雪の王国
国境を越えた瞬間、空気が変わった。
風は冷たく、雪の匂いがした。
けれど、胸の奥の重さが、少しだけ軽くなった気がした。
「ここが、北の国」
馬車は石造りの城塞都市へ入っていく。
高い城壁。白い屋根。厚い外套を着た人々。
誰も、私を睨まない。
誰も、私を罪人のように見ない。
それだけで、胸がいっぱいになる。
◇◇◇北の国・王城
王城は、質素だった。
豪奢な装飾はなく、実用性を重んじた造り。
だが、そこには温かさがあった。
「聖女エマ・グレイス。レティシア・フォン・ローゼンヴァルト公爵令嬢」
玉座に座る王が、静かに言った。
「フロストハイム王国は、二人を歓迎する。ルミナリア王国、王妃テレネッサより事情は聞いている」
私は、思わず息を呑んだ。
「・・・ありがとうございます」
「ただし」
王は、視線をエマさんへ移す。
「聖女。あなたの力は、この国にとっても重い。ルミナリア王国は、必ずあなたを取り戻そうとするだろう」
「承知しています。それでも私は、レティシア様の為に、ここに残ります」
王は、少しだけ微笑んだ。
「よろしい。ではフロストハイム王国は、二人の自由を保証しよう」
王城を出ると、雪が舞っていた。
街路には市場の声。
子供の笑い声。
焚き火の匂い。
私は、空を見上げた。
(ここならもう、殺されないかもしれない)
生きていれば、家族にまた会える。
希望が見えた気がした。




