第91話 馬車の中にて
「母上はどんな方だったんだ?」
ジークフェルドは平静を装って尋ねた。
一番聞きたかった人物だ。
ジークフェルドに聞かれ、リアは少し目を伏せた。
「母は1年程前に病気で亡くなったんです。そうですね・・・、見た目も雰囲気もエミリア様に似てます。」
ジークフェルドはハッとしてリアを見た。
その2人が実の姉妹だということはリアは知らないはずだ。
エミリアがリアを抱きしめている姿は、本当の母娘のようだった。
ジークフェルドはユーフェミアと会ったことはないが、きっとエミリア叔母上のような感じの人だったのだろうと思った。
「私もよく知らないんですが、母はリンドブルムの貴族の出身らしいんです。リンドブルムで商談に来ていた父さまと出会って恋におちてアルノーに嫁いできたんだそうです。」
リアはそういう風に聞かされてるんだな。
成程と思いながら、少しいじわるな質問をしてみた。
「へえ、母上の家族とは付き合いはあるのか?」
リアは首を横にふった。
「聞いても詳しく教えてくれないので、私の想像なんですけど・・・。結婚を反対されて、勘当みたいな状態なのかなと思ってるんです。母さまに家族のことを聞いたらすごく悲しそうな顔をするから、それ以上聞けなくて。」
暗く沈んだ表情になったリアを見て、ジークフェルドは慌てて話題を変えた。
「そういえば、リアに剣を教えた商人ってのはどんな奴なんだ?」
リアの表情がパアっと明るくなった。
「ロイは母さまの知り合いで、リンドブルムの商人なんです。身体が大きくて、うちに来たらいつも遊んでもらってたんです。オレンジの収穫をよく手伝ってくれてたんですが、肩車をしてもらって果実をもいだり、木登りもロイに教えてもらったんです。2人目のお父さんみたいな感じです。」
「2人目のお父さん・・・。」
ロイス・ローゼンハイム将軍は非常に勤勉で、王宮や騎士団にいる時はいつ寝ているのだろうかと思うほど、ずっと仕事をしている男だった。
自分にも他人にも厳しく、部下たちは恐れながらも畏敬の念をいだいていた。
そんな仕事の鬼の将軍だったが、地方の視察と称してしばしば王都を離れることがあった。
騎士団の中でも不思議がられ、どこに行ってるのだろうと話題になっているのを聞いたことがある。
あの親父、リアのところに行ってたのか。
ジークフェルドの顔が引きつった。
「リアはその商人のことが好きなんだな。」
楽しそうに話すリアを見てジークフェルドが聞くと、リアは満面の笑顔になった。
「はい。父さまと同じくらい好きです。」
そんな話をしつつ、アイルを出て別の町にもう1泊した後、ついにリアたちはリンドブルムの王都ブルーメに到着した。




