第76話 王宮にて
王宮に着くとジークフェルドは出迎えた侍従に、叔母を呼ぶことと学院にいるクリスへの連絡をことづけた。
そして、ぐったりしているリアを再び抱き上げると、自分の部屋へ連れて行きソファに座らせた。
目が真っ赤になっている。
何と声をかけたらいいのか・・・。
クリスのように機転の利いたことを言うのは得意ではない。
ジークフェルドは無言でリアの隣に座り、そっと肩を抱き寄せた。
しばらくそうしていると、程なく廊下の方がザワザワし始め、ノックの音と同時にエミリアが血相を変え入って来た。
「ジーク。リアが襲われたって、どういうことなの?」
ジークフェルドは、リアがトルドー公爵に呼び出されたこと、公爵に何かを言われ泣きながら馬車に乗せられたこと、そしてそのまま下町に放置され町のゴロツキに襲われそうになったことを説明した。
話を聞くにつけ、エミリアの顔色はどんどん悪くなっていった。
「こんなか弱い女の子を男に襲わせるなんて・・・。」
叔母の顔にうかぶのは怒りだった。
「ああ、リア可哀そうに・・・。怖かったわね。」
エミリアは優しく微笑みながらリアをギュウっと抱きしめた。
「王妃様・・・」
母に抱きしめられたような安心感を感じ、リアは再び泣き出した。
「こ、こわ、怖かった・・・。もう駄目かもしれないと思って・・・。」
泣きじゃくるリアの背中をエミリアは優しく撫でてやった。
「もう大丈夫よ。安心して。ここにはあなたを害する者はいないのだから。」
どのくらいの時間そうしていただろうか。
リアは泣き疲れたのか、エミリアに抱かれたまま眠りついてしまった。
泣きはらした瞼が痛々しい。
エミリアはリアの顔にかかった髪の毛をそっと払ってやると、眠っているリアの頭を優しく撫でた。
「年頃の女の子を、あなたの部屋に置いておけないわ。私の部屋へ連れて行って。」
エミリアに言われ、ジークフェルドは眠るリアを両手で抱き上げ叔母の部屋へと運び込んだ。
叔母のベットに優しくおろすと、かけ布団をかけてやった。
エミリアはベットの脇に座ると、再び愛おしそうにリアの頭をなでた。
そして、部屋に控えていた女官長のマーサに命じた。
「トルドー公爵とルーファスを王宮に呼んでちょうだい。」
しばらく叔母と一緒にリアの側に付き添っていると、廊下がザワザワしだした。
「母上。リアが襲われたとは?」
クリスが血相を変えてエミリアの部屋に入って来た。
扉の向こうにヘンドリックの姿も見えた。
「しー。静かにして。リアはさっき寝たばかりなのよ。」
エミリアに注意されクリスは口をつぐんだが、その顔には不安と焦りが浮かんでいる。
「大丈夫だ。未遂のところで俺が助けた。」
ジークフェルドの言葉を聞き、クリスの顔に安堵の色が広がった。
「ヘンドリック。何をしている?お前も入れ。」
ジークフェルドが部屋の外に立つヘンドリックに声をかけた。
とまどう彼にエミリアも笑顔で頷いてくれた。
ヘンドリックはおずおず部屋に入ると、リアの寝ているベットに近づいた。
涙の痕は残っているが、穏やかに眠るリアを見てホッと息をはいた。
「ここでしゃべるとリアが起きてしまうかもしれないから、クリスたちにはジークの部屋で話してあげなさい。」
エミリアに促され、3人は頷いた。
「叔母上。トルドー公爵たちが登城したら、我々にも連絡をお願いします。」
ジークフェルドはそう言うと、クリスたちと叔母の部屋を出て行った。
リアが公爵邸を出てからの顛末を聞かせると、2人の顔色はどんどん悪くなった。
「公爵・・・。それは流石にやりすぎだ。僕はてっきり口頭で注意するくらいかと思っていたのに・・・。」
トルドー公爵のあまりの暴挙にクリスは怒りの表情を浮かべた。
一方、ヘンドリックは痛ましそうな表情を浮かべ王妃の部屋の方向を見た。
「リアちゃん。可哀そうに・・・。怖かっただろうな。」




