第143話 満月の夜
結局ピアスは外してもらえず、リアはすごすごと部屋へ戻ることとなった。
まだ眠たくなかったので、昼間2人で読んだ演劇の本をパラパラめくって眺めた。
繊細な挿絵を眺めるだけでも充分楽しめた。
やがてそれにも飽き、ふと窓の外を見ると明るい月が光っているのが目に入った。
満月かしら?
リアは立ち上がるとガウンをはおり、テラスの方に出た。
テラスからは真っ黒な離宮の森が広がるのが見え、空には明るい満月が浮かんでいた。
「きれい・・・。」
ぼうっと月を見ていたが、森の木がガサガサと鳴る音が聞こえ、リアはそちらに視線を移した。
初めは風で木が揺れたのかと思ったが、木々の間に人の影が見えた。
一瞬、賊かと思い身を固くしたが、よく見るとそれは良く知った人物だった。
ジークフェルド様?
リアが名前を呼びかけようとしたら、ジークフェルドは無言で人差し指を口に当てた。
静かに、ということか。
リアは口元に両手をあて、ブンブンと頷いた。
ジークフェルドはさらに上の方まで木を登り3階の高さまで来ると、太めの枝を伝って離宮の方に近づいてきた。
そしてある程度の所まで来ると両手で枝にぶら下がった。
その後、勢いをつけたかと思うと、空中ブランコのようにその身体が宙に舞った。
気付いた時にはジークフェルドはリアの目の前に立っていた。
月の光が煌々と彼の姿を照らし、金色の髪がキラキラと輝いて見えた。
「リア。会いたかった。」
ジークフェルドはそう言うとリアを抱きしめてきた。
「私も会いたかったです。」
リアもそろそろと両腕を伸ばし、ジークフェルドに抱きついた。
「よくこんな所まで見つからないで来れましたね。」
その言葉にジークフェルドはニッと笑った。
「ここは俺の家だからな。抜け道はいっぱい知ってる。」
リアは胸がキュンとした。
そう、王子様なのにこういう悪ガキのようなヤンチャさがジークフェルドの良さなのだ。
公爵家の帰りに男達に襲われかけた日も、貴族ならまず立ち入らないような下町に颯爽と現れ、一人で三人の荒くれ者を倒してくれた。
あの時からジークフェルドのこういうところに惹かれているのだ。
リアがジークフェルドの胸に顔を寄せていると再びギュウっと抱きしめられた。
しばらくそうしていたが、満足したのかリアを抱きしめる力をゆるめた。
「アルフォンス殿下は大人で落ち着きもあるし、リアを取られるんじゃないかと思うと居ても立っても居られなかったんだ。」
ジークフェルドの言葉にリアは胸が熱くなった。
「アルのことは好きだけど、そういうのじゃないんです。父さまみたいな・・・うーん。兄さまみたいな感じでしょうか。」
リアの言葉にそうか、と頷きかけてジークフェルドはピキッと固まった。
「アルフォンス殿下のこと、アルって呼んでるのか?」




