第29話 ワッツ伯爵家
イーリスがリアに駆け寄ってきた。
満面の笑みだ。
「リア、すごいじゃないか。イル兄さんから一本取るなんて!」
「あれ、一本取ったっていうのかな?」
ポコっと足首に当たっただけのような気もする。
「ああ。一本だ。木刀が身体に当たったし。」
イルもゆっくりとリアに近づいてきた。
「いやあ、びっくりしたぜ。こんなちびっこに一本取られるなんてな。」
こちらもいい笑顔だった。
そして、そう言うなり、ガバッとリアを両手で抱き上げた。
高い高いの状態だ。
「すごいぞ、おまえ。攻撃の位置が低すぎて、めっちゃやりにくかったわ。」
本当に楽しそうだ。
私、もう15歳だし、この体勢はなくない?
リアが心の中で涙目になっていると、イオが突然割り込んできた。
「おい。俺もやりたい。」
イルはリアを高い高いした状態のまま兄を見た。
「はっ?イオ兄さん、さっき俺にリアの相手押しつけたじゃん。今さら何言ってんだよ。」
「こんなに動ける子と思わなかったんだよ。」
イルはリアを下ろし、イオと言い合いを始めた。
「はいはい。いっぱい動いてリアはもう汗だくだし、イオ兄さんはまた今度ね。兄さんたち、筋肉だるまの自分たちと一緒にしたら駄目だよ。」
イーリスが二人の間に入った。
それを聞いて兄二人も大人しくなる。
「次は、私とイオ兄さんで模擬試合をしようか。リアは見ていて。」
「わあ、イーリスがやるの?楽しみだなあ。」
リアはワクワクしてイーリスとイオを見た。
イオと目が合い、激をとばした。
「イオさんも頑張ってください。」
「お、おう。」
イオは顔を赤くしながら、木刀を手にスタスタと道場の中央に向かった。
そんな兄の後ろ姿を見て、イーリスは思った。
うわあ、まずいかも。イオ兄さん、なんかすごくやる気に溢れてる。
リアにいいところ見せたいんだろうな・・・。
二人は剣を構え、向き合った。
イーリスが小声でイオにささやいた。
「イオ兄さん、張り切るのはいいけど、ちゃんと手加減してね。」
イーリスも騎士を目指してはいるが、イオとは経験の差以前に、男女差もあれば、体格差もある。
本気でかかられたら瞬殺されてしまう。
「ああ、そうだな。分かってる。」
イオは、そういえばそうだったという風に頷いた。
「始め!」
イルの号令で試合が始まった。
イーリスが攻めて、イオがそれを受けている。
二人共大きいので迫力があった。
「二人とも頑張って!」
リアは手に汗を握り、ドキドキしながら応援していた。
体格差を考慮して、攻めはイーリスからと二人の間で暗黙の了解があるのかもしれないが、ずっと攻め込まれているイオにリアは思わず声援をおくった。
「イオさんも頑張って!」
その声が引き金になった。
リア、それはまずいよ・・・
イーリスがそう思った瞬間、打ち返してくるイオの力が段違いに強くなった。
「うわっ!」
イーリスは刀ごとはじき飛ばされ、道場の端で見ていたリアの方に飛んで行った。
いつぞやの体育の授業でリアがイーリスに飛ばされた時と同じだった。




