薔薇乙女の最期
あの日の空は、どこまでも青かった。
成人祝祭の広場は花で満ち、王城の鐘は祝福の音を響かせていた。
私は、ただそこに立っていた。
「レティシア・フォン・ローゼンヴァルト」
第一王子レオン・ビート・ルミナリアの声が、広場に響く。
冷たく、はっきりと。
「本日をもって、貴殿との婚約を破棄する」
ざわめきが走る。貴族たちの囁き。市民の驚きの声。視線が、私に突き刺さる。
「理由は明白だ」
王子は続けた。
「貴殿は、聖女エマ・グレイスに対し長きにわたり、陰湿な虐めを行ってきた」
人々の視線が、広場の端に集まる。
淡い髪の少女が、立っていた。顔色は悪く、今にも倒れそうだった。
「私は・・・」
エマの声は、震えていた。
「レティシア様にずっと、怖い思いをさせられていました・・・」
その言葉が、刃のように胸に突き刺さる。
「そんなことは」
言いかけた声は、掻き消される。
「ローゼンヴァルト家は王国の名誉を汚した。よってレティシア・フォン・ローゼンヴァルトを本日をもって国外追放とする」
(追放?)
「待ってください」
私は声を張った。
「私は、何もしていません。エマさんに――」
「黙れ」
王子の声は、氷のようだった。
「お前は、聖女を傷つけた。それだけで、罪だ」
私は、言葉を失った。
◇◇◇
その日のうちに、私は城を追い出された。
持ち出しを許されたのは、最小限の荷物だけ。
家の者とも会えなかった。
「お嬢様」
御者が、気まずそうに言った。
「国外へ向かいます」
私は、馬車の中で膝を抱えていた。
(なぜ、こんなことに)
私は、エマさんに何をした?
私は、何を奪った?
私は、何を壊した?
答えは、どこにもなかった。
馬車は、山道へと入る。道は細く、森が深くなり、人の気配が消えていく。
胸が、ざわついた。
「・・・おかしい」
その時だった。
ガタン、と馬車が大きく揺れた。
「止まれ!」
外から、荒々しい声。馬が嘶く。刃の音。
私は、息を呑んだ。
「・・・まさか」
扉が開かれる。
男たちが、乗り込んでくる。
覆面。
武装。
訓練された動き。
「ローゼンヴァルト令嬢だな」
「・・・あなたたちは」
「依頼だ」
短い言葉。感情のない声。理解した。
(・・・最初から・・・生かすつもりはなかったのだ)
刃が、振り上げられる。
(エマさん・・・あなたは、私を――)
最期に見たのは、木々の隙間から差し込む青空だった。
そして――すべてが、闇に沈んだ。




