第108話 クリスとの夕食会
ショネル夫人との衣装合わせは戦場のようだった。
とっかえひっかえ替えられるドレス。
ドレスが決まれば、どこを詰めるかミリ単位での補正が行われた。
それが終わると髪型を決め、髪飾り、アクセサリーの選択・・・。
オースティン公爵家のローレンもこだわりが強く仕事に妥協がなかったが、ショネル夫人はそのはるか上をいっていた。
夫人が満足そうな表情を浮かべ帰って行った時にはリアは立っているのがやっとの状態だった。
自室に戻りベッドの上でぐったりしていると、程なくして夕食の呼び出しがあった。
疲れすぎて、お腹空いてないなあ。
でも、クリス様の歓迎会も兼ねてるって言ってたし・・・。
クリスの存在を思い出すと同時に、昼過ぎに恥ずかしいところを見られて気まずい状態で別れたことも思い出した。
ああ、そうだった・・・。
あの後ジークフェルド様と2人で何を話されてたんだろう?
恥ずかしさと不安が同時に襲ってきた。
はっきり言って、今はクリスに会いたくない。
「でも夕食会に行かない選択肢はないしなあ・・・。」
リアは起き上がり、諦めて支度を始めた。
食堂に着くとジークフェルドとクリスがすでに座っていた。
「やあ、リア。ショネル夫人の衣装合わせはどうだった?大変だったんじゃないかい。」
クリスがいつものにこやかな表情で尋ねてきた。
「ええ、もう凄かったです。」
リアは心から頷いた。
その後の夕食会は、ショネル夫人の話から始まりクリスの公務の話やリンドブルムまでの道中の話など、この1週間にあったことが話題となった。
話は弾み楽しい時間が過ぎた。
しかし主に話すのはリアとクリスで、ジークフェルドは時々相槌を打つくらいだ。
ああ、アルノーの生徒会ではこんな感じだったなあ。
クリスとリアとルーファスが会話をし、ヘンドリックが時々それに入り、ジークフェルドは話を聞いているだけ。
休暇に入ってたった1週間しか経っていないが、懐かしい感覚だ。
ところが、食後のデザートが済むと直ぐにクリスが席を立ってしまった。
「色々話せて楽しかったよ。今日はアルノーからの移動で疲れたし、僕は早めに休ませてもらうよ。おやすみ。」
リアは少し拍子抜けした。
明日のことについて、もう少し3人で相談をしたりするのかと思っていたのだ。
クリスの背中を見送って彼が食堂を出てしまうと、急に部屋の中が静かになってしまったように感じた。
「私も衣装合わせでくたびれたので、早めに寝ますね。私たちも部屋に戻りますか?」
リアとジークフェルドの部屋は隣同士だ。
一緒に戻ろうとジークフェルドを促した。
「リア。ちょっと話たいことがあるから、少し俺の部屋で話さないか。時間は取らせない。」
すぐに終わる話ならここで話しては駄目なのかな。
そう思ったが、ジークフェルドの真剣な表情につられて反射的に頷いてしまった。
部屋へ戻る道中並んで歩いていると、ジークフェルドがリアの肩に腕をまわし自分の方へ引き寄せた。
その時、初めてリアは昼間の出来事をクリスに全く触れられなかったことに気付いた。
夕食の時、クリスがにこやかであまりにもいつも通りだったので、すっかりその事が頭から抜け落ちていたのだ。
「あの・・・、お昼間のことクリス様には何て?」
リアはドキドキしながら尋ねた。
「そのこともまとめて部屋で話す。」
そう言うと、その後は肩を抱かれたまま無言で部屋まで歩いたのだった。




