第70話 トルドー公爵
「ご子息が学院で男爵令嬢と懇意にしているという噂があるようですね。」
仕事の休憩中、部下からそんな話を聞かされアンソニー・トルドーは愕然とした。
「それは本当か?」
強い口調で詰問された部下は上司の反応に驚きつつも、昨日息子から聞いた話を上司に聞かせた。
「学院に通う息子から聞いた話なので、私も詳しくはないのですが。」
前置きをしたうえで、部下の男性は話を続けた。
「今年はリンドブルムから留学している王子の提案で、生徒会にくじ引きで入った生徒が2人いるそうなんです。そのうち1年生の男爵令嬢とルーファス様が一緒にランチを食べたり、高価なアクセサリーをプレゼントしたりしているという噂があるようなんです。」
アンソニーは信じられない思いで、その話を聞いていた。
トルドー公爵家はアルノー建国時から続き、王族からの降嫁も度々ある由緒正しい家柄だ。
その血統を守ることの大切さについて、幼いころから息子に嫌という程教育してきたつもりだった。
そして最後に部下が言った言葉が耳についてまわった。
「息子によるとかなり可愛いお嬢さんのようですよ。」
その男爵の娘は、美しい容姿でルーファスをたぶらかしたということか。
礼儀正しく、妻に似て容姿も端麗で優秀な一人息子はアンソニーの自慢だった。
妻亡き後、彼女の分も息子を立派に育てることを使命とし、これまで理想通りに成長してきていたのだ。
アンソニーは直ちにアーロン男爵家について情報を集めさせた。
その結論として分かったのは、男爵家は取るに足らない田舎の貧乏貴族ということだった。
調査報告書を読んで、アンソニーはルーファスの部屋を訪れた。
「父上、何か御用ですか?」
「おまえ、男爵家の娘と付き合っているというのは本当か?」
ルーファスは驚いて父親を見た。
「どうして、それを?」
息子の反応を見てアンソニーはがっかりした。
報告書を読んだ時は、デマかもしれないという思いもわずかにあったのだ。
しかし今のルーファスの反応を見て、それが事実であったと悟ったのだ。
「こんな田舎の男爵家の娘など許さんぞ。」
アンソニーは厳しい表情で、息子に宣言した。
「どうせ公爵家の地位と金目当ての女なんだろう。少し可愛いからと男をたぶらかすなんていやらしい娘だ。」
あまりに酷い父の発言にルーファスは思わず反論した。
「リアはそんな子じゃない。」
いつも従順な息子の反抗的な言葉は、アンソニーの心に油を注いだだけだった。
「正常な判断も出来ないほど骨抜きにされているのか。嘆かわしい。」
アンソニーは眉間に深いしわをよせ、ため息をついた。
「いいか、命令だ。その娘とは別れろ。わかったな。」
アンソニーはルーファスの返事を聞かずに、そう言い捨て部屋を出て行った。
一方、部屋に残されたルーファスは青ざめていた。
王子との誓約書があり、父にリアの事情を勝手に話すわけにはいかない。
本当のことを知れば、父は大いに祝福してくれるだろうが、リアを無理矢理公爵家に取り込もうと圧力をかけてくる可能性もある。
今日の様子だと、何か余計なことをしかけてきそうな予感がする。
ルーファスに似て、仕事が早いのだ。
とりあえず、明日王子たちに相談だな・・・。
ルーファスはため息をついた。




