第89話 アイルにて (リボンのお店)
店はどこか懐かしい感じのするアンティーク調の内装だった。
店内には豪華な一点ものから切り売りのものまで様々なリボンが所狭しと売られていた。
「どういうやつがいいんだ?」
ジークフェルドが尋ねてきた。
「お土産なので、せっかくならリンドブルム風のものがいいですね。」
リアの返答を聞きつけた若い女性店員が声をかけてきた。
「お土産でしたらこちらはどうでしょう?」
それは、きれいな青色の布に白い糸でツタや花などの繊細な刺繍がされたリボンだった。
「わあ、可愛い。細かい刺繍ですね。」
「白糸刺繍は、この地方の特産品なんですよ。このリボンは彼氏さんの瞳の色にしてみましたが、差し上げる方の色にされてもいいと思います。」
「「えっ、彼氏?」」
その言葉に2人ともあせって店員を見た。
2人の視線を受けた店員はきょとんとした。
「あれ?違いましたか?申し訳ありません。そういう風に見えたもので・・・。」
申し訳なさそうに謝る店員に、ジークフェルドは満面の笑顔になった。
「間違いでもない。アプローチ中だよ。よし、リア。このリボンは俺が買ってやる。シンシアとイーリスには別のを選べ。」
その言葉に、リアは天にも昇るような嬉しい気持ちと胸が張り裂けそうな悲しい気持ちを同時に味わった。
ジークフェルドもリアに好意を寄せてくれている。
それはリアも感じることができ素直に嬉しかった。
でも、この恋には未来がない。
身分差がありすぎるのだ。
ルーファスとリアの身分差どころではない。
大国リンドブルムの王子と小国アルノーの男爵令嬢。
未来はなくても、今だけの恋を楽しめばいい。
真面目なリアに、そんな器用なことができるはずがなかった。
「ありがとうございます。」
気持ちを封印し、泣き笑いのような表情で礼を言った。
結局、お土産にはシンシアの瞳の色に近い若草色のリボンを選んだ。
この色ならイーリスやリアの金色の髪にも映えるだろう。
カウンターで2人の分をプレゼント用に包んでもらっていると、ジークフェルドが近づいて来た。
「これさっき支払いは済ませたから、今からつけてもいいか?」
頬を染めリアが頷くと、ジークフェルドが後ろにまわり青色のリボンを結んでくれた。
プレゼント包装をしていた店員さんが微笑ましそうに見てきて、リアはさらに赤くなった。
お店を出る時、店員さんが笑顔で見送ってくれた。
「お幸せに。」
その言葉に、ジークフェルドが振り返り笑顔で右手をあげた。
宿への帰り道も手をつないで歩いた。
ほとんど会話はなかったが、それが苦痛でもなくむしろ心地よかった。
しばらくそうして歩いていたが、ふとジークフェルドが話しかけてきた。
「リア、そのリボン金庫とかに入れずに学院に帰っても使ってくれよ。」
ジークフェルドらしい言葉に、リアは笑って頷いたのだった。




