エマ・グレイス【推しの為に】
直談判イベントは、拍子抜けするほどあっさり終わった。
「護衛は王国騎士団をつけましょう」
「王妃様・・・神!」
深々と頭を下げて部屋を出た瞬間、エマは安堵の息を吐いた。
(よし。国外追放ルートの暗殺イベントは回避、これでレティシアは死なない)
そう思ったのも束の間。
廊下の向こうから、慌ただしい足音。
「急げ!ローゼンヴァルト公爵令嬢を拘束しろ!」
「宰相からの密告だ!」
「反逆の疑いあり!」
エマの顔から血の気が引いた。
(これって、宰相息子セドリックのルート!牢獄での衰弱死とされてるけど・・・本当はレティシアが穢され、毒殺される最悪のやつ!!)
拳をぎゅっと握る。
(でも、ここを乗り切れば、レティシアは助かる!!)
冷静になれ、エマ・グレイス。ここからは「レティシアの味方」だと悟られたら詰む。
宰相派閥に悟られず、裏で証拠を集め、最後に法廷でひっくり返す。
私は表情を消し、ゆっくりと歩き出した。
(私は関係ありません。レティシアがどうなろうと知りません。聖女は政治に関与しません)
そういう顔で。
そういう態度で。
先に看守を味方に付けて、毒殺回避。
そして・・・
セドリックが卑しい輩をレティシアに仕向けないように。
エマは、地下牢へ続く石段の前で足を止めた。
拳を軽く握る。振り返ることなく、階段を降りた。地下牢の前で、エマは看守に告げた。
「ローゼンヴァルト令嬢の件で確認したいことがあります。王妃様の命です」
看守は一瞬ためらったが、すぐに道を開けた。
(まずは内部から固める。毒殺ルートを潰し、外部接触ルートを封じる。それから証拠)
頭の中で手順を整理する。
証拠集め
・補給局
→ 山道襲撃に使われた武具の出庫記録を確認
→ 宰相府倉庫刻印と一致する証拠を確保
・護送部隊
→ 襲撃時の装備を確認した補給係の証言を取得
→ 宰相府からの命令書写しを回収
・諜報部
→ 私兵の確保
→ セドリック・ルートの命令による犯行だと供述させる
・文書局
→ 偽造書状の筆跡鑑定
→ 宰相府文官の筆跡と一致する証明書を作成
ゲームの知識を駆使。そして、すべて、揃った。
(これで盤面は完成。逆転条件、達成)
エマは、静かに立ち上がった。
(あとは法廷でひっくり返すだけ。待っていて、レティシア。必ず、助ける)
地下牢の扉の前で、そっと息を整える。
「レティシア様」
扉の向こうにいる彼女に、聞こえないと分かっていながら――
小さく、呟いた。
「次に会うのは法廷です。そこで、会いましょう」
踵を返す。




