5 アーロン領にて
「リア、僕だ。入ってもいいかい?」
父のカイルがリアの部屋をノックし、声をかけてきた。
「父さま。」
リアは扉を開け、カイルを部屋に招き入れた。
「明日の準備はできたかい?」
「うん。荷物は全部カバンに詰めたから大丈夫だよ。」
笑顔で答える娘をカイルは抱きしめた。
「リアが王都に行ったら寂しくなるな・・・」
「長期の休みには戻って来るわ。その時期はオレンジの収穫もあるでしょ。手紙も書くわ。」
リアも父に抱きついた。
カイルはそんなリアをひょいっと抱き上げた。
「心配だよ。リアはまだ小さいし。」
リアは来月から王都にある王立学院に通うことになっている。
アルノー王国の貴族の子女は15歳になると、学院に入学し3年間通うことが義務付けられているのだ。
リアは来月の末にやっと15歳になるので、おそらく学年で最年少になるだろう。
それに加え同年代の中でも発育が遅く、2歳下の使用人の子供と同じくらいの身長なのだ。
「小さすぎて制服のサイズがないなんて予想外だったけど、きっと今から大きくなるから大丈夫よ。」
リアは壁につるしたまっさらな制服を見て笑った。
一番小さいサイズもブカブカだったのだ。
オーダーメイドも出来ると聞いたが、値段を聞いてあきらめた。
アーロン男爵領はそこまで裕福ではないし、すぐに大きくなると思ったからだ。
「僕も昔、学院に通ったからね。王都の高位貴族が田舎者の下位貴族をいじめたりするのも見たことがあるし、心配だよ。」
「大丈夫よ。そんな高位の人には近づかないわ。学院で、うちにお婿に来てくれそうな人を見つけれたらいいなあって思ってるし、付き合う人も同じくらいの人たちになると思うわ。」
リアの言葉にカイルは再び彼女をぎゅっと抱きしめた。
「いい人を見つけてきて欲しいけど、リアが他の男に取られるのも嫌だな。複雑だよ。」
「フフ。父さまったら、そんなこと思ってるの?」
リアはアーロン男爵家の一人娘なので、将来婿を取って跡を継ぐことになる。
おそらく子爵家や男爵家の次男や三男あたりの誰かが相手となるはずだ。
王立学院は、こうした貴族の婚活の場でもあるのだ。
「それはそうと、リア。そのメガネ、眼科の先生はそろそろ外してもいいかもしれないとおっしゃってたけど、中期休みに入る前まではつけておくんだよ。」
「メガネ?」
リアは小さいころから遠視が強く、治療のために度の強いメガネをかけていたのだ。視力は改善し安定してきたので、次の受診時に良ければメガネは卒業できると言われている。
「リアは可愛いから、男子生徒がよってくるかもしれないだろう。そのメガネがあれば虫よけになる。学院生活は3年もあるし、相手はゆっくり見つけたらいいよ。」
「私を可愛いなんて言うの、父さまだけだよ。」
リアはカイルに抱きついた。
見た目はもちろんカッコいいに越したことはないけど、それより優しくてまじめに働いてくれて、私や父さまを大事にしてくれる人が見つかればいいなあ。
そんな希望をもって、リアは来月からの学院生活に夢をはせるのだった。




