第93話 西の離宮
「リア、リア!大丈夫か?入るぞ!」
ジークフェルドの焦った声で目が覚めた。
あ、しまった。私寝ちゃってた・・・。
リアが慌てて起き上がるのと、ジークフェルドが部屋に入ってきてガバッとリアを抱きしめるのはほぼ同じタイミングだった。
「良かった・・・。何度呼んでも返事がないから何かあったのかと・・・。勝手に入ってすまなかった。」
ジークフェルドの表情にリアは心配をかけたことを悟った。
「申し訳ありません・・・。少しだけと思ったら眠り込んでしまいました。」
「いや、無事でよかった。」
ジークフェルドはリアを抱きしめながらふうっと息をついた。
そしてリアから身体を離し、ベッドのへりに座りなおした。
「今日から東の離宮にもグラシアスの要人がきているらしいんだ。急遽決まったことみたいで、父上たちはそちらの接待で忙しいとさっき言われた。そんなこともあって父上と会うのは早くて明後日以降になりそうだし、疲れているなら離宮の案内は明日にするか?」
たしかに滞在日程はゆったり取られているし、慌てて案内してもらう必要もない。
「はい、そうします。」
リアも頷いた。
「馬車の旅も座ってるだけだが、けっこう疲れるしな。今日はゆっくりしよう。じゃあ、夕食は2時間後だ。それまで寝ててもいいが、返事がなかったら、また部屋に入るぞ。」
ジークフェルドはそう言うとニヤっと笑った。
※
2時間後。
ジークフェルドと2人での夕食となった。
「リンドブルムの王宮って、思ったより人が少ないんですね。」
案内の女性や、給仕の男性などはいるので特に困ることはないのだが、アルノーの王宮に比べて極端に使用人の数が少ないように感じた。
実際、リアを人目に付かないようにするため西の離宮は使用人の数を制限しており、
しかもここ数年で勤務し始めた若い者ばかりだった。
「ああ、リアは自分のことは自分で出来るだろう?あまり人が多いと逆に緊張するかと思ったから、少人数でまわすよう頼んであるんだ。」
ジークフェルドはしれっと答えた。
確かに、着替えや入浴まで人に手伝われたら落ち着かないわよね。
「なるほど。」
リアは素直に納得している。
「それに東の離宮の要人は訪問が急に決まったと言ってただろう。そっちに人手を取られているのもあるみたいだ。」
これは事実である。
偉い人が突然くるなんて受ける側も大変なのね。
そんな感想をいだきつつ、おかげでこちらにみんなの関心が向かず気楽でいいやとリアは思ったのだった。
夕食が済み、2人で部屋の方へと戻ってきた。
自分の部屋まで来ると、リアは扉を開け一歩中に入った。
そして振り返り、にこりと笑って挨拶をした。
「ジークフェルド様、おやすみなさい。」
ジークフェルドは優しく微笑み、少し身をかがめるとリアのおでこに軽くキスをした。
「おやすみ、リア。いい夢を。」
そう言ってパタンとリアの部屋の扉を閉めた。
その後、足音が聞こえ、扉の開く音と閉める音が聞こえた。
ジークフェルドも自室へと戻ったのだろう。
リアは両手でおでこを押さえ真っ赤になりながら、そのまま扉の前で立ち尽くしていた。
旅の始めは遠慮がちだったジークフェルドの愛情表現がどんどん大胆になってきた。
もとから駆け引きなどは苦手そうなタイプなので伝え方もストレートだ。
いざ、お別れしなきゃいけなくなった時、きっと私すごく泣くんだろうな・・・。
甘くて甘くて、苦い初恋だった。




