第145話 離宮の警備
その日、ライアンは夜勤の仕事が入っていた。
東の離宮にグラシアスの皇子が滞在しているのだ。
近衛騎士は本来リンドブルム王族の警護が仕事だが、外国の要人の警護を任されることもあった。
ったく、仕事増やしやがって。
あの皇子様はいつ国へ帰るんだ?
心の中でブツブツ文句を言いながら、更衣室で夜勤の準備をしていると日勤だったルイと遭遇した。
「あれ、ライアン。今日、夜勤なの?」
「ああ。正直、迷惑だよな。もう2週間以上だぞ。いつまでいるんだ、あの皇子。」
「しー。グラシアスの皇子だよ。こんな所でそんな事言わない方がいいよ。」
もっともなルイの言葉にライアンは黙り込んだが、不満が顔に現れていた。
「不満そうな君に、一ついいことを教えてあげよう。昨日から東の離宮にリアちゃんが滞在しているよ。」
面白そうなネタにライアンはパクっと食いついた。
「マジか?何でそんなことになってるんだ?」
死んでいた目が好奇心でキラキラし出した。
先程の不機嫌が嘘のようである。
「アルフォンス殿下の希望で3日間リアちゃんがこっちに移る事になったらしいけど、詳しい理由は僕も知らないよ。」
「それって、うちの殿下の危機ってことか?」
うちの殿下とは、もちろんジークフェルドのことだ。
「そうだねえ。日勤の時、離れた所から見ていたけど、アルフォンス殿下がリアちゃんを攻めてる感じかな。リアちゃんは及び腰なんだけど、ぐいぐいいかれていつの間にか殿下の言う通りにさせられちゃうみたいな。午後なんかアメジストのピアスをつけられてたよ。」
ルイの言葉にライアンは天を仰いだ。
「ああ、神よ。我らの殿下に祝福を・・・。」
※
離宮の警護は、建物の内と外で時間ごとの交代制になっていた。
ライアンが外回りの警護をしていると、森の方からカサカサという音が聞こえた。
賊か?
ライアンは真剣な表情で音のする方へ顔を向け、いつでも剣を抜けるよう柄に手をかけた。
しかし、森から現れた人物を見て目を丸くした。
「殿下?」
「しー。」
ジークフェルドは人差し指を口に当てた。
ライアンは音量を落とし尋ねた。
「こんな時間に、こんな所で何を・・・」
途中まで言いかけてピンときた。
ははあ。
このやんちゃ坊主が、好きな女をかっさらわれてじっとしているはずがない。
ライアンは、世の女性が見たら卒倒しそうな極上の笑みを浮かべた。
「3階の角部屋ですよ。」
「えっ?」
聞き返してきたジークフェルドに、再度言い直した。
「リア様のお部屋でしょう?3階の角部屋。あそこです。」
ライアンが指さす方を見ると、角の部屋に明かりがともっていた。
森に一番近い位置だ。
3階だが、木を登ればジークフェルドの身体能力ならテラスに飛び移れるだろう。
「サンキュ。おまえが夜勤でラッキーだった。」
今すぐにでも部屋へ向かおうとするジークフェルドにライアンが声をかけた。
「私が外回りの時間帯は大丈夫ですが、あと30分ほどで交代です。」
ジークフェルドは頷き、走り去った。
その後ろ姿を見送りながら、ライアンは思った。
次の飲み会のネタ、ゲット!
空に浮かぶ丸い月をライアンはご機嫌で眺めたのだった。




