第137話 アルフォンスの事情
東の離宮でリアと1日過ごし自室に戻ったアルフォンスはグラスにワインをつぎ、ソファに腰かけた。
窓から見える満月というにはほんの少し欠けた月を見上げ、リアと出会った時のことを思い返していた。
小麦の品種改良で有名なモーリス教授と接触するため、アルノーに入り学院内で行動するのに必要な立場を手に入れた。
モーリス教授は偏屈で気難しい人物だったから、じっくり交渉する必要があったのだ。
努力の甲斐があり、思いの他交渉は順調に進んだ。
これならアルノーからは早々に引き上げられるな。
そう思っていた矢先、生徒会がくじで役員を決めることにしたという話を耳にはさんだ。
今年の生徒会はこの国の第2王子だけでなく、留学中のリンドブルムの王子まで在籍していた。
自分も皇子という立場だったから、どんな人物が入るかわからないそのようなリスクの高い行動をとることに違和感を感じた。
何か目的があるのだろうか?
初めは、ちょっとした好奇心で情報を集めただけだった。
2年生のヘンドリック・モーリスはモーリス教授の甥だったし、成績も優秀な人物だった。もしかしたらリンドブルムの王子がモーリス教授との繋がりを作る足掛かりにするつもりなのかもしれないと思った。
問題は1年生の女生徒の方だった。
こちらは調べても何も出ない、ただの田舎の男爵令嬢だった。
まさか、本当に王子たちの道楽でくじ引きを行ったのか?
そう思い、もうこの件からは手を引こうと思った。
その反面、やはり何かあるのでは?という勘みたいなものが働いた。
もう少しだけ調べてみるか。
アルフォンスは1年生の植物学の授業の担当を譲ってもらい、授業を通してリアと接触することに成功した。
授業で初めてリアをじっくり見た時は、垢抜けない田舎の子という印象で、やはり自分の考えすぎだったかと思った。
しかしそれ以降、予想外にリアに植物学の先生として懐かれてしまったのだ。
生徒会のない日や、時間があれば植物学教室に来て、稼業のオレンジ栽培についてや穀物栽培、果ては家畜の育成についてまで相談された。
初めは少し面倒な気もしたが、こんな小さい子供が真面目に領地のことを一生懸命考えていることに次第に好感を覚えるようになった。
そして、応援してあげたい気がして質問に丁寧に答えていたら、ますます懐かれることになったのだ。
リアは素直で明るく、性格の可愛い子だった。
そして真面目で、何にでも一生懸命に取り組む姿勢も好ましかった。
正直、身分の関係なく気楽に話せるリアと一緒にいることがたのしかったのだ。
しかし、アルフォンスは後継争いの真っただ中で暇な身ではなかったし、モーリス教授との交渉もほぼまとまったこともあり、そろそろ学院を去ろうかと思い始めていた。




