一瞬だけ目を見開き、そして静かに頷いた。
「その覚悟、確かに受け取った。娘を、どうか頼みます」
(やったね☆レティシア!義理の父の公認だよ!)
その横で、レティシア様が呆然とこちらを見ている。
王城の鐘が鳴る。
王都に、帰還を告げる音が響き渡った。
こうして私は断罪され、この世界から消されるはずだった薔薇乙女を連れて、婚約者として王都へ戻ってきた。




