第110話 お見舞い
中期休暇に入ってすぐ、ヘンドリックは以前受傷した膝の手術を受けた。
手術は無事成功したが、リハビリもあるためしばらく入院生活を送らなければならなかった。
リハビリの時間以外はとても暇だったので、様々な書物を持ち込んでベッドの上で読むことが毎日の日課になっていた。
入院してから1週間ほど経ったある日、その時もベッドの上で本を読んでいた。
トントン
病室がノックされた。
検温の時間にはまだ早いのに、誰だろう?
そう思いながら返事をした。
「はい、どうぞ。」
扉を開け入って来たのは意外な人物だった。
「ルーファス?どうしたんだい?」
それを聞きルーファスが不機嫌そうな表情を浮かべた。
「どうしたって、入院中の友人の見舞いに来たんだろうが。」
「友人?」
ヘンドリックは驚いた。
生徒会メンバーとして認識されているとは思っていたが、彼は自分を友人と思ってくれていたのか。
ヘンドリックの言葉が気に食わなかったのかルーファスは更に不機嫌になった。
「違うのか?」
「いや、違わないけど。来てくれて嬉しいよ。ありがとう。」
ニコニコと本当に嬉しそうに笑うヘンドリックに機嫌を直したのかルーファスが菓子の包みをずいっと渡してきた。
「見舞いだ。」
”ピエール・エミル”
包み紙に書いてある店名が目に入った。
ミント大通りにある高級菓子店だ。
なかなか庶民には手が出ない値段の店だと以前リアから聞いたことがある。
「なかなか手に入らないやつだよね。リアちゃんがすごく美味しかったと言っていたから僕も食べてみたかったんだ。ありがとう。今から一緒に食べようか?ルーファスもそこに座って。」
ヘンドリックはルーファスに病室に置いてあった椅子を勧め、ベッド横のサイドテーブルに菓子を出し皿に並べた。
「膝はもういいのか?」
「うん。手術は成功して、今はリハビリをしているんだ。休み明けには杖無しでも歩けるだろうって言われてるし順調だよ。」
しばらくもくもくと2人で菓子をつまんでいたが、ヘンドリックがルーファスに話しかけた。
「リアちゃんたち、どうしてるかなあ?ジークフェルド王子と2人きりで道中は大丈夫だったのかな。もう、リンドブルムに着いてるだろうけど。」
ヘンドリックは自分が同行できないと伝えた時のリアの残念そうな表情を思い出していた。
「馬車の中で王子と会話が続かず寒いことになってそうだな。」
ルーファスが冷笑しながら答えた。
「ハハハ。行きがジークフェルド王子と2人だけって知った時のリアちゃん、すごく不安そうだったもんね。まあクリス王子が北部から直接リンドブルムに行くっておっしゃってたから、もう合流しているかもしれないね。」
ヘンドリックもおかしそうに笑った。
「ああ、そうだな。」
再び会話が途切れ、部屋に静寂が訪れた。
しかし、意外なことにお互い無言でも居心地が悪い気が全くしなかった。
いつの間にか、ルーファスにこんなに気を許してたんだな・・・。
生徒会で一緒になった当初、むしろ苦手意識を持っていた相手だった。
自分でも意外な気持ちになりながらも、ヘンドリックは少し自分のことを話てみたくなった。




