第77話 トルドー親子
アンソニー・トルドーはイライラしながら公爵邸にしつらえた執務室で書類仕事をさばいていた。
今日の夕方の出来事を思い返しては、いら立ちが治まらなかったのだ。
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夕方、忌々しい男爵令嬢を呼びつけて追い出した後、ルーファスが血相を変えてここに入って来た。
「父上。リアを呼び出したと聞きました。彼女に何を言ったのですか?」
いつも冷静な息子の焦る姿にいら立ちを深めた。
「別に、身の程をわきまえろと伝えただけだ。昨夜も言ったが、金輪際あの娘にはかかわるなよ。」
その言葉を聞き、ルーファスはアンソニーを睨みつけ部屋を飛び出していった。
アンソニーは執事のヨハンに命じた。
「今日はルーファスを公爵邸から出すな。」
ヨハンは頭を下げ、執務室を出て行った。
父の部屋を出たルーファスは、学院に戻されたであろうリアをジークフェルドと一緒に追うつもりだった。
しかし屋敷の外に出ると、遠くを走る公爵家の馬車と、その後を追いかけるジークフェルドの馬車が見えた。
殿下はリアを追いかけたのか。
自分も他の馬車で学院に戻ろうときびすを返すと、ヨハンが後ろから近づいてきた。
「坊ちゃま。旦那様から今日はこのまま公爵邸から出ないようにとのご命令です。」
ルーファスは唇をかんだ。
父が命じたからには、御者も誰もルーファスの言う事を聞かないだろう。
走り去るジークフェルドの馬車をもう一度見た後、ルーファスはため息をついた。
今日は殿下方とヘンドリックに任せるしかないか・・・。
※
集中力が続かず、今日は早めに休もうとアンソニーが仕事の手を止めた瞬間、ヨハンが部屋に入って来た。
「旦那様。王宮のエミリア王妃様より、今からすぐに王宮に来るようにと連絡がございました。」
エミリア王妃?
「こんな時間からか?」
もうすっかり日も暮れている。
エミリア王妃は隣国のリンドブルムからアルノーに嫁いできた方だ。
リンドブルムは国土がアルノーの5倍ほどあり、豊かな鉱物資源に恵まれ、肥沃で広大な平野もあり農業もさかんだ。
一言で言うと、アルノーよりもあらゆる面で国力が勝る大国なのだ。
嫁ぐ前はリンドブルムの第一王女であり、兄である現国王との仲も良いことで知られている。
つまり機嫌を損ねるとまずい相手といえよう。
常識的な方だと思っていたが、こんな時間に急に王宮へ来いとは・・・。
今日は腹立たしいことが続くな。
不満に思いつつアンソニーは立ち上がった。
「わかった。今すぐ用意する。」
立ち上がった主人に、ヨハンは言いにくそうに付け加えた。
「あの・・・、坊ちゃまも一緒に連れてくようにとのことです。」
「ルーファスも?」
何の用だ?
仕事の話ではないのか?
疑問に思いつつアンソニーは執務室を出た。
王宮へ向かう馬車の中、アンソニーもルーファスも一言も発せず険悪な雰囲気が漂っていた。
ルーファスの顔色は青白く、悩まし気に眉間にしわをよせ目をつむっていた。
目を閉じる息子の顔を見つめ、アンソニーは苦々しく思った。
私に従順で優秀な自慢の息子だったのに・・・。




