第32話 ワッツ伯爵家
夕方になり、リアはイーリスとイオ、イルの三人と一緒にワッツ家の馬車が門の前にくるのを待っていた。
「今日、風が強いね。」
ビュービューと吹く風に、スカートや髪の毛がまきあげられる。
「きゃあ。」
リアが制服のスカートを押さえた瞬間、ポニーテールに結んでいたリボンがほどけ風で舞い上がってしまった。
「あっ、リボン!」
もらったばかりの大切なリボンだ。
リアは急いで飛んでいくリボンを追いかけた。
ヒラヒラと舞うリボンは、ワッツ家の庭木の枝にひっかかった。
下から見上げると、けっこう高い位置である。
4mくらいあるかも。
リアが、唇を噛みしめ上を見ていると、後ろから追いかけてきたイオが声をかけてきた。
「あの青いリボンだな?」
リアが頷くと、イオは少し離れたところから助走をつけ、ジャンプしてリボンを取ってくれた。
背の高い人は、腕も長いのね・・・
そんなことを思いながらリアは尊敬の眼差しでイオを見た。
「ありがとうございました。イーリスにもらった大事なリボンだったんです。」
リボンを受け取り、礼を言った。
そして二人で再び門の方に向かった。
「領地の特産品がオレンジなんですけど、毎年、収穫を手伝ってるんです。小さいから、木を移動するごとに脚立も運ばないと行けなくて大変なんです。イオさんだったら普通に高い位置の実もとれそうでいいですね。」
そんな話をしながら門に戻ると、馬車が到着していた。
「みなさん、今日はありがとうございました。とても楽しかったです。」
リアは馬車に乗り込み、満面の笑みで馬車の窓から手をふった。
リアが去ったあと、イオがつぶやいた。
「俺、騎士を辞めようかな・・・。」
兄のつぶやきを聞いてイルが目を丸くした。
「はっ?兄さん、何言ってんだ?」
「今のリアの言葉って、俺に領地に来て欲しいって意味じゃないのか?」
リアと結婚してオレンジ農家になる。
それもいい人生かもしれない。
イルはあまりにもお花畑な兄に活を入れた。
「兄さん、頭わいてんのか?リアは、ただ単に背が高いと便利ですね、って言いたかっただけじゃん。それ以外の意味とか無いだろ。」
「そ、そうなのか・・・。」
がっくりと肩を落とすイオを見て、イーリスは思った。
今のところ、リアがイオ兄さんを好きということはないだろうけど、二人が万が一結婚するようなことがあれば、私はリアの義妹になるのか。
それは、なかなか素敵なことかもしれない。
密かに兄の初恋を応援しようとイーリスは決意したのだった。




