第85話 中期休暇の予定
「リンドブルムへの小旅行?」
リアは、たった今ジークフェルドから聞かされた言葉を繰り返した。
「父上が、エミリア叔母上から話を聞いて、一度リアたちに会いたいと言ってきたんだ。それで秋の中期休暇の間に、生徒会メンバーを国に招待したいらしい。」
中期休暇とは、学年を前期・後期に分けた真ん中にある長い秋休みのことだ。
エミリア王妃から妹姫と私が似ているという話を聞かれたのかしら?
エミリア王妃の妹とは、つまりリンドブルム国王の妹でもあるのだ。
リンドブルムは大国だし、その国の国王から招待を受けて、リアに断れるはずもない。
でも・・・。
たじろぐリアにジークフェルドはあっけらかんと笑った。
「なにも国賓として招くわけじゃない。公式な謁見やパーティーとかもないし、友達の家に遊びに行って、そこのお父さんと会うようなもんだ。ワッツ伯爵家にも遊びに行ったんだろ?」
ジークフェルド様って、自分が王子様という自覚はないのかしら?
イーリスの家に行くのと一緒にされても・・・。
「わかりました。・・・他の皆さんも行かれるんですよね?」
最後にリアが確認するとジークフェルドが頷いた。
「ああ、もちろん全員に声をかけるつもりだ。」
※
中休みに購買でばったりヘンドリックに会ったので、旅行について聞いてみた。
「えっ。ヘンドリック先輩、行けないんですか?」
リアは驚いた。
「そうなんだ。前から治療していた膝なんだけど、中期休暇の間に手術をすることになってね。術後もリハビリがあるから旅行は無理なんだ。こんな機会はめったにないから僕も残念だよ。」
ヘンドリックは本当に残念そうな様子だったし、リアはそれ以上何も言えなかった。
※
その後、昼休みに食堂でばったりルーファスに会った。
「えっ。ルーファス先輩、行けないんですか?」
「ああ。父が先日倒れて入院してしまってね。父がしていた領地の視察などの仕事を中期休暇の間にこなさなくてはいけなくなったんだ。いい機会だったのに残念だよ。」
これは本当のことだが、理由の全部ではない。
公爵が倒れて、ルーファスが仕事の一部を肩代わりすることは事実だ。
トルドー公爵家は、リンドブルム国王から3か月間リンドブルムとの交易の一部を制限するという制裁措置を言い渡されている。
公爵家の跡取りであるルーファスが、その期間にのうのうとリンドブルムに遊びに行くわけにはいかない。
これはリアには内緒だ。
※
放課後、リアが生徒会室に入るとすでにクリスが仕事をしていた。
「クリス様はリンドブルムに行かれるんですよね?」
祈るように、行きますよねと確認した。
「ああ、もちろん行くよ。伯父上と会うのは久しぶりだから楽しみだよ。」
それを聞いて、リアはホッとして笑顔になった。
良かった・・・。
ジークフェルド様と二人きりとか色々無理だもの。
「でも、中期休暇の初めに前から決まっていた地方公務があるんだ。それが終わってから追いかけるよ。リアたちは折角だから先に行っててくれるかな。」
リアの笑顔が凍り付いた。
「・・・エリザベス様は?」
生徒会にはほとんど顔を出さないが、彼女も一応メンバーのはずだ。
最後の望みだ。
「エリーは無理だよ。卒業したらすぐ兄上との結婚式があるからね。中期休暇は忙しくてそれどころじゃないと思うよ。」
望みはあっさりと打ち砕かれた。
ジークフェルド様と2人旅・・・。
もちろん護衛騎士やお付きの人はいるんだろうけど・・・。
リンドブルムに行ったら、婚約者のお姫様を紹介されたりすることもあるかもしれない。
せっかく自分の気持ちに蓋をして、その日常に慣れてきたのに、今さらずっと2人きりで過ごさないといけないなんて運命は残酷だ。
中期休暇まで、リアは落ち着かない日々を過ごすこととなったのだった。




