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それでも、あなたを選ぶ


王都の夜は、静かだった。祝賀の灯が消え、城の客間の窓から見えるのは、光の都。

「眠れませんか」

背後から、エマさんの声がした。

私は振り返る。

「少しだけ考え事を」


彼女は、ゆっくりと私の隣に立った。

「レティシア様。ずっと、話さなければならないことがありました」


胸の奥が、わずかにざわつく。

「私は・・・あなたの最初の人生を、知っています」

私は、息を呑んだ。

「最初の、人生?」

「はい」

エマは、窓の外を見つめる。

「あなたは、一度、国外へ向かう馬車の中で、暗殺されました」


背筋が、冷たくなる。

あの山道。血の匂い。貫いた刃。

「・・・覚えています」

私は、静かに答えた。

「私は、殺されました」


「記憶が・・・あるんですね」

エマは驚いた。


「私は、死後また国外追放の直前に戻って来たのです」

自分の死を思い出し胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。


エマは私の後に続けた

「でも、それで終わりではなかった。レティシア様は、何度も死ぬ運命でした」

私は、ゆっくりとエマさんを見る。

「何度も?」

「この国に留まっていればレティシア様は第二王子の派閥争いに巻き込まれ、反逆者として処刑されていました」

私は、無意識にスカートを握っていた。

「騎士団長ヴァルター・ゲーヴェンバウアーによって斬首され、魔術師団長ノア・アーカイブによって、火刑に処される未来もありました」

胸の奥が、凍りつく。

「では、私が・・・ここにいたら」

「はい」

エマは、はっきりと言った。

「必ず、死んでいました。どの道を選んでも」

(私は・・・そんな未来の中に、いた・・・)

「だから私はあなたを、この国から連れ出しました。第二王子と接点を持たせなかった。そして、魔術師団長の隠しルートを、発生させなかった」

私は、はっとする。

「・・・国境の時、アーカイブ様が現れた時・・・」

「はい」

エマは苦笑した。

「本当は、ヒヤヒヤしていました。火刑ルートの入り口でしたから。一歩でも間違えたら・・・あなたは、あの場で殺されていました」

背中に、冷たい汗が流れる。

「では私が今、生きているのは・・・あなたが、すべてを避けてくれたから・・・?」

エマは、静かに頷いた。

「私は、この世界を知っていました。すべての物語を。あなたがどう死ぬかも」

私は、胸が苦しくなるのを感じた。

「・・・私は、物語の中の、悪役令嬢だった・・・のですね」

「はい」

エマは、否定しなかった。

「あなたは、必ず断罪され、必ず排除される存在でした」

彼女は、私の手を取る。

「あなたは、優しくて、誇り高くて。私はあなたを見た時から一人の人として好きです。愛しています。真実を知っても、私と生きたいと思えますか?」

私は微笑んだ。

「私は、あなたを選びます」


静かな沈黙。

そしてエマさんは、そっと私を抱きしめた。

「ありがとうございます。私は、あなたを失うのが、ずっと、怖かった」

私は、彼女の背に手を回す。

「もう、大丈夫です。私は、ここにいます」


窓の外で、夜明けの光が差し込み始めていた。

かつて処刑されるはずだった朝に、私は新しい未来を迎える。

運命は、書き換えられた。


物語は、終わった。

そして人生が、始まる。



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